軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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深緑色の滑らかなドレスはほっそりとしたアーシャのボディラインを際立たせ、だいぶ荒っぽい旅を経験したというのに二の腕は白く肌理も細やかだった。

髪をアップにしているのでうなじが見え、うっすらとしている化粧にどきりとしてしまう——これは魔性の女だ。

馬子にも衣装だなんて言えない。もともとアーシャはすさまじい美形なのだから鬼に金棒、ハイエルフに化粧だ。

「——え、ええーっと、お集まりの皆様、本日はお越しくださいまして誠にありがとうございます」

見とれていたのは僕だけではなくて会場にいる全員だった。フォークを取り落とし、連れの女性ににらまれている男の人もいる。

なんとかかんとか復活した町長が今回の海坊主討伐パーティーの挨拶を進めていく。アーシャの視線と僕の視線がぶつかって、彼女が微笑むと——僕の胸の鼓動がさらに早まった。アーシャの後ろに控え、ドヤ顔しているポリーナさんがいたおかげで冷静になれたけど。

町長が自分自身も海坊主討伐の現場にいたことを発表すると、集まった人たちの間から「おおっ」とどよめきが起きる。

それから僕ら「銀の天秤」の活躍に触れ、次に騎士たちの勇敢さに触れ、最後はアーシャの魔法に言及して話は締めくくられた。

僕らに向けられる視線があまりに多くてなんとも恥ずかしい。

「では今日は皆様、楽しくお過ごしください」

町長の挨拶が終わると、8人ほどの弦楽隊が音楽を奏でる。

この世界で音楽の楽しみなんてものはほとんどなくて、吟遊詩人が酒場で歌うくらいなので、とても新鮮に感じられた。

「ほれ、レイジくん、行っておいで」

とまあ、音楽を聴いている余裕なんてものはなく、ミミノさんに背中を押されて僕はアーシャのほうへと歩き出した。彼女もこちらにしずしずとやってくる。

「……レイジさん、私とっても変な気分なんです。今までこういうドレスは何度も着たことがあったのに今日はどうしてだかとても恥ずかしい気がして」

「とてもよく似合っていますよ」

ストレートな褒め言葉が口からするりと出たことに自分でも驚いたけれど、アーシャは頬を染め——あるいは夕焼けがそう見せただけかもしれないけれど——自然な色の紅を塗った唇を曲げて笑って見せた。

「ふふ。レイジさんから聞く褒め言葉は、私を楽しい気分にさせてくれますね。他の誰に言われてもそんなことは思わないのに」

「そ、そうですか……?」

そんなふうに言われてしまうと、恋愛経験少なめの、うぶな男子の僕はどきどきしてしまう。

「お姉様はよろしいのですか?」

「はい。今はクックさんたちがついてくれているので……。ありがとうございます、ラルクのことを気にかけてくださって」

「ふふふ。レイジさんはお姉様のことをまるで他人のように呼ぶのですね」

「まあ、実際他人ですしねえ」

「……え?」

「僕らがいた場所が、他に子どもたちのいなかったところで大人ばかりだったんです。なのでラルクは僕を弟だと言い張っていたんですよね」

「ちょ、ちょっと待ってくださいませ。お姉様、いえ、ラルク様はほんとうに他人でいらっしゃる……?」

「はい、完璧に他人ですね。似ても似つかないし」

「だとしたら、そのぅ……それは、ラルク様がレイジさんのことを——」

アーシャがなにかを言いかけたところへ、

「——レイジ殿、アナスタシア殿下、主役のおふたりだけで話をなさらず、どうぞ我々も輪に加えてくださいませ」

町長とそのお兄さんがやってきた。ラルクが魔導船のドックを破壊し、さらには魔導船を盗み出したこともあるので、さすがにその頼みは断れない。

「ええ、もちろん。——アーシャもいいかな?」

「は、はい。構いませんわ」

少しだけ寂しそうな顔をしたアーシャだったけれど、場所を弁える能力はさすがの王族だ。僕らはあとでいくらでも話ができるしね。

「レイジ殿、空を飛んでいましたな!? あれはいったいどのようにしてなさるのですか」

「【火魔法】と【風魔法】の応用で——」

隠すこともないので僕は空を飛ぶ方法を伝えるのだが、みんなピンとこないらしい。どうやら【火魔法】を身体の近くで爆発させるなど、「火傷するだけ」のようだ。

「いやはや、一体どのような天賦をお持ちなのか気になりますな。2系統の魔法を達人級までコントロール可能で、さらには魔力もおありとは」

目つきの鋭い商人風の男が言う。商人かもしれないと思ったのは体つきが太っていて、武術の経験がまったくなさそうな足取りや体幹だったからだ——【森羅万象】もそう認定している。

町長はそれについてはなにも言わなかった。僕が【闇魔法】を使ったのは見ているはずだけれど、そうすると魔法だけでスキルホルダーを6つ使うことになってしまうし、天賦の構成は人によっては大きな秘密だから、わざと隠してくれたのだろう。

だけどまぁ……顔には「興味津々」って書いてあるんだよなあ。

僕は内心苦笑しながら答える。

「たいしたものは持っていませんよ」

「いやいや、達人はみなそう仰る。私めはキースグラン連邦を中心に活動している貿易商のヤーゴと申します。海坊主が出たとやらで大型船を出せなくなり、往生しておりました。感謝しても仕切れませんぞ、レイジ殿。以後お見知りおきを……」

「あ、はい」

差し出された手を握ると、武器を握ったこともないような柔らかな手だった。指先に たこ(・・) があったのはペンだこかもしれない。

(……ん?)

ほんのかすか——僕が【森羅万象】を持っていなければ気づかないほどの変化が、握られた手の力にあった。

すぐにその手は離れていったけれど、ヤーゴさんの目には驚愕が浮かんでいた。

(ははぁ、なるほどね)

ピンときた。この人、僕の天賦を 視(・) たな。

過去に、同じように握手を求められてそのときに視られたことがあった。スィリーズ伯爵邸でスペキュラ2等書記官と会ったときのことだ。

伯爵はこう言っていた。

——天賦【オーブ視★★】は、見た相手の天賦を知ることができます。彼のレベルでは星の数まではわかりませんがね……。

あのとき僕は【森羅万象】を外していたので視られることはなかった。

でも今はつけている。

「ヤーゴさん、なにか視えましたか?」

僕はにっこりと笑ってたずねた。