軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 次は自由に歩き回れる権利が欲しいです

厨房を使わせてもらえることになってから、十日が経った。

この世界に来てからは、ちょうど二十日だ。

あれから、部屋に戻ると顔面蒼白の侍女長さんと鉢合わせし、こってりと絞られてしまった。

いつもは他人行儀な侍女長さんが「どれだけ心配したことか……」と言葉を詰まらせるのを見たら、さすがに申し訳なくなった。

閉じ込められてることは納得がいかないままだけど、コソコソ出ていくのはもう止めよう。

私は素直に謝罪してから、もう黙って抜け出さない代わりに、厨房や裏の林に通う許可を欲しいと頼んだ。

侍女長さんはかなり頑固だったけれど、私もなんとか奮闘した。

十日間の謹慎を言いつけられてびっくりしたけど、侍女長は「王妃殿下の教育係も兼任している身として、当然です」と言っていた。

結果、今回の反省として十日間の謹慎を受け入れる代わりに、その後は時々厨房になら通ってもいいということになった。

必ず侍女を一人つけるようにとの条件もついてきた。

そのくらいだったら私も受け入れられる。

それにしても侍女長が王妃に謹慎を言い渡すのって普通なのかな。

王妃様って王宮の中で一番偉い人みたいなイメージだったけれど、エミリアちゃんの環境を見てる限り、全然そんな感じがしない。

もしかしたら侍女長さんは、エミリアちゃんのお目付け役みたいな立場も兼ね備えているのかも。

まあ、私はいばり散らしたいわけじゃないし、余計な質問はしないでおく。

侍女長さんって、学校のおっかない先生っぽい雰囲気だから、あんまり逆らいたくないんだよね……。

だけど行ける場所が厨房に限定されてるのは、ちょっとなー……。

なんで、そんなにエミリアちゃんを閉じ込めておきたがるのか謎だ。

どうして自由に動き回ったらだめなんだろう。

その点に関しては納得がいかなくて、つい尋ねてしまった。

すると侍女長さんは絶句した後、「妃殿下ご自身が一番おわかりでしょう。陛下のお気持ちを少しはお考え下さい」とため息を吐いた。

さすがにそれ以上、食い下がることはできなかった。

エミリアちゃんの人となりや死亡理由がわからなければ、どうしようもない。

知りたくても聞ける相手が相変わらずいないしな。

出歩く権利問題はとりあえず脇に置いておいて、私はひとまず十日間の謹慎を、大人しく耐えることにした。

謹慎といっても、部屋から出られないのは今までと変わらないし、十日過ぎれば厨房に出入りできるようになるのだ。

同じ耐える日々でも、気持ちが全然違う。

相変わらず、侍女さんたちとは必要最低限の会話しかしてないから、別人がエミリアちゃんの体の中に入ってることは全然ばれなかった。

それからこれも相変わらずだけど、お葬式で会った美青年、つまりエミリアちゃんの旦那様でありこの国の国王陛下とは一度も会っていない。

食事のことで参っている時、会いたいって連絡したのに、その返事もこないままだ。

食事と言えば大きな変化があった!

私のもとに運ばれてくる料理が、明らかに薄味になったのだ。

ボリュームはすごいし、こってり系料理なのは変わらないけれど、薄味になっただけで食べやすさが全然違う。

料理長が私の好みを尊重してくれているんだとわかり、その心配りをうれしく感じた。

おかげで前よりずっと、食べられる量が増えた。

料理長に会ったら、ちゃんとお礼を伝えないと。

食欲が満たされてくると、他のことにも目が行くようになった。

……部屋に閉じこもってるだけって、不健康じゃないか?

謹慎期間中とはいえ、ずっとだらだらしていては、どうしたって運動不足になってしまう。

おじいさんの畑に行くだけで息が切れてたぐらいだし。

これ以上、体力が落ちたらまずい。

「部屋でもできる運動か……」

棺桶の中で、起き上がるのにすら苦労したことが脳裏をよぎった。

腹筋もつけないとな。

私はおもむろにベッドに上がり、腹筋を鍛える体勢をとった。

仰向けになって、頭の後ろで腕を組んで――。

「ふんっ!!」

おなかに力を入れて、必死に起き上がってみようとした。

ところが……。

「ふぐぐぐ……。ううっ……。だ、だめだっ……」

べちゃっとベッドに沈む。

腹筋が一回もまともにできないなんて。

やっぱりこの体のままじゃ問題だよ。

謹慎七日目。

私は再度、厨房以外への外出の許可を侍女長さんに頼んでみた。

侍女さん同伴でもいいから、離宮前にある中庭や裏の林ぐらいには、散歩に行かせて欲しいって。

でも戻ってきたのは「陛下に直接お頼みください」と言う返事だけ。

またそれ!?

あの人、全然会えないでしょ!?

そう叫びたくもなった。

腹筋も外出に関する説得も上手くいかないまま、ようやく約束の十日が経った。

「――という感じで、外出許可を取得するための戦いを続けているところなんです。今のところ、まったく相手にされてないけど……」

「なるほど、それでしょんぼりされていたのですな」

謹慎処分が明けたその日、驚いたことにおじいさんが畑で採れた野菜を持って、遊びに来てくれたのだった。

ちょうどその時間、侍女長さんたちは不在で、私は応接室のほうでおじいさんとゆっくり話すことができた。

果たしておじいさんが人目を忍んで会いに来たのか、侍女長さんの許可をもらっているのかは謎だ。

一応尋ねてみたけれど、いつもの「ほっほっほっ」という謎めいた笑いではぐらかされてしまった。

「侍女長はなかなか手ごわいでしょう」

おじいさんの言葉に、私は溜め息を返した。

「はい、かなり……。陛下に会わなきゃいけないって言われても、忙しくて全然会えないし」

「む。妃殿下は国王陛下への面会をご希望なのですか?」

「侍女長さんに頼んでいても、平行線っぽいですから。そもそも私が外に出るのを禁止しているのは、陛下らしいんです。でも部屋に閉じこもったままって、不健康じゃないですか。私はもっと自由に散歩したりしたいんですよ。おじいさんの畑にだって遊びに行きたいし」

おじいさんは、面白そうに笑った。

「ほっほっ。妃殿下が陛下に会いたい理由は、自由に散歩したいからですか」

「え? まずかったですか?」

焦りはじめた私を見て、おじいさんはさらに楽しそうな顔になった。

「妃殿下は変わっておられる。なあに、心配なさるな。じきに陛下もお姿をお見せになるでしょう」

「あはは、そうですよね。そのうちきっと」

まあ、そのうちなんて当面は来ないんだろうな。

会うだけで一ヶ月待ちの相手だし。

そう考えて、また気持ちががっくりきた。

ところが私の予想に反して、その機会は唐突に訪れることになる。

今回、私がおじいさんに愚痴ったことが、陛下との距離を急接近させるきっかけになるなんて――。

もちろん、この時の私は知る由もなかったのだった。