作品タイトル不明
冒険者へ依頼
「私この人きらーい」
リリーがテッドさんを 指差(ゆびさ) してそう言った。
もー。
「リリー! これからリリーの旅の為に冒険者を雇いに行くの! 私が一緒に付いて行くから護衛にハートさんとテッドさんが付くの!」
「ハートだけでいい。ガインとフェルネットは?」
リリーは不満そうに頬を膨らませて辺りを見回す。
「ハート さ(・) ん(・) 、ガイン さ(・) ん(・) 、フェルネット さ(・) ん(・) 。呼び捨てにしないで。それに私の為の護衛だから我が儘を言わない」
「マリーばっかりズルいんだから」
「何と言われようと我が儘は許しません!」
なんだか最近の私ってば、ノーテさんに似て来たな。
テッドさんがその様子を見てクスッと笑う。
「ほら、 膨(ふく) れてないで。行こう」
私はリリーの腕を引っ張り医務室を出る。
廊下に待機していた聖騎士達が私達の周りを囲み、凄い厳戒態勢だ。
別に襲撃を警戒している訳じゃない。リリーの脱走を警戒しているのだけれど。
既にリリーのステータスには王都永久追放が刻まれている。
絶対に逃げられるはずが無いのに、これだけ信用がないのは日頃の行いだと思う。
「ハートは?」
「馬車の安全確認に」
教会の紋章の付いた馬車の前で制服を着たハートさんが 凛々(りり) しく立っている。
ハートさんは私に気づいて手を取ると、テッドさんはリリーの手を取り馬車に乗せた。
「私もハートが良かった」
「だから! ハート さ(・) ん(・) と何度言えば」
それから私はガインさんが私に言うように、リリーに旅の注意や心構えなどを細かく説明をする。
リリーはそれをうんざりした顔で聞き流していた。
「あとで困るのはリリーなのよ。後悔しても遅いからね」
「分かってるってばー。マリーは父さんや母さんやキリカより 口煩(くちうるさ) い」
うるさ……。むぅ!
「 煩(うるさ) いって言わない。心配して言ってるの。二度と失敗したくないでしょ?」
「そうだけど。そんなにいっぺんに言われたら忘れちゃう」
「頭の片隅にしまっておいて。いつか思い出すから。その時に死ぬほど私に感謝するのだから」
「そんなもの?」
「そんなもの」
私が呆れてため息を吐くと、ハートさんとテッドさんが顔を 背(そむ) けて笑っていた。
しまった。思いっきり素になっていた。
でも今更かな。それに、相手はリリーだし。
私は再び気合を入れて、うんざり顔のリリーにガミガミとこれからの事を言い聞かせた。
ガクンと一度大きく揺れて馬車が止まると聖騎士によりドアが外から開かれる。
外を見るとギルドの裏の通りだった。
「ガインさんが裏から入れるように手配したんだ」
疑問顔の私を見てハートさんはリリーの方に目を向けた。
「あ。確かにリリーを表に出せませんよね」
流石ガインさん。
私の手配漏れをちゃんとフォローしてくれている。
ハートさんと私が馬車を降りると、テッドさんはリリーの腰に縄を付けて馬車から降ろした。
「これ凄い嫌。ねー、聞いてる?」
リリーが不服そうに頬を 膨(ふく) らませて文句を言うが、テッドさんは動じない。
テッドさん強い。ていうかそこまでするんだ。
ブーブー言いながらもリリーはテッドさんに引っ張られてギルド長室に入る。
「こんにちは」「よう」
ソファーに座った姉さんとゴバスさんが片手を上げた。
「姉さん!? ゴバスさん!?」
私が『どうして?』という顔をすると、ドア開けてくれたギルド長が「ガインがな」と面倒そうな顔をする。
「『秘密を守れて信用が出来る人間』って事でこの二人を指名したんだ」
姉さんはウィンクしながら片手をヒラヒラさせ、ゴバスさんは微妙な顔だ。
ギルド長が二人の横に乱暴に座ると、私達にも座るように 顎(あご) で指した。
「凄くありがたいのですが、良いのですか?」
「あんたの妹なんでしょ? 私達以外に誰がいるのよ」
姉さんはゴバスさんの背中をバンと強く叩き「ねぇ?」と首を 傾(かたむ) ける。
ゴバスさんは顔を真っ赤にして「おう」とはにかんだ。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて。ほら、リリーも挨拶して」
リリーの腕を引き、三人の前に一緒に座る。
「よ、よろしく……、お願い、します」
敬語を使えとギロリの 睨(にら) むと、リリーはぎこちなくもきちんと挨拶をした。
それを確認したギルド長はやれやれという顔で、私達の後ろに立つハートさんとテッドさんを見る。
「俺は何があっても責任取らねーからな」
ギルド長が手に持っていた書類をテーブルの上にバサッと放り投げた。
それを手に取りざっと目を通すと、要するに『リリーが逃げようが、魔獣に襲われようが、誘拐に遭おうが、何があっても責任は取らない』といった免責事項が書いてある。
私がギルド長に目を向けると「仕方ねーだろ」とばつが悪そうに足を組み替え、体を横に向けてソファの肘置きに頬杖をついた。
「いえ、これで構いません。よろしくお願いいたします」
私は全部の書類にサインをしてギルド長の前にそっと置く。
ギルド長は体を起こしてそれを確認すると「すまねぇな」と人差し指で眉毛を 掻(か) いた。
ギルド長は悪くない。当然の措置だ。
聖女の身内、しかも罪人。
世間では私の血を引く身内はおじいさましかいないと思われている。
そこに双子の妹がいると知れたら大騒ぎだ。
秘密保持の契約をしてくれただけでも大いに感謝している。
「大丈夫よ。私はともかくゴバスの腕は確かよ。ね!」
ゴバスさんは「全力で守る」と 睨(にらみ) みつけるほどの真剣な 眼差(まなざ) しで私を見た。
幼い時から知っている。真面目なゴバスさんは言った事は必ず守る。
安心して任せられる人がいてくれて本当に良かった。
「マリー。なんか喉が乾いたー」
張り詰めた空気の中、リリーの気の抜けた声にみんなの肩がガクンと落ちる。
「おう、気が利かなくてすまなかったな」
「いえ、我が儘を言って申し訳ございません」
ギルド長が笑いながら席を立とうとするのを制止して私が席を立とうとすると、テッドさんに後ろから肩を抑えられた。
「私がお茶を入れてくるから、皆さん座ってて」
もう、リリーったら、自分の事なのに。リリーは何食わぬ顔で髪をいじっている。
どうしたらこんなに図太くなれるのよ。
テッドさんがお茶を配り、お茶菓子もテーブルに置いてくれる。
リリーは出されたお菓子をいくつか手に取りおとなしく食べ始めた。
こんなリリーを姉さんもゴバスさんも温かい目で見てくれている。
姉さんほど忍耐強く面倒見が良い人を私は知らない。
「姉さん。我が儘な妹ですがよろしくお願いいたします」
姉さんはクスリと笑い「大丈夫よ」と、能天気にお茶に手を伸ばすリリーを見た。