軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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黒いエネルギー塊は爆発したようだったけれど、まだその場に残っている——距離がありすぎて【森羅万象】でもそれ以上の情報がわからないのだけれど。

このまま放置はできない。

石でぶん殴った右手は、砕け散った細かい欠片が突き刺さって血が出ているので、それを【 生活魔法(コンビニエント) 】で水を出して洗い流し——ああああ痛い痛い痛いよおおおお——【回復魔法】で傷を治す。ああ、石がなくなっちゃったけど……伯爵がなんとかしてくれるよね……?

「陛下、辺境伯閣下、お二方はこちらにお残りください」

「お前は行くのか?」

「はっ」

「それ以上は騎士団の仕事だろう」

「……お嬢様が『全員守れ』とおっしゃったので」

僕の答えは間違っていたのだろうか、聖王は口元をゆがめて獰猛な笑みを浮かべた。

「これを持っていけ」

投げて寄越されたのはエルさんが聖王に手渡した、あの古びたナイフだ。片刃で刀身は反っているが、刃は研がれていない、祭祀用のものだ。

【森羅万象】によるととてつもなく古いものだとわかる。

それ以外は、なんてことのない骨董品に見えるけど。

「——では、行ってまいります」

「ああ」

聖王がうなずき、辺境伯が小さく手を挙げた。僕はちらりとルイ少年の亡骸に視線を投げ、それから走り出した。入れ替わりに、聖王騎士団が聖王たちのところへとやってくる。

(——あの男の子が死ぬなんて)

お嬢様の護衛でお茶会に出てもいたので、何度もルイ少年とは顔を合わせてきた。僕がお嬢様の護衛で、お嬢様と四六時中いることに対して嫉妬の炎をめらめら燃やしていた——そんな、いわゆるふつうの少年だ。

(こんなところで死んでいいはずがない)

ナイフを握りしめる。

あの黒いエネルギー、跡形もなく消滅させてやる。

* 聖王 *

駈け寄ってきた騎士たちが心配そうに声を掛けてくるが、それを鬱陶しげに手で追い散らした聖王は、すぐそこに立っていた盟友へと顔を向ける。

「……辺境伯、なにを考えてる」

ミュール辺境伯の貴族服もあちこちがちぎれ、血が流れている。かわし損ねた調停者の攻撃のせいだろう。袖の付け根がやぶれているのは無理に動いたせいだろうが。

「あの速度で射出された物体に、あの少年は攻撃を加えましたな」

「……ああ」

「陛下にはできますか?」

「できるわけがねえだろ」

ふたりですらあのエネルギー塊は目で追うのがせいぜいで、受け止めるならまだしも 横から(・・・) 攻撃を当てるなんていう芸当はできるはずがないというのが正直なところだった。

「ふーむ……うちのミラの婿になってはくれぬかな……」

「なにっ!? お前、まさか辺境伯領にあの小僧を 囲う(・・) つもりか!?」

「我が領では腕利きがいくらいても足りませんからな」

「それなら聖王都だろうが。ここが聖王国の首都だぞ」

「なるほど——【聖剣術】が失われたとわかれば、動き出す者もあるかもしれませんな」

聖王は右手をこめかみに当てる。

「……それを言うなよ。クソッ。頭が痛てぇことばかりだ」

辺境伯はそんな聖王を見てクツクツと声を殺して笑う。

「笑い事じゃねえぞ。国が混乱すりゃお前の領地だって余波が行く」

「ええ。ですが、頭の痛いことばかりでもありますまい」

「あん?」

「ご覧なされ」

辺境伯が指したのは、神殿の敷地から離れた場所に避難していた貴族と、今日の授与式の主役であった少年少女だ。

親に抱きすくめられている子、泣いて頭をなでられている子、それにレイジの雇い主であるスィリーズ伯爵は娘のエヴァになにかを話しているところだった——それが【魔力操作】の天賦珠玉を与えているところであるとはさすがの聖王にも想像できないことだった。

それよりも聖王の目にはクルヴシュラトとミラがこちらへ駈けてくるのが見えた。

「なんとかあの子らは守れました」

「……それは、まあ、そうだな」

ふう、と聖王は小さく息を吐いた。

「辺境伯」

「はっ」

「……俺がまた迷ったら、この頬を張り飛ばしてでも、正しい道に戻してくれ」

熊のように大きな辺境伯だったが、それを聞いて見せた笑顔は——まるで少年のようだった。

「目一杯殴るから、覚悟しとけよ。グレンジード」

ふたりはコツンと、右拳同士をぶつけ合った。

* *

僕は聖王宮を飛び出すと、第1聖区へと入った。エネルギー塊によってえぐられた場所に何人かの官吏が集まっている。その痕跡を追っていくと、「2の壁」へとたどり着いた。

「これは……!」

周囲数十メートルに渡って壁が崩壊していた。どこかはわからないが貴族家の屋敷がもろに被害を受けており、屋敷も半壊し、広大な庭にがれきが散らばっている。

砂埃が舞って視界が悪い。助けを求める呼び声と、泣き声とが聞こえてくる。

(……チクショウ)

あの場でエネルギー塊の方向を変えられたのはよかったけれど、その結果、ケガをした——あるいは亡くなった人もいるかもしれない。そう思うと僕の心に墨を落としたようなもやもやが広がっていく。

「な、なんだこれは」

背後からやってきた声には聞き覚えがあった。

「——君は、掃除係くん?」

聖王騎士団第2隊を引き連れたアルテュール様がそこにいた。

「ナイスタイミングです。そこの屋敷が崩れてケガ人が出ているようで、騎士団の皆様の力が必要です!」

「なにっ。ここは——リビエレ家のお屋敷じゃないか!」

リビエレ家は6大公爵家のひとつだったはずだ。

「みんな聞いたか。救助活動に入るぞ!」

これはありがたい。こういうときには人手がとにかく重要だからね。

ふと、アルテュール様がルイ少年の護衛だったことを思い出したけれど、僕はなにも言わなかった。今言っても仕方のないことだ。

その間に僕は、いまだ感じられる黒いエネルギーのある方向——広い庭のど真ん中へと向かう。

手入れのされた芝生の庭は広く、植え込みが点在していた。今は土砂やがれきをかぶっていて見事な植栽は見る影もないけれど。

その中央に、それはあった。

(……禍々しい)

そこにすっくと立っている、黒い炎のようなエネルギー。僕の身長よりもずっと大きく、高さは3メートルほど、横幅は2メートルほどだった。

僕が古ぼけたナイフを握りしめた——とき、炎の向こうに巨大な影が見えた。