軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25

爆発によって跳ね上げられた尻尾と、飛び散りきらめく炎の破片。

終焉牙はいまだ暴れており地面はぐらぐらと揺れている。

「お前ッ、 伯爵(ヴィクトル) んとこの——」

グレンジード様は僕にすぐ気がついたみたいだったけれど、

「閣下、礼も取らず去るご無礼、お許しを」

旧交を温めているような時間はない——いや、まあ、旧交があったのかと言われればアレだけど。

「うおおおおおおッ!」

僕は大地を踏みしめ走り出す。跳躍し、魔法を使って上空へと。

「——飛んだ!?」

「——人が、どうやって」

「——魔法を使って飛ぶという話を聞いたことがある」

「——魔道具じゃないのか」

兵士や騎士たちのざわつきが聞こえたけれど、それは後だ。

「終焉牙ッ! いい加減に止めてください! こうなればどちらも大きな被害が出ます! それは、幻想鬼人の思うつぼでしょう!?」

怒りに瞳を濁らせていた終焉牙は、咆吼を放って僕を落とそうとする。

その咆吼に魔力が込められていることは【森羅万象】によって分析済みだ。【風魔法】をぶつけると衝撃とともに咆吼は破壊され、反動で僕の身体は大きく舞い上がった。

「ッ!」

見下ろして気づく。もう、魔力の鎧は復活している——。

「皆さん、下がってください! すでに終焉牙は魔力で覆われています!」

押し込めば行けるかと思えた戦況だったけれど、終焉牙が魔力の鎧を手にしてしまえば形勢はあっという間に逆転だ。こちらには追加の飛行船はないみたいで、空は沈黙している。このまま戦いを続ければここにいる人たちの大半が死ぬだろう。

すると、前足を斬り飛ばした長身の騎士が叫ぶ。

「君はなにをしようとしている!!」

すごいな。僕は100メートルくらい高いところにいるのに、はっきりと声が聞こえる。

【風魔法】に声を乗せて僕も叫び返す。

「終焉牙を説得します!」

「できるのか!!」

「やってみます!!」

するとその騎士は——部下らしい光天騎士王国の騎士を下がらせていく。それに応じるようにグレンジード様も聖王騎士団を、キースグラン連邦の兵士たちも下がっていく。

僕は魔法で空気抵抗を上げながらゆっくりと降りていく——今回は【風魔法】様々だ。殺傷能力はない魔法だと思っていたけど、こういう使い方をさせたらメチャクチャ便利だった。

終焉牙の正面へと、僕は降り立った。

「終焉牙、話を聞いてくれますか。戦闘に突入したことは悲しいすれ違いです」

『…………』

「僕の仲間が大勢傷つき、命を落としました。あなたも前足を失いました。これ以上戦うことはお互いに利益がないですし、幻想鬼人が喜ぶだけです」

『……ヴィ、幻想鬼人め……』

終焉牙の怒りは収まっていなかったけれど、それが少しずつ、幻想鬼人へとすり替わっていくのを僕は感じた。

「お願いです、戦いを止めてくれませんか。あなたの世界へ戻って欲しい。そうしたら僕が、あの空の亀裂を——レッドゲートを閉じます」

『……小さき者、なにができる? ……いや、お前は、そうか……』

なにかを感じ取ったのかもしれない。僕が、【森羅万象】を持っているからだろうか? あるいは腰の道具袋に入っている【離界盟約】の天賦珠玉を?

「あの空を解析し、閉じます」

『……いまだ、幻想鬼人の気配を感じる……』

「ヤツはなにをしようとしているのですか」

『わからぬ……だが……ぬっ』

終焉牙の目の色が赤く染まった——それはあまりに突然のことで、なんの予兆もなかった。

『グルルルルアアアアアアア!!!!!!』

とっさに【風魔法】を展開したけれど咆吼の威力を殺しきれなかった。僕の身体はボールのようにはね飛ばされて後ろへ飛んでいく。全身をひっぱたかれたような衝撃は【回復魔法】で癒しながら、空中で向きを変え、着地する。

『「災厄ノ子」ガ、小癪ナ真似ヲ……! 巨大種ハ我ラノ駒ダ!!』

「調停者!!」

終焉牙の顔に、まとわりつくような黒い炎が発生している。

調停者だ。

ヒトマネやフォレストイーターのときには精神を操っていたようだけれど、今、調停者は直接終焉牙をのっとっているのだ。

「マズい——」

終焉牙の身体を使って、調停者は先ほどの魔法をもう一度放とうとする。【闇魔法】に属するその魔法は、魔力の鎧を捨ててでもロケット弾のように楔を発射する。

ずらりと、並んだ楔の数は100を超えた。

終焉牙の身体からは急速に生気が失われ、瞳からは血の涙が垂れ、毛皮は枯れ草のようにしおれていく。

終焉牙の魔力は100発も魔法を撃てるほどない。

だから——生命力を犠牲にして魔力へと転換したのだ。

自分の身体ではないからできることだった。

「皆さん、逃げてください!!」

僕が叫ぶまでもなく、多くの兵士たちが逃走態勢に入っていた。

だけどグレンジード様やあの長身の騎士は両腕を組んでその場に立っている。

まるで——僕が戦っているのを放って、逃げるわけにはいかないとでも言いたげに。

(でも、でも、今からなにができる? もう魔法は発動しているのに!)

考えを巡らすけれど、1本や2本の楔を吹き飛ばすことはできるとしても、3桁は不可能だ。これは魔導飛行船を撃ち落とすようなしろものなのだから。

そんな僕をあざ笑う調停者が、告げる。

『コレデ「災厄ノ子」ニ煩ワサレルコトモナクナル……カカカカカカカカカカッ!』

100本を超える【闇魔法】のロケット弾が発射された。