軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話:親心、そして繋がる想い

日曜日の夜。

「竜の巣」での激闘を終え、カイトは帰路に就いていた。宝物庫には、今日一日で新たに獲得した数本の竜骨武器と、大量の魔石が収められている。

肉体的な疲労は心地よい。しかし、自宅の玄関の扉を開けた瞬間、カイトはいつもとは違う空気の重さを感じ取った。

「ただいま……」

声をかけると、リビングから母の声が返ってきた。

「おかえり、カイト。……ちょっと、いいかしら」

リビングへ向かうと、食卓には父と母が並んで座っていた。その中央には、重厚な封蝋が施された一通の大きな封筒が置かれている。一目見て、それが都営ギルドの本部から届いた「親展」の書類であることは明白だった。

「これ、今日の午後に届いたらしいんだが。ギルドからだなんて、一体何の話かと思ったよ」

父が静かな声で言った。カイトは察した。皇ギルド長が言っていた、親への説明用書類だ。カイトは二人の対面に腰を下ろし、背筋を伸ばした。

沈黙を破ったのは母だった。

「中身、二人で読ませてもらったわ。……あなたが新しい職業を見つけて、それをギルドが国を挙げて発表しようとしていること。その実演をカイトに任せたいということ。……信じられないような話だけど、ギルド長の直筆のサインまで入っていたら、信じないわけにはいかないわよね」

「……ああ。カイト、お前が学校で頑張っているのは知っていたし、カイト自身から冒険者についての話は聞いていた。だが、メディアへの露出というのは、想像以上に大きな話だ」

父が書類の一枚を手に取り、カイトを真っ直ぐに見つめる。

「一つ、聞かせてくれ。お前はこの『メディア露出』に伴うリスクを、本当に理解しているのか? 顔と名前が全国に知れ渡る。それは今までの日常を捨てることに等しい。誹謗中傷、プライバシーの喪失、そしてお前の力を利用しようとする有象無象が寄ってくる。お前はまだ、義務教育中の学生なんだ。それを守るべき立場の俺たちとしては、手放しで喜べる話じゃない」

カイトはゆっくりと頷いた。

「理解しているつもりだよ、父さん。学校でも、もうすでにクラスメイトからの視線は変わってきてる。隠し通すのはもう限界なんだ。それなら、ギルドという大きな後ろ盾があるうちに、自分から正しく公表して、自分の価値を証明したいんだ」

「……それに」と母が言葉を継ぐ。その声は微かに震えていた。

「この書類に書かれている内容。……命の危険はないの? あなたが戦っているのは、プロでも太刀打ちできないような場所なんでしょう? ギルドがどれだけ保証してくれても、現場で戦うのはあなたなのよ」

カイトは嘘をつこうとは思わなかった。この二人は、自分を誰よりも心配し、見てきてくれた存在だからだ。

「……正直に言うよ。冒険者である以上、絶対に安全だ、とは言えない。一歩間違えれば、命を落とす危険は常にある。それは、昨日まで挑んでいた階層でも、これから挑んでいく場所でも同じだ」

母が小さく息を呑む。

「でも、俺は無茶をしているわけじゃない。イストやティロフィ……僕の仲間の二体と一緒に、徹底的に安全マージンを取って動いている。絶対に勝てない相手には手を出さないし、逃げ道は常に確保している。今の俺には、死ねない理由があるから」

「死ねない理由……?」

「俺には、叶えたい目標があるんだ。それに……支えてくれる家族や友達もいる、絶対にこんなところで死ぬなんてつまらないことにはならないよう約束するよ」

部屋を包んだのは、長く、深い沈黙だった。

カイトの瞳には、かつての自分にはなかった強い意志の光が宿っていた。かつて病弱で、誰かの助けなしには生きられなかった頃の弱々しさは、もうどこにもない。

父が深く溜息をつき、眼鏡を外して目元を拭った。

「いつの間にか、こんなにも大きくなったんだな…………カイト。俺たちは、お前がダンジョンで活躍して、ギルドのトップからも認められるような存在になったことを、心から誇りに思っている。それは本当だ。……だが、同時に親としては、ただの元気な息子でいてほしいと願ってしまうんだよ」

「……ごめん。心配かけて」

「いいえ。あなたが謝ることじゃないわ」

母がカイトの手を優しく包み込んだ。

「あなたがそこまで強い決意を持ってやっていることなら、それを止める権利は私たちにはないのかもしれないわね。……むしろ、そこまで熱中できるものを見つけたあなたを、応援しなきゃいけないのよね」

父が書類をまとめ、カイトに差し出した。

「分かった。ギルドへの承諾書、俺たちの署名を入れよう。……ただし、一つだけ約束しろ。何があっても、最後は必ずこの家に、自分の足で帰ってくることだ。いいな?」

カイトの胸の奥が、熱いもので満たされた。

自分の我儘で進んでいると思っていた。でも、この二人の支えがあってこそ、自分は背後を気にせず戦えていたのだと、改めて実感した。

「……ありがとう。父さん、母さん。二人の思いを裏切らないように、一ヶ月後、最高の結果を出してみせるよ。必ず、元気に帰ってくる」

「ああ。……期待しているぞ、カイト」

リビングに、ようやくいつもの穏やかな団らんの空気が戻った。

両親の承諾を得たことで、カイトを縛る枷はすべて外れた。

窓の外には、静かな夜空が広がっている。

明日からは再び、修行の毎日が始まる。

しかし、今のカイトの背負う荷物は、先ほどよりもずっと軽く、そして温かいものに変わっていた。

『現在のジョブ:調教師(Lv.23)』

『使役モンスター:イスト(Lv.19)、ティロフィ(Lv.16)』