軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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エルフの始祖たちは流浪の民だった。世界は荒廃し、一族が存亡の危機にあった。

それを救ったのが生命竜クルトゥスヴィータだった。

その竜はエルフたちに森を与えた。森は住処を、食料を、エルフたちにもたらし、外敵が入り込もうとすると惑わせ、追い返した。

クルトゥスヴィータはその森を維持し続けたが、エルフたちがその数を増やし、繁栄するのとは裏腹に衰弱していった。衰弱すれば森が外敵をはねのける力は弱まったが、そのときにはエルフたちが自力で戦えるようになっていた。

今度は自分たちがクルトゥスヴィータを助ける番ではないか——そう考えた、エルフたちの王であるハイエルフは魔唱歌を歌うことでクルトゥスヴィータに魔力を与えた。

クルトゥスヴィータは長い眠りについたが、そこには木が生え、今やこれほどの大樹にまで成長している——。

そう、ユーリーさんは語った。

「もはやクルトゥスヴィータがどのような形であったのかも知らないけれど、ここにクルトゥスヴィータにつながる木があり、大地に今も眠っている竜に魔力を提供できるのなら、一族を救った英雄のために魔唱歌を捧げ続けることは私たちの務め。そうでしょう?」

それがハイエルフの……王族の務めか。

だけど。

(……やっぱり)

僕は鼓動を続ける赤黒い光を見つめ続け、【森羅万象】で確認をした。

(これはクルトゥスヴィータの一部なんかじゃない)

見た目は角張っているし、異様な光と鼓動があるけれども、これは間違いない。

天賦珠玉(・・・・) だ。

それも、何者かが 改造した(・・・・) 天賦珠玉だった。

「……ユーリーさん、これは」

「これがクルトゥスヴィータの身体の一部……私たち祖先を守ってくれた存在だと思うと、なんだか温かな気持ちになる。私たちハイエルフはクルトゥスヴィータの思いに応えなければならないと、身が引き締まるの」

「…………」

言えなかった。

僕が見た、真実を。

僕らはそれからしばらくじっとしていたけれど、温かなまなざしを向けているユーリーさんとは裏腹に、僕は居心地が悪くて仕方なかった。

なぜあんなところに天賦珠玉があるのか。

天賦珠玉の改造などできるのか。

元はなんの天賦珠玉だったのか——それすらも【森羅万象】では解析できなかった。

頭の整理ができず、僕はハイエルフのお屋敷に戻ってもほぼ無言だった。シルヴィス陛下はすでに執務に戻っているということで、今日は泊まっていってよいと許可が出ていたので僕は一晩厄介になることにした。

夕食はアーシャとマトヴェイさん、それにユーリーさんもなぜかいっしょにとることになったけれど他の兄弟たちはいなかった。やっぱり兄弟仲はいいとは言えないらしい。

マトヴェイさんとユーリーさんがすぐにバチバチやりあうのでこのふたりも別に仲がいいわけではないようだけれど。

「ふぅ……」

「お疲れですね」

夕食後、僕に与えられた客室には僕とアーシャのふたりがいた。苦笑しながらもアーシャが淹れてくれたお茶をいただくと、薬草の香りがツンとする、身体によいものだった。

「あんなにユーリー姉様が話をしているの、初めて見ました」

「……え?」

「マトヴェイ兄様と双子の姉弟なのに、ふたりはどこかよそよそしかったんです。ですが私がここにいなかった何年かの間になにかがあったのか……あるいはレイジさんが来たから、ふたりも変わったのかも」

「僕が? そんなことはないでしょう」

「いえ。そんなことがあるんです。レイジさんの熱意に動かされてしまうんです……私も、そうですから」

うつむき加減に、こちらを上目遣いでそう言うアーシャは反則レベルで可愛い。

「そう言ってもらえるのはうれしい、というか面映ゆいというか……僕はただ、精一杯生きてるだけなんですけど」

日本にいたとき、誰かにそんなことを言ってもらったりしたことなんてなかったな。【森羅万象】があるおかげで、努力したことが自分の身につくのがうれしくて、それで僕は努力を惜しまなくなった。もともと勉強するのも好きだったけど。

「……レイジさん、陛下とはどんなお話を? あの、話しにくいことでしたらおっしゃらないでいいのですが……」

「…………」

アーシャに話すべきか、迷った。国王陛下やユーリーさんは世界樹のことを——生命竜クルトゥスヴィータを「秘密の中の秘密」として扱っていたし、アーシャがどこまで知っているかわからない。

これはとても、繊細な内容なのだ。

多くのエルフに深い影響を与えるような……。

「——レイジ様、いらっしゃいますか」

僕が迷っていると扉がノックされ、メイドさんが入ってきた。アーシャがいたので少し驚いたようだったけれどすぐに平静を保って、

「国王陛下がお呼びですので、お越しください」

「……わかりました」

僕は立ち上がった。

「アーシャ、この話はきっとします。でも今は」

「……はい、いってらっしゃいませ。私、待っていますから」

聞き分けのよい子のように素直に言うアーシャを見て、僕は思う。

「僕、あなたを待たせてばかりですか?」

「はい。でも、待つのは苦じゃありません。声を出せるようになるまでの年月を考えたら……全然」

国王陛下の私室、とは言ってもアーシャの部屋とさほど変わらなかった。エルフたちは森とともに生きているので、過度の装飾を望まないのだろう。

「さて……なにを見たのか、聞かせてもらえるかね」

ここにいるのは僕と陛下のふたりだけだった。シークレットサーヴィスの人たちが1ダースほど廊下に並んでいるけれど、声を潜めれば聞こえない。

「……改造された天賦珠玉を」

それだけ言えば通じたのだろう——陛下は「そうか」と言ってうなずいた。

「陛下、僕がそれを見破るとわかっていて送り出しましたね?」

「ああ」

「なぜですか……ユーリーさんはそれを知らないようでした」

「歴代の国王のみに受け継がれているのだよ。あれはひとつの天賦珠玉ではなく、複数の天賦珠玉を組み合わせているのだ……国王が代々その研究を進めている。他に手段がなかったのだ。地中のクルトゥスヴィータを生かし続けるために、魔力を生命力に転換するようなものはな」

「……僕は詳しくありませんが、天賦珠玉の改造は、禁忌なのではありませんか?」

国王陛下が言っていた「罪と咎」という言葉は、天賦珠玉の改造がけして褒められた行為ではないことを示しているように感じられた。

「そのとおり。世界を構成する天賦珠玉に手を入れるなどもってのほかよ。ゆえに、余だけが関わるようにしているのだ……無論ひとりだけで研究などできるものではないが、世界は広い。禁忌と知りながら、あるいはそうと知らずに天賦珠玉の改造実験を行う者もある」

ぱさり、とテーブルに置かれたのは論文のようだった——僕はそれを見て、息が止まるかと思った。

執筆者の名前に、「ヒンガ」という名前があったのだ。