軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:side佐藤パーティー

見渡す限りの緑が広がる、統合ダンジョン第十一層『草原』。

どこまでも続く平原は一見すると開放的に思える。だが、吹き抜ける風が草を揺らす音に混じって、絶え間なくモンスターの気配が肌を刺していた。

「――来るぞ! 二人とも、準備はいいな!」

重厚な鎧に身を包んだ佐藤勇馬が、地面にしっかりと足をつけ、大盾士になってから愛用している大盾を構えて叫んだ。

その視線の先、草原の向こうから激しい砂煙を上げて突進してくる影があった。赤く光る角を持つ巨大な牛――『バースト・ブル』だ。体内に溜まった過剰な魔力を暴走させ、質量と衝撃波を伴う超重量突進を仕掛けてくる、この階層の門番とも言える強敵である。

「いつでもいけるわよ、勇馬! あんたこそ、吹き飛ばされないでよ!」

佐藤の背後、草むらに身を潜めるようにして短剣を構えた田中美紀が、はっきりとした口調で応じる。

「勇馬くん、無理はしないでね。いつでも動けるから」

同じく短剣を握りしめ、おっとりとした、しかし芯の通った声で告げたのは鈴木しおりだ。

かつては火炎術師だった田中と、聖者だった鈴木。そして壊剣士だった佐藤。カイトの最初のパーティーメンバーだった彼らは今、全員が「慣れない新職業」へと転向していた。

佐藤は大盾士へ。そして田中と鈴木の二人は、単体火力特化の『暗殺者』へとジョブチェンジしていたのだ。

前衛の大盾士が一名に、後衛ではなく近接アタッカーの暗殺者が二名。

お世辞にもバランスが良いとは言えない、歪な編成。現在、三人のレベルはようやく『21』に達したところだったが、この十一層の敵を相手に、文字通りの苦戦を強いられていた。

「しゃあねえだろ、こればっかりは……! いくぜ! 【ヘイト・ブロウⅡ】!!」

勇馬が肺腑の底から咆哮を上げる。大盾士の初期スキルにより、強制的に最大まで高められたヘイトの波動が、猛進するバースト・ブルへと叩きつけられた。

グルゥゥォォォッ! と牛が怒りに目を血走らせ、目標を勇馬一点へと絞る。衝突まであと数秒。

「カイトなら、ここで綺麗に【スタン・バッシュ】で止めるか、衝撃を受け流すんだろうけどな……!」

勇馬は胸中でかつての友の背中を思い浮かべ、歯を食いしばった。自分にはまだ、そんな熟練の技術はない。ならば、泥臭く職のスキルに頼るまでだ。

「正面から受け止めさせてもらうぜ! 【不動の構え】!!」

どっしりと腰を落とし、大盾の裏で全身を硬直させる。正面からの被ダメージを半減し、ノックバックを完全に無効化する大盾士のLv.10スキルだ。

直後、バースト・ブルの赤い角が、佐藤の大盾へと正面から激突した。

ドゴォォォォォンッ!!!

凄まじい物理衝撃と、角に溜まった魔力の爆発が巻き起こる。並の重戦士なら数メートルは吹き飛ばされる衝撃。だが、【不動の構え】を発動した佐藤の身体は、大地に根を張った大樹のように一歩も退かない。大盾の表面が激しく火花を散らし、腕に凄まじい負荷がかかるが、彼は耐えきってみせた。

「今だっ! 美紀、しおり!!」

「言われなくてもッ!」

「いきます……!」

突進を受け止められ、一瞬だけ動きを止めたバースト・ブルの死角から、二人の暗殺者が同時に飛び出した。

二人はすでにLv.10スキル【ハイド】を発動させており、光の屈折によってその姿は敵から完全に視認できなくなっていた。完全に気配を消した状態で、一気に牛の側面へと肉薄する。

狙うは、首筋――弱点だ。

二人は息を合わせ、Lv.20で習得したばかりのスキル【急所狙い】を発動。次の一撃の威力を飛躍的に高める暗殺者のスキルだ。さらに、命中時に対象の防御力を一定時間無視する【フェイタル・スローⅡ】の補正を乗せ、手にした短剣を同時に突き立てた。

ザシュッ――!!!

無防備な急所を正確に貫かれたバースト・ブルは、悲鳴を上げる暇さえなく、巨体を激しく痙攣させてそのまま地面へと倒れ込んだ。

ズウゥンと巨体が横たわると同時に、その肉体がサラサラと光の粒子へ変わっていく。後に残されたのは、小さな濁った魔石が一個と、小さな木製の宝箱だった。

「ふぅ……。なんとか、一匹撃破ね」

田中が短剣を鞘に収めながら、額の汗を拭った。

「うん。でも、やっぱり前の魔法使いの時とは距離感が全然違うから、すごく緊張する……」

鈴木も胸元に手を当てて、ホッと小さく息を吐き出す。

現在の彼らの戦術は、これの繰り返しだった。

すなわち、「ヘイトを佐藤が意地でも集めて耐え、姿を消した二人が横から急所を一突きする」。

これしかパターンがないのだ。魔法使いとして遠距離から火力を叩き込んでいた田中も、ヒーラーとして安全圏から回復を飛ばしていた鈴木も、今は敵の懐に飛び込まなければ満足にダメージを与えられない。ヒーラーがいないため、一度でもヘイトを漏らせば、あるいは攻撃を受け損ねれば、紙装甲の暗殺者二人は一瞬で致命傷を負う。

「悪りぃな、二人とも。俺がもっとカイトみたいに上手く立ち回れれば、もっと楽にやれるんだろうけど」

宝箱を拾い上げながら、苦笑いを浮かべた。箱の中身は初級のポーションだった。ないよりはマシだが、今の緊迫感に見合うかと言われれば微妙なところだ。

「何言ってるのよ、勇馬。あんたが正面で一歩も退かずに受け止めてくれるから、私たちは背中を預けられるんでしょ。そこは信頼してるわよ」

「そうだよ、勇馬くん。それに、みんなで決めたことでしょ? カイトくん追いつくために頑張っていこう!って」

二人の言葉に、小さく目を見開いた後、嬉しそうに笑った。

「……そうだな。今、俺たちがここで焦って事故ったり、怪我したりしてみろ。あいつのことだ、絶対に自分のせいだって責任感じちまうからな。それだけは、絶対になしだ!」

再び大盾を強く握り直した。

カイトに心配をかけないために。いつかまた、胸を張ってあいつの隣に立てるようになるために。ここで不格好に足踏みしているわけにはいかない。

「目指すは、三年になる前に複合上級職だ!気張っていこうぜ!」

「「おー!」」

二人の頼もしい返事を聞きながら、先頭に立って歩き出す。

直後、ガサガサと草むらが揺れた。現れたのは、背中の毛を鋼鉄の針へと変化させた巨大なウサギ『ニードル・ラビット』の六体の群れ。さらには、草原の風と一体化するほどの速度を誇る『ウィンド・ウルフ』が三頭、風の刃を纏いながら彼らを包囲するように現れる。

「チッ、一気に囲まれたか! 美紀、しおり、すぐに【ハイド】で隠れろ! 散らばる針は俺が全部盾で吸う!」

「分かったわ! 欲張らずに一体ずつ確実に落とすわよ!」

「勇馬くん、足元のとげに気をつけて!」

ヒュンヒュンと風を切り裂いて放たれる「針のミサイル」の嵐。そして風の刃。

佐藤は大盾を構え、その猛攻のすべてを己の肉体と盾だけで受け止めるべく、再び大地の如く踏ん張った。足元に刺さる針が移動を制限し、ウルフのフェイント突進に翻弄されそうになりながらも、決して背後の二人へは行かせないと、必死にヘイトを維持し続ける。

不格好で、バランスも悪くて、カイトのような華麗さには程遠い。

それでも、佐藤パーティーの三人は、お互いを泥臭く支え合いながら、確実に、一歩ずつ前へと進んでいた。カイトの待つ、遥かなる高みを目指して。