軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第91話:悩みと方針

九条院紗夜たちに次なる育成ルートのアドバイスを授けてから、さらに数週間の月日が流れていた。

暦は十一月を迎え、季節は完全に秋から冬へと移り変わりつつある。

朝晩の冷え込みは一段と厳しくなり、登校する生徒たちの制服もすっかり冬服へと切り替わっていた。吐き出す息がうっすらと白く染まる中、カイトが与えた道標をもとに、二つのパーティはそれぞれの道を突き進んでいた。

佐藤勇馬、鈴木しおり、田中美紀の三人は、カイトの『劇薬』によって爆速カンストさせたアドバンテージを遺憾なく発揮し、第二の中級職のレベリングを驚異的なペースでこなしている。

一方、九条院率いる精鋭たちも、日を追うごとにその戦力を増強させているようだった。進捗に多少の差はあれど、双方のパーティともに極めて順調であることは、彼らから放たれる引き締まった気配を見れば一目瞭然だった。

――翻って、結城カイト自身はここ一〜二ヶ月の間、何をしていたかと言えば。

一言で言えば、徹底的な「レベリング」であった。

放課後や休日、カイトの姿は常に『竜の巣』と呼ばれる単独ダンジョンの中にあった。

かつてのゲーム知識をフルに活用しているカイトにとって、現状は焦ってリスクを冒し、命を危険に晒しながら『竜の巣』の未到達の深層へと挑む必要性は薄い。何よりも安全第一。それがこの世界を生き抜くためのカイトの鉄則だ。

幸いなことに、『竜の巣』の二十四層は、現時点のカイトのレベルから見ても十分に効率的な経験値を獲得できる極上の狩場だった。

生半可な探索者では一歩足を踏み入れただけで消し炭にされるような過酷な環境だが、強力な固有スキルと、何より銀騎士イスト、黒白竜ティロフィという二体の優秀な使役モンスターを従えるカイトにとっては、最高の「レベリングスポット」へと変貌する。ここ最近の彼は、文字通りこの二十四層に入り浸る日々を送っていた。

「よし、これで終わりだ。イスト、ティロフィ、お疲れ様」

赤黒い岩肌が剥き出しになった二十四層の荒野で、カイトは息を吐きながら、巨大な炎竜の死体が粒子となって消えていくのを見届けた。

その瞬間、カイトの脳内に、彼にしか見えないシステムログが静かに浮かび上がる。

『現在のジョブ:調教師(Lv.60)』

『使役モンスター:イスト(Lv.22・銀騎士)、ティロフィ(Lv.22・黒白竜)』

二週間の徹底した成果は、確実に数字として表れていた。

カイト自身のレベルは60に達し、新たな技も覚えた。イストとティロフィのレベルもついに20を超え、その身体から放たれる威圧感は、ゴブリンなどの所謂雑魚モンスターであれば対峙しただけで気絶しかねないほどに研ぎ澄まされていた。

純粋な効率という意味では、現状においては満点に近い成果だ。

しかし、目の前の粒子を見つめるカイトの表情は、どこか晴れないものだった。

(……いや、本当にレベル的な意味での『経験値』は、稼げてるんだけど……)

カイトは腕を組み、心の中で小さく溜息をついた。

順調そのものに見えるこの状況において、彼はある種の「危機感」を抱き始めていたのだ。これは決して良くない傾向だ、と。

なぜなら、この一〜二ヶ月の間、カイトが戦ってきた相手には『竜種』しかいないからだ。

竜の巣に生息するモンスターは、その名の通りすべてが竜の血を引く強力な個体ばかり。確かに一匹あたりの経験値は膨大で、ステータスを上げるための効率は最高峰だ。だが、相手が竜種に偏りすぎるということは、彼らの戦闘スタイル――すなわち、「圧倒的な巨体による蹂躙」「空中からの急降下」「高威力のブレス攻撃」といった、大雑把かつ純粋な暴力への対処法しか身につかないということでもある。

ステータスの数値、すなわち「レベル」という意味での経験値はいくらでも稼げる。

しかし、多種多様な戦況に対応するための「戦闘自体の経験」や「対人・対集団における戦術の引き出し」という意味では、完全に行き詰まりを感じていた。

ダンジョンの種類は多く、竜種とは全く異なる狡猾な戦術や、厄介な搦め手を使ってくるモンスターが五万と存在する。それらと対峙した時、今の「竜狩り」に特化しすぎている自分の立ち回りが通用するのか。ゲームの知識があるとはいえ、実際に身体を動かす実戦において、その偏りはいつか致命的な隙になりかねない。

(このまま、数字としての強さだけを求めて二十四層でレベリングを続けていくべきか。それとも、効率が落ちるのを覚悟で、全く異なる新たな敵と戦って実戦の経験を積み直すべきか……)

薄暗いダンジョンの片隅で、カイトは真剣に悩んでいた。

レベルを上げることの安心感は捨てがたい。だが、頭打ちになりつつある戦闘勘を放置するわけにはいかない。

悩んだ末、カイトは拳をきゅっと握り込み、顔を上げた。

「……考えてばかりいても始まらないな。取り敢えず、試してみることにしよう」

自分の直感と、ゲーム時代に培った戦術眼を信じる。偏った戦闘勘をリセットし、集団戦や連携を仕掛けてくる人型モンスターとの戦い方を思い出す必要があった。

カイトは脳内で様々なダンジョンを検索し、次なる標的を定めた。

次に彼が挑むと決めたのは、竜の巣のような幻想的な魔獣の領域ではない。

高い組織力を持ち、数による暴力と狡猾な陣形で侵入者を蹂躙する『オーク』たちが蔓延る、単独ダンジョン――。

その名も、『オーク族の狩猟草原』。

そこは、強靭な肉体を持ったオークの戦士や魔術師、暗殺者たちが独自の社会(部族)を形成して待ち構えている、中級探索者御用達の難関ダンジョンだった。単体の強さは竜種に劣るものの、十匹、二十匹という集団で、明確な意思を持って包囲網を敷いてくる彼らは、まさに今のカイトが求めている「戦術的経験」を積むには最高の相手だった。

「イスト、ティロフィ。次の目的地を決めたよ。少し戦い方の毛色が変わるけど、よろしく頼むね」

カイトが声をかけると、銀騎士イストは胸の甲冑を拳で叩いて忠誠を示し、黒白竜ティロフィは小さく喉を鳴らして、カイトの肩にその愛らしい頭を擦りつけてきた。レベル20となり、より精悍さを増した二体の相棒たちは、どんな戦場であっても主人に従う準備は万端だった。

「よし。じゃあ明日からは、オークの草原へ向かおう」

カイトは二人を【眷属の庭園】へと帰還させると、出口のゲートへと向かって歩き出した。

十一月の冷たい風が吹く現実世界へと一度戻り、彼は次なるステップへと身を投じるべく、新たなダンジョンの門を叩くのだった。

『現在のジョブ:調教師(Lv.60)』

『使役モンスター:イスト(Lv.22・銀騎士)、ティロフィ(Lv.22・黒白竜)』