軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第73話:時代の転換

両親との話し合いから、瞬く間に一ヶ月が過ぎ去った。

この期間、カイトの生活は文字通り「修羅の道」だった。平日は学校の演習時間を最大限に利用し、統合ダンジョン三十一層の岩嶺で、硬質なガレムやロックウルフを相手に連携の精度を極限まで研ぎ澄ませた。そして休日は、不浄の瘴気が漂う「竜の巣」に単身潜り、死霊の竜を幾度となく屠っては、目的の『竜骨シリーズ』を宝物庫へと積み上げていった。

血の滲むような研鑽の日々。そのすべては、今日この時のためにあった。

都営冒険者ギルド本部、地上階特設演習場。

普段は冒険者たちが汗を流すその広大な空間は、今日に限っては異様な熱気と、数十人を超える報道関係者のカメラフラッシュに包まれていた。

演習場の中央、一段高い壇上に立ったのは、都営ギルド長・皇慈円である。

白髪を完璧に整え、一分の隙もないスーツに身を包んだ老紳士がマイクの前に立つと、それだけで喧騒がぴたりと止んだ。

「諸君、本日は急な呼びかけに応じてくれたこと、感謝する。今日、この場所で我々が発表する内容は、これまでの冒険者の常識を根底から覆し、人類の可能性を一段階引き上げるものになるだろう」

皇の声は、拡声魔法を介さずとも演習場の隅々まで響き渡った。

彼はまず、数十年停滞していた「 職業(ジョブ) 」の概念について語った。既存の職を極めた先に、複数の特性を併せ持つ『複合上級職』が存在すること。そして、その理論を証明した一人の少年がいることを。

「紹介しよう。この歴史的発見の当事者であり、未来を切り拓く旗手――結城カイト君だ」

皇の呼びかけに応じ、舞台袖からカイトが姿を現した。

一ヶ月前よりもさらに引き締まった体躯。その瞳には、並大抵の冒険者では持ち得ない、修羅場を潜り抜けてきた者特有の静かな覇気が宿っている。

「……彼こそが新職業を発見し、その証明のために今日ここに立っている。諸君、どうか腰を抜かさないように。安全は我々ギルドが完全に保証する。……それではカイト君、よろしくお願いするよ」

皇が静かに退くと、カイトは演習場の中央へと歩み出た。

その場のレンズがすべて彼を注視する。カイトは深く息を吐き、静かに魔力を練り上げた。

「――来い、イスト、ティロフィ」

次の瞬間、翡翠の魔力光が爆ぜた。

光が収まった場に現れたのは、二つのモンスター。

一つは、体長四メートルを超える巨大な竜。灰色の鱗に黒が混じり、鈍い光沢を放つその姿は、荒々しさと気高さを両立させている。灰塵竜、ティロフィ。

もう一つは、全身を優美な白の甲冑で包んだ騎士。細部に施された金色の装飾が陽光を反射し、戦場の花のごとき美しさを放つ。白騎士、イスト。

「なっ……!? モンスターだと!?」

「ドラゴン!? 待て、なぜ大人しくしている!」

「警備は何を……! いや、ギルド長が言っていたのはこれか!」

場内はパニック寸前のざわめきに包まれた。無理もない。ダンジョンで出会えば死を覚悟すべき「敵」が、一人の少年の傍らで静かに佇んでいるのだから。

「静粛に!」

皇の声が場を鎮める。カイトは二体を紹介するように手をかざした。

「今、僕が就いている職業は『調教師』。モンスターを心強い仲間として使役する職業です。このドラゴンと白騎士は、それぞれが既存の上級職に匹敵、あるいはそれを凌駕するポテンシャルを持っています」

カイトの説明に、メディアは言葉を失った。モンスターを「討伐対象」ではなく「戦力」として数える。そのような概念は、今までかけらほどもなかったのだから。

カイトは一度、二体を戻した。だが、驚愕はこれで終わりではなかった。

「発表は、もう一つあります」

皇が再び前に出た。

「本日より、ギルドは特定のプロチームに向け、限定的に新装備の販売を開始する。それがこの『竜骨シリーズ』だ」

壇上に、カイトがこの一ヶ月で集め抜いた剣・大剣・杖が並べられた。

骨でありながら金属以上の輝きを放つそれらに、鑑定士たちが息を呑む。

「これらはすべて『魔剣』『魔杖』の属性を持ちます。そして、カイト君が発見したもう一つの職業――『魔騎士』。この職業がレベル六十に至った際に獲得できるスキル【魔剣解放】によって、装備の真価が発揮されます」

皇に促され、カイトは一本の『竜骨の大剣』を手に取った。

少年の細い腕には不釣り合いな巨大な剣が、カイトの魔力を吸い込んで白く、激しく発光を始める。

「――【魔剣解放】」

カイトが剣を天空へと掲げた。

瞬間、大剣の切っ先から「無属性」の膨大な魔力の奔流が噴き出した。

それは紛れもない、ドラゴンの『 息吹(ブレス) 』。

轟音と共に放たれた光の柱は、東京の空に浮かんでいた厚い雲を一瞬で消し飛ばし、真っ青な蒼穹を露出させた。

静寂。

あまりの威力に、シャッター音すら消えた。

一人の冒険者が、個人でこれほどの火力を放つなど、これまでの常識では有り得なかった。

「……信じられない」

一人の記者が、震える声で質問を投げた。

「その『竜骨シリーズ』……一体どこで手に入れたのですか? 日本の市場には、そんな装備の記録は一度も……」

「いい質問だ」

皇が不敵に笑う。

「この装備は、結城カイト君が『単独で』、竜の巣の十六層を踏破し、獲得してきたものだ」

「十六層!? 冗談でしょう! 竜の巣の最高到達点は、国内トッププロでも十四層のはずだ!」

「ええ、その通り。カイト君が挑むまでは、ね」

皇の言葉が、場内の空気を一変させた。

さきほどまでカイトを「幸運な発見者」として見ていたメディアの眼差しが、一瞬にして「化け物」を見るような、あるいは絶対的な強者への「畏敬」を込めたものへと変わっていく。

「現在、竜骨シリーズは各種十本ずつ、合計三十本の在庫を確保している。これらはギルドの厳正な審査を通ったプロ冒険者にのみ、販売を許可する」

英雄の誕生

発表が終わった後も、フラッシュの嵐は止まなかった。

カイトは壇上を降りながら、空いた手で自身の胸元を押さえた。

今日、世界は変わった。そして、自分自身の立ち位置も。

もう、「病弱な少年」はどこにもいない。

世界が注目する「新職業の先駆者」。

そして、プロすら未達の深淵を独りで行く「最高峰の実力者」。

カイトは、演習場の隅で満足げに頷く皇慈円と、少しだけ誇らしげに腕を組む龍崎教官の姿を見た。

ここからだ。

新職業の衝撃が世界を駆け巡り、多くの者が自分の後に続こうとするだろう。

そのすべての先頭を走り続けるために、魔王に誰よりも早くたどり着く。

カイトは、力強く一歩を踏み出した。

『現在のジョブ:調教師(Lv.29)』

『使役モンスター:イスト(Lv.33)、ティロフィ(Lv.32)』