軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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★ ダークエルフ集落 近隣 ★

「急げ! あの初夏鳥の群れ、尋常ではない!」

ノックは声を張り上げ10人からなる部隊を叱咤激励した。

しかし早朝から日暮れまで移動し続け、さらには凶暴なモンスターとの戦闘をなるべく避けるために神経を張り詰めてきた隊員たちの疲労は限界であり——ここにきて全力疾走30分の追加は彼らの心臓と肺が全力で活動してなお足りなかった。

「ノ、ノック、もう、無理ダ……」

「いいから走れェ! 群れは集落に向かったぞ!」

ノックだけは図抜けた体力を持っていたので、ひとり部隊の先頭を突っ走っている。

30分ほど前、上空を飛んでいく初夏鳥の群れを見つけたのだ。それが集落の方向に向かっているとわかった途端、イヤな予感がノックの背筋を這い上った。

「わ、わかって、いる、だが、疲労困憊で、たどり着いても、戦えん……!」

「ヌウ!」

そのふがいなさが頭に来たが、彼の言うことももっともだ。

「さ、先に、ノックは、行ってくれ……」

「わかった!」

ノックはそれまで走っていた速度が冗談であるかのように、風になって走り出す。

その背中を見送りながら隊員たちは唖然とするしかなかった。

(いったいなにが。まさか、初夏鳥に手を出したバカなどはいないはずダが……)

それから突っ走ること15分、ノックは前方に光を見た。

渦巻くような初夏鳥の群れは確かに集落の上空にあった。肝が冷えた。あそこには仲間だけでなくハイエルフ様までいるのだ。

焦って走るが——しかししばらくするととてつもない炎が、まるで大地が天へツバでも吐きかけたような炎が噴き上がり、初夏鳥を散らしていった。

いよいよとんでもないことが起こったのだ。

ノックは全力で走って、走って、たどり着くと——そこには、

「な……なんダ?」

空は残照があるのみとなれば森の中は暗い。

だがところどころに炎の爪痕が残り、集落のある大樹の大地を照らしている。

ダークエルフたちは、 額(ぬか) ずいていた。

その中央には——ハイエルフ様がただひとり、立ち尽くしていた。どこか、困ったように眉をハの字にして。

やった。やってやった。いや、やらかした、かもしれない。

アナスタシアは魔力を残しながらも初夏鳥を散らすと放心したように空を見上げていた。

自分のいちばんまずいところをさらけ出してしまった。エルフの森に住む全員が忌み嫌う「炎」、その使い手であるということを。

嫌うような視線を、罵声を、覚悟はしていた。だが覚悟していてもぶつけられれば当然つらい。アナスタシアは真冬の防寒に衣服を重ね着するように、1枚1枚ゆっくりと心に鎧を重ねていく——。

「ハハァーッ!」

族長がまず跪き、両手を前に投げ出し、額を地面につけた。

それを見た他のダークエルフたちもまた同様に動いた。

アナスタシアを中心に、放射状にダークエルフが額ずいているのである。

「……え?」

「偉大なるハイエルフ様! さらに王族であったとは存じ上げず、失礼を申し上げましたァッ!」

「え?」

「卑小なる我らではお守り申し上げることすらできず、王族様のお手を煩わせてしまい大変畏れ多く、しかしながら王族様の魔力を感じることができ、この身に余る光栄でございますゥッ!」

ぽかん、とした。

なんだか思ってた反応と違う。

「あ、あの……私、【火魔法】で倒したのですけれど」

「この目にしっかと焼きつけましたァッ!」

「あの、話しづらいので顔を上げてもらえます?」

「畏れ多くも我らはァッ」

「あ、そういうのはもういいので、顔を上げてください……」

がばりと全員が一斉に顔を上げたので、「ひっ」と思わず変な声とともに蛍のような炎が飛んだ。

全員がアナスタシアを見ている。額に土をくっつけたまま。

「あ、あの」

押し寄せるような沈黙に抗って口を開くことがつらい。

「私、天賦ではなく、生まれつきの【火魔法】使いでして、それで……」

しーんと静まり返っているのがやはりつらい。

「そ、そのぅ……みんなイヤじゃないのかなと思いまして……」

「イヤ? 畏れ多くも王族様、疑問に感じておられることが理解できず、我が身の理解力の低さに絶望しております」

ほんともうそういう言い方止めて欲しい。

「火は……森を焼くでしょう」

「はい、もちろんです」

族長はいまだに「わからない」という顔をしながら、言った。

「しかし火がなければ生きていけませぬ」

その単純な言葉はアナスタシアの胸を衝いた。

火がなければ生きていけない。そのとおりだ。

料理にも使うし、消毒にも使うし、暖を取るのにも使う。

こんなにも素直に受け入れてもらえるとは思わなくて——じわり、じわりと込み上げる温かな感情に、思いがけず涙が出そうになる。

(この人たちは私の知っている「エルフの森」の住人とは違うのですね……。レイジさん、私、受け入れてもらえました)

早くレイジに伝えたいとアナスタシアは思った。

どれほどうれしかったかを。どれほど安心したかを。

「王族様! 我らをお導きください!」

一斉にまたダークエルフたちは額ずいた。

自分で言ったこととは言え「エルフを率いる者」とは大きく出たものである。

どうしよう——と思っていると、

「な……なんダ?」

という声がした。ノックが帰ってきたのだ。

アナスタシアはホッとする一方——思い出す。

「あっ! ニッキさんは!?」

ニッキが落下した木を見に行くと、その根元にはプンタが気を失って転がっており、横では包帯を巻かれたニッキと大の字になって伸びている地底人がいた。

「こいつッ……!」

「止せ」

ダークエルフのひとりが短剣を抜くのを、族長が押しとどめる。

地底人はぜえぜえと息をしながら、

「……勇者が、大ケガしてるってのに、お仲間の登場は遅せェじゃねェか……俺の手当が遅れてたら、ヤバかったぞ」

勇者、という言葉はアナスタシアから見てもニッキにはぴったりだった。

地底人の手は血まみれで、そばには薬らしき瓶が転がっていた。

彼が治療をしてくれたことは間違いない。

「なぜあなたは……? それ以前に、どうしてここにプンタさんと?」

アナスタシアが問うと、倒れている百人長の瞳に——畏怖がちらりと見えた。

ダークエルフたちは問答無用でアナスタシアに服従したが、地底人の彼には恐ろしい存在に見えたことだろう。

安堵と感動で浮ついていたアナスタシアの心中は、引き締まる思いだった。

これから彼にいろいろと聞かなければならないだろう——。