軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20

「……エミ。エミ」

「う、ん……?」

「どうしちゃったの? もう朝よ。起きないの?」

重たい瞼をなんとか開けると、私にぴったりと寄り添っておすわりしたエミリアちゃんが、私を覗き込んでいた。

「もしかして具合が悪いの?」

ピンク色の肉球がペタと私の額に押し当てられる。

「熱はないみたい。でも顔色がよくないわね」

「うん、ちょっと怠いかも……」

体が重く、頭がすっきりしない。

そのせいで寝過ごしてしまったようだ。

なにかひどく恐ろしい夢を見た気がするけれど、内容を思い出せない。

もしかして魘されたせいで熟睡できなかったのだろうか。

「医者に診てもらったほうがいいんじゃないかしら? それとも陛下を呼んでくる? あんなやつ頼りたくないけど、エミのためなら……!」

今すぐ部屋を飛び出していきそうなエミリアちゃんを慌てて止める。

「ありがとうエミリアちゃん。でもそんな大事じゃないから」

まだエミリアちゃんが不安そうにしているから、私はわざと勢いよく体を起こした。

「エミ、無理してない?」

「あはは。本当に大丈夫。寝付きが悪かっただけだと思う」

「それならいいけど……。一応今日は姿を消してエミの傍にずっといるわね」

「え!? エミリアちゃん他にやりたいことがあるんじゃ……」

「何言ってるのよ。エミを見守るのが最優先よ!」

照れくさかったのか、エミリアちゃんはそれだけ言うと姿を消してしまった。

「ふふ、ありがとう」

エミリアちゃんが今までいた場所に向かってお礼を伝える。

彼女には隠してしまったけれど、体はまだ怠い。

でもこれ以上エミリアちゃんに心配をかけたくないから、しゃんとしようと思った。

一度深呼吸をしてから、いつもの朝と同じように控えの間に繋がっている枕元のベルを鳴らすと、私の身支度を手伝うためメイジーが来てくれた。

「おはようございます、妃殿下。あの実は、ヒル卿が一時間ほど前から妃殿下をお待ちです……」

「え!? ローガンさんが!?」

「妃殿下にご用があるようでした。いつもの作業場のほうにいらっしゃいます」

今日は休むという約束を陛下と交わしたものの、ローガンさんにそのことを伝えていたわけではない。

さすがに一時間も待たせておいて、「会えません」なんて言えるわけもなかった。

私はできるだけ急いで支度をして、小走りで作業場へ向かった。

息を切らして現れた私に気づき、木に凭れていたローガンさんが身を起こす。

彼が熱心に読んでいたのは、以前、私が渡した癒しアイテムリストだった。

「妃殿下、今日はずいぶんお寝坊さんだったじゃない」

「す、すみません……っ。お待たせしちゃって……はぁ……」

なかなか息が整わなくて、それだけ伝えるのが精一杯だ。

息を吸って吐いても、ちっとも楽にならない。

それどころか血がスウッと下がっていくような感じがして……。

まずい。

これ、貧血だ。

「え? ちょっと……妃殿下……!?」

「……っ」

ローガンさんの焦った声を聞いた直後、視界がぐわんと歪んで、私はそのまま意識を失った。

◇◇◇

どうして倒れるほどの貧血を起こしたのかもわからないまま、私は滾々と眠り続け――。

次に意識が戻ると、周囲はすっかり暗くなっていた。

すぐには状況を理解できず、ぼんやりしたまま視線を動かすと、ベッド脇の椅子に座っている陛下の心配そうな瞳と目が合った。

「あ、目が覚めたか」

右手をきゅっと握られたことで、陛下がずっと手を繋いでいてくれたのだと気づいた。

陛下の隣にはエミリアちゃんの姿もある。

この二人が喧嘩をせずに並んでいるなんて珍しい。

ぼんやりした頭で、最初に思ったのはそんなことだった。

「エミ、体調はどうだ?」

眠りすぎたせいか頭と体がまだ重たいままだけれど、さすがにもうクラクラすることはなかったので、大丈夫だと伝えた。

けれど陛下とエミリアちゃんの表情は明るくならない。

また心配をかけてしまったのが申し訳なかった。

しかも陛下には休むように言われていたのに。

「ごめんなさい、陛下……」

「ん?」

意外にも穏やかな声で問い返された。

怒ってないの……?

「昨日陛下と約束したのに、 こんなことになっちゃって……」

「俺のことなんてどうでもいい。だけど、頼むから今日はもう休んでいてくれ。俺もこのまま傍にいるから」

「えっ。仕事はいいの?」

「エミのことが心配で仕事なんて手につかない。俺がここにいたいんだから気にするな」

「陛下……」

あれ……。変だな……。

また眠くなってきてしまった。

「薬の中に眠くなる成分が入っているらしい」

「あ……。そなんだ……」

眠気のあまり、呂律が回らない。

「俺はずっと傍にいるから、安心して眠れ」

「陛下だけじゃないわ! 私も見守ってるからね……!」

「ふふ……。ふたりとも、ありがと……」

優しい言葉に導かれるように瞼を閉じる。

自分がなぜ貧血を起こしたのか、聞き忘れたことにも気づかないまま……。