軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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★ ダークエルフ 集落 ★

百人長は頭を抱えたくなった。

ダークエルフの集落には主力となる戦士がいなかったのだ。地底人の部隊を苦しめた、身長2メートルを越す戦士——ノック——がいない。

主力が留守の集落に初夏鳥を連れてきてしまったのだ。

これでは勝てない。勝てるわけがない。

初夏鳥がダークエルフを翻弄し、傷つけていく。百人長はプンタを大樹の根元に隠すと、自分も物陰で息を潜めた。

(クソッタレ。これじゃあダークエルフが全滅して終わりじゃねェか! こんなにとんでもねェモンスターがいるなんて聞いたことがねェぞッ!)

自分の不運を呪えばきりがなかった。

正直なところ、ダークエルフ種族が滅びようが生き延びようがどっちでもいいのだ。

天賦珠玉の取り合いでは邪魔になるが、それだけで、この数十年はお互い距離をとって暮らしてきた。

(なんなんだよ……急に天賦珠玉が見つかりやがって……アレさえなけりゃ、わざわざこんな顔色の悪りィ連中を相手にすることなんざなかった)

ちょうどダークエルフ集落と地底都市との等距離あたりで見つかった天賦珠玉は、生活を一変させるものとして地底都市ではとてつもなく価値のあるものとして扱われることになった。

(天賦珠玉だろうがなんだろうが、命あってこそだろうがよッ……!)

初夏鳥が近くで声を上げたので、思わず百人長は首をすくめた。

地底都市では武勇で鳴らす百人長も、初夏鳥が1羽ならまだしも、これだけの群れとなってしまえば嵐が通り過ぎ去るのを願うしかない。

だが今の初夏鳥は、威嚇の声ではなく悲鳴のようだった。

ハッとして見上げると高いところでダークエルフがナイフを初夏鳥の目に突き刺している。

(な、なんだありゃ)

女ダークエルフは身体を焼かれながらも初夏鳥を殺そうとしている——せめて道連れにしてやろうとしているのだ。

どくん、と心臓が高鳴った。

あれこそが戦士だ。あれこそが勇気ある者の姿だ。

ここで地面に這いつくばっている自分が、たまらなく情けなく感じた。

「あァッ」

ダークエルフは初夏鳥から落とされると、木の中に突っ込んで行く。それは奇しくも百人長がいる木だった。落ちてくるかと思って身構えたのだが、落ちてこない。

「どっか枝に引っかかってやがる」

地面に衝突するような大惨事は免れたが、しかし身体は大やけどを負っているはずだ。

すぐの手当が必要だろう。

「助けてやらなきゃ——」

気がつくと、身体が勝手に動いていた。大木にしがみついて登り始めていた。ここはダークエルフの小屋が設置されていない木なので、補助はない。

だが腕力と運動神経が自慢の百人長には木登りなんてたいしたことはなかった。ポケットには地底人の軍属に与えられる特製の傷薬がある。これを塗れば助けられるかもしれないと思うと、無我夢中で登った——。

ダークエルフ族長は左足を折られたが、身体を大木の幹に預けながら、器用に矢を放っていた。

しかし矢の残りは心許なく、さらには戦える仲間の数はどんどん減っている。

極めつけはアナスタシアの防御を任せていたニッキが初夏鳥に空へと連れ去られたことだ。その後を見ていないが、族長はアナスタシアをひとりにはできないと、折れた足を引きずってそちらへ向かおうとした——。

全身に走る震えが身体を押しとどめた。

「私は、アナスタシア」

尊崇するハイエルフの身体から放たれた、濃密な魔力が、彼女を輝かせる。

ふわりと長い髪が浮いて、火の粉が渦を巻いた。

その炎は、初夏鳥の赤い炎とは明らかに違う——彼女の美しい髪のごとき白金色だった。

「ハイエルフの王族にして、エルフを率いる者!!」

その言葉が族長を貫き、脳がしびれる。

次に起きた出来事をなんと表現すればいいのだろう。後世に語り継げばいいのだろう。

アナスタシアが右手を振り上げると、炎が、まるで空へと打ち上がる断頭台の刃のように閃いて、旋回する初夏鳥の群れに激突する。

パッ、と光が散って、アナスタシアの炎に触れた初夏鳥の身体は次々に誘爆していく。

上空は大混乱だ。

アナスタシアの放つ炎は2撃目、3撃目と連続していく。

『クェェェェェェ!!』

そこへ、滑空する初夏鳥がアナスタシアの四方から迫る。

アナスタシアはなにひとつあわてた様子もなく、左右に手のひらを突き出すと、ひらりとその場に一回転した。

ゴォッ——。

彼女を中心に10メートルほどの炎の円ができる。

炎は恐ろしいまでの上昇気流を作りだし初夏鳥はバランスを崩して彼女の周囲に墜落する。

衝突の衝撃で土砂が舞い上がり、炎の円に触れた初夏鳥は火炎放射器のように高く高く炎を噴き上げる。

——ギィーッ。ギィーッ。ギィーッ。

——クェェエエ。クェェエエ。

——ギィーッ。ギィーッ。ギィーッ。

上空ではその数を、すでに半数まで減らした群れが何事かを叫んでいる。

戸惑っているようだ。

今まで、一心不乱に攻撃することだけを考えていた彼らが困惑しているのだ。

「…………」

アナスタシアは無言で空を見上げると、両手首を合わせて空へと突き出した。

「敵を穿つ矢となり、飛べ」

アナスタシアの身体から強烈な魔力が発せられると、その手からは到底「矢」とは呼べないような炎の奔流が打ち上がる。

大木の枝に触れるや瞬時に炭化させ、そこに載っていた小屋がバランスを崩して落ちていく。

炎は、初夏鳥の群れの中央で爆発した。

爆発は日が沈みかけていた周囲を真昼のように明るくし、直後に薄闇が戻ってきた。

断末魔の悲鳴が上空から聞こえ、蜘蛛の子を散らすように初夏鳥は逃げていく。

ちりぢりになった初夏鳥を追うことはもはやできないだろう。そして逃げる鳥影にはもはやなんの戦意も残っていなかった。