軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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スーメリアは肉体に異常はなかったのだけれど、やはり脳へのダメージは深刻だった。

「ほれ、ほれ、いい子だから離れるんだぬろ。レイジは今から大浴場に水を入れて、新しい大浴場も作らなきゃならんのだ」

「や!」

「ほれ、ほれ、それまではあそこでヒマをこいているジジイどもと遊んでおいで。なに、見てくれは違うが、怖くはないぬろ」

「やー!」

赤の長老がスーメリアをあやそうとするのだけれど、彼女はいやいやをして僕の背中にしがみついたままだった。

魔法を使うのに危ないから離れていて、と言ったら、断られたのがつい先ほどのことである。

ブロンドの猫っ毛はあちこちで絡まり、結ばれてしまっていて、竜人都市に帰ってきた夜にはキミドリママが「もったいないねえ」と言いながらほどけそうもないところは切ってしまっていた。

二重まぶたに長いまつげのせいで赤い目はぱっちりしており、ひび割れてがさがさの唇や、荒れた肌がなければ年相応の可愛らしさだったんじゃないだろうか? 年齢は16歳か17歳くらいだと思うんだけど。

きりっとした美形のアーシャとは違って、全体的に柔らかく丸い印象を受ける。

今は地底人の服ではなくてキミドリゴルンさんの家にあった女性服をもらってそれに袖を通していた。ただ、竜人は尻尾があるのでお尻が空いており、そこは急遽縫われてある。

スーメリアはフードがないと落ち着かないようで、長めの手ぬぐいを頭からかぶっていた。

「スーメリアさん、私といっしょに遊びませんか?」

「…………」

記憶の欠落のせいか、すっかり幼児返りしたスーメリアは、アーシャですら警戒している。

「……や」

「ど、どうしてですか」

拒否られて地味にショックっぽいアーシャ。

昨日、僕が竜人都市に帰ってきたときもなぜか驚いたような、ショックを受けたような顔だったっけ。スーメリアのことを説明すると、目に涙を浮かべ、「私でよければなんでも力になりますから……!」と言っていた。

「……あなた、てき」

「敵!? 敵じゃありませんよ〜。ほ、ほーら、私、こんなふうに火の玉でお手玉できるだけのふつうのハイエルフですから〜」

アーシャが火の玉でお手玉を始めたが、そのツッコミどころ満載の言葉に僕と、横にいたキミドリゴルンさんが真顔になる。

「と、とりあえずレイジ、そのままやれるか試してみたらどうだぬ?」

「わ、わかりました……あと大浴場増やすことがいつの間にか決まっているのですが」

「娯楽を与えてしまったお前が悪いぬ」

え、ええ〜……。

僕は後ろにぴたりとくっついているスーメリアを気遣いながら、カラッポの大浴場に向け、魔法で水を放った。スーメリア、僕より背が低いとは言っても数センチしか違わないからなぁ……。

差し出された僕の両手から、放物線を描いてドドドドドと水が大浴場に注がれると、午前の陽射しが虹を作った。

「おお〜」

すでに黒山の人だかりとなっている大浴場の周囲で、歓声が上がる。

実のところ僕がいない間は小川を使って貯水は事なきを得ていたらしいのだけれど、小川は生活に利用される資源でもあるので、こちらに水を回すと水が足りないところが出てきてトラブルにもなっていたようだ。

どうにかしなくちゃなぁ……僕らだってずっとここにいるわけにはいかないし。

「炎よ」

水が入れば、アーシャが【火魔法】で湯を沸かす。彼女の火力コントロールはもはや達人の領域で、あっという間に大浴場が適温になると、

「よっしゃぁああ!」

「行くぞぉ」

「たまらんぬろぉぉ」

「あっ、このクソジジイども! アンタら、毎日毎日ずっと大浴場に入り浸りじゃないか!」

キミドリゴルンさんが、長老たちの無法を叱っているが、長老はどこ吹く風でほかほかのお湯にぷかぷかと浮かんでいた。くつろぎすぎだろ。

「まったく……ルールをちゃんと作らなければダメだぬ。きっちり設計して、都市民全員がローテーションで風呂に入れるように……」

ぶつぶつと言っているキミドリゴルンさんを見て、僕は気がついた。

「そうだ——キミドリゴルンさん。思いつきましたよ」

「ん、なんだぬ?」

「あなたにとても向いているお仕事です」

キミドリゴルンさんは「ゆで卵発見」という謎の研究を湖畔の別荘でひとりで続けていた。

それは無駄かもしれなかったけれど、狩猟によって食料を確保している竜人都市には ない(・・) 特別な知識を彼にもたらした。

「我に向いている……仕事?」

たじろぐような、だけれどどこか期待したような目のキミドリゴルンさんに、僕はうなずいた。

「魔術を教えます。魔法がなくとも風呂に入れるようにしましょう!」

もう片方の大浴場に水を張り、竜人都市の他3箇所に大浴場を作るための下準備で【土魔法】を使いまくった。

その間、僕は知りうる限りの魔術に関する知識をキミドリゴルンさんに与えた。

魔術は魔法を再現するもので、魔力の代わりに触媒が必要になる。

それが、魔力を含んだ石、魔石だ。

これを使った道具が魔道具である。

水を出す魔道具、水を温める魔道具は初歩的な知識で作ることができる。

もちろん、井戸から汲んで風呂釜に水を張り、火で沸かすこともできるけれど、竜人たちが望んでいるのは風呂としての機能だけでなく、多くの人が集まる「社交の場」だ。

大浴場を作るには、魔道具が必須だった。

「——なるほど。モンスターの内臓にくっついている魔石も、持って帰ってきてもらうようにすれば燃料には事欠かないぬ」

「そうです。難しいことではありませんよね」

キミドリゴルンさんに説明した魔術の知識は初歩的なもので、それ以上は僕は知らない。初歩的なこの知識も【森羅万象】でこれまでに見てきた魔道具の回路を解析して得たものだった。

こんなことになるなら魔術の本でも読んでおけばよかった……!

「おお、レイジ殿」

大浴場工事と魔術レクチャーが終われば、今度はレフ人たちとともに竜人都市の代表者と会議だ。

働き過ぎな気がする。お昼も食べてないし。

「お腹空いた」

「うわあ!?」

忘れてた、スーメリアが背中に張りついたままだった。

「食事を用意しました。簡単なサンドイッチですが……」

会議場に着くとアーシャがバスケットを用意していてくれた。パンを切って食材を挟んだだけの、確かに簡単なサンドイッチではあったけれど、

「これ、アーシャが?」

「は、はい……初めて作ったので変かもしれませんが」

「そんなことないですよ。誰かにご飯を作ってもらうと、美味しいですよね」

甘辛いタレのついた肉が挟んである。僕がそれを口に運ぶと、後ろから手が伸びてきてスーメリアもサンドイッチにかぶりついていた。

「ス、スーメリアさん、お味はいかが……ですか?」

「ん」

もっもっもっもっ、と口を動かしてうなずいている。美味しいらしい。

「まあ。まあまあまあ! もっと召し上がってくださいませ!」

アーシャの表情がぱぁっと明るくなった——どんな表情をしていてもアーシャは美形だけれど、やっぱり、笑った顔がいちばん可愛いな。