軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フェルネットさん

師匠とハートさんが 埃(ほこり) まみれで戻ってきた。

ガインさんのお母様は「あらあら。男の子は元気ねぇ」と笑っている。

師匠も男の子にされててちょっと笑ったら、何故かバレて 睨(にら) まれた。

てへ。

「風呂借ります」

「あっちの奥よ。あなた、案内してあげて」

ガインさんのお父様がふたりを連れて部屋を出て行く。

「マリー。あのふたり、何してたんだろうね?」

「あんまり詮索してはダメですよ」

フェルネットさんは「ふふん」と鼻で笑って人の話を聞いてないし。

本当に子供なんだから。外じゃキリッとしていて別人なのに。

「ねぇ。僕、おばさんが作るシチューが食べたいな。あれ大好きなんだ」

「あら、嬉しい事を言ってくれるじゃないの。それなら夕飯はシチューにしましょうね。ラウラ、手伝ってちょうだい」

それを聞いたビーガーさんは、ラウラさんからベルクくんを嬉しそうに預かる。

「いいねー。今日はあれが食べられるのか」

「ビーガーも大好きだものね」

へぇ、みんな好きなんだ。楽しみだなぁ。

お母様とラウラさんが腕まくりをしてキッチンに向かったので、私も後に付いて行った。

「あのう、お手伝いさせて頂いてもよろしいですか?」

「旅で疲れたでしょう? 座ってていいのよ」

ラウラさんはそう言いながら、大鍋を取り出そうと腕を伸ばして吊り戸棚の扉を開けている。

「いえ、その……。シチューの作り方をぜひ、教えて頂きたいのです」

「あはは。それは嬉しいね。じゃ、あっちの箱に入っている野菜を持ってきてくれる?」

「はい!」

ガインさんの子供になるのなら、この家の味を覚えたい。

そして私の家の味になって受け継ぐのだ! なんかカッコいい。

私は芋を手に取って得意の皮剥きを披露した。

「上手ね」

「えへへ。おじいさまのお手伝いを時々していたので……」

リリーの方がずっと上手だけど、私もそれなりには出来ると思ってる。

お母様は頷くと、ほんの少しだけ癒しの効果のある薬草を取り出して刻みはじめた。

あれは熱に弱くて効果も薄いし、香りも味もしないけど、何の役に立つのだろう?

「あれはね、肉が凄く柔らかくなるし臭みもなくなるの」

「ええ!? これにそんな効果が?」

薬草をじっと見ていたら、ラウラさんが教えてくれた。

「うちの先祖からの知恵なのよ」

「へぇ。では、私も引き継げますね!」

私が笑顔を向けると、お母様は目を細めて笑う。

これが秘伝っていうのかな。うふふん。

ああ。リリーにも、こんな温かい人達と会わせてあげたかったなぁ。

せめて差し入れくらいはと、私は気合を入れてメモを取った。

「マリー。ガインの事ありがとうね」

「そうそう。兄さんは一生独り身かと思って心配してたのよね」

ふたりは顔を見合わせて頷きあっている。

「こちらこそ、今までの事もこれからの事も、本当に感謝しているのです」

「たかが紙っぺら一枚って言うけど、そんなものが無くても一生家族だって言える関係と、そうすることで安心できる関係。私はこれが一番いい形だと思うのよ」

ふたりは包み込むように微笑んでくれた。

そう言って貰えて良かった。私もこんな人になりたい。

「わたしはガインの母だけど、マリーの母のつもりでもいるからね。いつでも頼って頂戴ね」

「兄さんが結婚でもしてくれたら良かったんだけど、冒険者だからね。遠征に出ると長くなるし……」

確かに家を空けることの多い冒険者は、同業者との結婚が多いけど……。

そう言えば、師匠はあの食堂の女将さんと長年いい感じだけど、ガインさんの浮いた話を聞いた事がないな。

フェルネットさんはモテるから、時々女子とデートしてるし。

テッドさんは真面目過ぎて想像できないけど、冒険者仲間の兄貴分的存在のガインさんがモテないとは思えないのに……。

「みんなー。シチューが出来ましたよー」

私がリビングに顔を出すと、男性陣が一斉に立ち上がり、ガヤガヤとテーブルにお皿を並べたりキッチンから鍋を運びはじめた。

なんだか親戚の集まりみたい。

「ねぇねぇ。シドさんとハートさんは何してたの?」

フェルネットさんが満面の笑みでシチューを食べながら、目を輝かせて聞いている。

「戦ってた」

ぶっきらぼうにハートさんがそう言った。

「「なんで?」」

ガインさんとフェルネットさんが口を揃える。

いや、ホントになんで?

「何となくだ。な、ハート」

「ああ」

何となくで男の人って戦うんだ。

よく分からないけど。

「全然分かんないよ」

フェルネットさんがそう言うので、やっぱりこの二人がおかしいのか。

「書類の手続きをしようと思ってな」

「「書類の手続き?」」

またしてもこの二人が口を揃えてる。

「実質、ハートは私の息子だが書類はまだだったからな。ガインたちがそうするのなら、私たちもって話だ。大したことじゃない」

きっぱりと師匠がそう言ってハートさんを見る。

「僕もー!」

「「「「はぁ~!?」」」」

私も含めて、その場にいる全員が呆れた顔をした。

フェルネットさんて、末っ子だけど貴族でしょ。いくら何でも……。

「はぁーー。お前なぁ……」

ガインさんが呆れて、更に大きなため息を吐いた。

「大丈夫だってー。僕の家族はそんなの気にしないから」

するとみんなが一度斜め上を見た後に「ああ」と納得している。

えぇ……。納得するんだ。フェルネットさんの家族っていったい……。

「お前さんの件は、お前さんの家族の承諾を得たら考えてやる」

師匠にそう言われて、フェルネットさんは嬉しそうに頷いた。

後日きっちりと承諾を得て戻って来て、ハートさんと兄弟になったと言いふらしている。

「いいのですか?」

「昔からああだからな」

ハートさんも家族が増えて、まんざらではない様子で笑っていた。