作品タイトル不明
隣国の馬鹿王子のプロポーズ
私はヘンゼッタ王国第二王子のメイルスデビアス。今は城の会議室に向かうため、護衛や側近たちを引き連れて廊下を歩いている。
「なぁ、ブリッド。夜の廊下ってのはどうだろう?」
「廊下? 見回りをしている警備の者が気を使いますよ」
こいつは私の最側近のブリッド。幼馴染というか、親友というか、小さな頃から私と一緒に育った。ブリッド曰く、「私の最高傑作が王子なのです」ということで、こいつは教育に向いていない。
「じゃあ、その日だけ見回りをやめて貰うとか?」
「……正気ですか?」
ブリッドがすごく嫌そうな顔をするので、夜の廊下はあきらめた。
実は今、プロポーズのための完璧な場所を探している。相手は聖女様の救出で出会った侍女のスージー。童顔で可愛らしい彼女の心はとても強く、賢く狡猾で毒舌だ。いや、私には決してそういう趣味はない。私は自他ともに認める馬鹿王子なので、賢くてきちんと私に意見が出来る者でなくては困るのだ。
「ね、ね、だったら夜の屋上は?」
「夜の高所の風の強さ、舐めてます?」
ブリッドには夢がない。
――護衛や側近たちと昼食中
「なぁ、ブリッド。スージーの部屋に大きなケーキを……」
「却下です」
ブリッドが食後のプリンをスプーンですくって口に入れた。
「まだ、全部言ってないだろ」
「その大きなケーキを作らされる職人と、それを運ばされる使用人が可哀そうです」
うーん。大きいケーキだと運ぶのにも苦労するのか。それは盲点だった。それに、腐る前に食べるのも大変か……。
「小さいのだったら?」
「小さくていいのですか? ……って、『あ!』って顔しないでくださいよ」
「ただの差し入れになることに気付いただけだ」
この世の夫婦はどこでプロポーズをしたのだろう。
――国王の執務室、国王と
「プロポーズ?」
「ええ、父上は母上に、どこでプロポーズをしたのですか?」
父上は机に向いていた顔を上げた。
「政略結婚だったから、プロポーズも何も……って『あ!』って顔するな」
そうだった。父上は政略結婚だった。財政難だったこの国の為に海の向こうの国から母上を迎え入れ、今は魔宝石を輸出している。
「聞く人間を間違えました」
「いや、そういう問題か?」
父上がブリッドや側近たちを見回すと、ブリッドが呆れたように首を振った。
「国王様からも言ってやってくださいよ。ここ最近ずっとこれで……」
「ここ最近? こいつ、そんなに馬鹿なの?」
護衛たちも苦笑いで肩をすぼめた。
――夜の温室にて
なんでだよ! 私は馬鹿だから、失敗しないようにみんなに聞いて回っているのに! ブリッドだってもっと協力してくれったっていいのにさ!
私は温室の中央にあるベンチに腰を下ろした。時々私はここで花を眺める。背もたれに寄りかかり天井を見上げると、ガラス越しに大きな月と無数の星が輝いていた。その光は静かに佇む花々を照らしている。静寂の中、噴水から水のささやき声が響いていた。花の甘い香りが私の心を落ち着かせていく。
「そういえば、リリーは元気にしているだろうか。幽閉されたって話だよな」
彼女はこの温室が好きだった。緑の多いシルバリークを思い出していたのだろうか。
「教会本部の幽閉塔ですよね。日の当たる運動場があり、聖女様も面会に足を運ばれているそうですよ」
側近の一人がそう言った。
「そうか……」
第一王子の兄は、聖女様拉致事件の首謀者として城の地下牢に幽閉された。面会も許されない厳しい処分。人として生きる権利を奪われたのだ。ジメジメして日も当たらなく、きっと長く生きることは出来ないだろうな。
「リリーの境遇が、兄と同じでなくて良かったよ」
「王子は聖女様の代わりなら、だれでも良かったのですか?」
そうなんだよなぁ。あの顔なら、中身はどうでもいいと思ったのに。今思うと馬鹿だったよなぁ……って、私は馬鹿王子だから仕方ないのか。
「いや、リリーを好きになることはなかったな。それに聖女様とも友達以上にはならなかった」
いつの間にかブリッドや護衛たちが温室を出て、側近の彼女と二人きりになっていた。
「なぁ、スージー。ここでプロポーズするのはどう思う?」
次の瞬間、私は衝撃と共に温室の床に倒れ込んだ。スージーに、グーでぶっ飛ばされたのだ。
え? 何で?
「良いと思いますよ」
侍女から側近になったスージーは、ニッコリ笑って手を差し出した。
「け、結婚してください」
「はい」
私はスージーの手を取って起き上がる。
「え、待って? はい? はいって言った?」
「ええ、言いましたよ。後のことはよろしくお願いしますね」
「え? 後の事? いや、今は純粋に喜ぼう! やった! やった!」
初めてスージーを抱きしめた。こんなに華奢で細かったんだ。私の中の何かが変わった瞬間だった。
◆
――シルバリーク王国教会本部、マリーとハートとテッド
「というわけで、メイルスさんがぶっ飛ばされた理由が判明しました」
「それは、仕方がないな」
「噂通りの馬鹿王子ですね」
ははは、テッドさんは相変わらず口が悪い。
側近になったスージーは、ずっと自分へのプロポーズの相談を聞かされていたのだ。そりゃあ王様も護衛たちも戸惑うよね。