軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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レフ人の曹長たちに意見を聞くと、僕が「表の世界」に戻る手段を探すことは大歓迎だと言ってくれた。ただ、3人ほど体調を崩した者がいて、ついていくことができなさそうだという。

そのためにアーシャと僕の2人で行くのは危険だという意見だった。

とはいえ——僕らの意思が固いことがわかると、最後は納得してくれた。

「スーメリアはどうですか?」

その日の夜にお屋敷に戻ってキミドリママにたずねると、部屋にこもって出てこないらしい。

最悪、お別れもできないままかな……。

明日は早くから出発する予定だった。

「そう言えばキミドリゴルンさんもいませんね」

「あの子ねぇ。なんだかやりたいことが見つかったみたいで、あの子も部屋にこもりっぱなしなのぬ」

ああ、きっと魔術の開発だな——と僕が思っていると、

「湖畔でわけのわからない研究をしてたときと同じ感じなのよねぇ」

「…………」

さすがに「ゆで卵判別機」よりはマシだと思うんだけど……。

「——レイジさん」

部屋で旅支度を進めているとアーシャが言った。

「どう……思いますか? スーメリアちゃんのこと。私は……その、彼女も連れて行ったほうがいいと思うのです」

意外な発言だった。

スーメリアとアーシャは、お世辞にもうまくいっているとは言いがたかったのに、いっしょに行動すればケンカばかりになるだろう。

「……どうしてですか?」

「その……ひとりで残されることのさみしさはわかりますし、他の種族の町にたったひとりでいることのつらさもわかりますし……あ、で、でも、レイジさんがスーメリアちゃんを救ったことについては英断だったと思うのです。でも、その……ええっと」

両手をグーパーしてアーシャは口をあわあわしていたけれど、

「ご、ごめんなさい……なんだか、わかりません。頭がこんがらがってしまって……わたし、こんなふうに自分の思いを、複雑な考えを、口に出すことに慣れてなくて」

「——連れて行きましょうか」

「えっ」

「アーシャがそこまで言うのなら、スーメリアを連れていっても構わないと思います」

驚いたような顔をしていたアーシャは、一転して、じんわりとしたお湯に浸かったように微笑んだ。

「はいっ!」

だけど、

「——行かない」

部屋の入口から声がして、驚いて振り向くとそこにはスーメリアがいたのだった。

ドアを細く開けて、そこに彼女の赤い目が光っている。まるでホラー映画だけれど正体がわかっているので安心安心……じゃない。部屋にこもっているはずのスーメリアがどうして? と思っていると、

「いっしょに行く」

ドアをバンッと開いてスーメリアは言った。たたたと走って僕の腕をつかむ。年齢的には彼女の方が上なのだけれど、明らかにその行動は幼児のようだった。

「……つもりだった」

「つもり?」

「ん」

こくり、と大きくうなずいたあと、

「でも、やめたの」

「どうして……?」

スーメリアはじぃっとアーシャを見つめた。

「……連れて行かれるの、や。行く、行かない。決める」

その言葉に打たれたように、アーシャの背筋が伸びた。

「自分で決めたかったのですね……」

他ならぬスーメリアが言うと、重みを感じた。

地底都市から勝手に連れ去ったのは僕だ。薄れ行く記憶の中で彼女がなにを考えていたのかはわからないし、過去になにがあったのかはわからない。ひょっとしたら天賦珠玉もまた勝手に与えられたものなのかもしれない。

彼女は、自分で自分の未来を選びたいのだ。

だから、周囲に決めて欲しくないのだ。

「……いいのですね、スーメリアちゃん」

「ん」

「もう、レイジさんとは会えないかも知れませんよ」

「んーん」

ふるふるとスーメリアは首を横に振ってから、アーシャを指差した。

「負けない」

「……え? それはどういう——」

次にスーメリアがとった行動は完全に予想外だった。

僕の腕を引くと、頬に唇を当てたのだった。柔らかいけれど、いまだ少し荒れている感触とともに「ちゅっ」と小さな音が鳴った。

「な、な、な、な」

とアーシャが震え、

「レイジ」

スーメリアは僕の顔をつかんで自分の顔へと向けた。

「——また会う。会いに行く。ぜったい……」

そう言うと——それはまるで宣戦布告のような言い方で——たたたと走って部屋を出て行ったのだった。

ちゃんとドアを閉じないところも幼児のそれで、ギィ、と音が鳴ったまま中途半端な角度でドアは止まった。

「なあ〜〜〜〜〜〜〜!?」

ボン、ボン、ボン、ボン、とアーシャの周囲で火の玉が爆ぜた。

僕とアーシャはふたり、早朝から竜人都市を出ることにした。

多くの竜人が見送りに来てくれて、中には泣いている人もいた……「これから大浴場ナシでどうやっていったらいいんだぬろぉ……」という長老たちだったけどね。

「レイジ!」

すると見送りの人垣をかき分けて、キミドリゴルンさんが出てきた。

しばらく見なかったなと思っていたのだけれど、服は汚れてくたびれている。

そして手には水差しと、金属の箱のようなものを持っていた。

「——できたんですか?」

「 試作品(プロトタイプ) だけどぬ」

水差しからじょろじょろと水を出すと、金属の箱に当たったそれは、ぷくぷくと気泡を発し、ほんのりとした湯気を立ち上らせた。

朝日に照らされたそれは黄金色の湯気だった。

「気をつけて……なんて言わなくても、大丈夫だろうけどぬ。言わせて欲しい。必ずまた会おうぬら!」

「はい」

両腕を広げたキミドリゴルンさんに抱きすくめられると、金属や触媒の混じった、陰気なニオイがした。

だけれどその力は確かな強さだった。

「いってきます!」

そうして僕とアーシャは竜人都市を出た。

目指すはラ=フィーツァの足跡だ。

この大陸のどこかに、「表の世界」へと戻る道筋がきっと、ある。