軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キッカ観光

キッカに到着した俺は、ルンバと共に馬車を降りて道を歩いていた。

今夜の宿の手配、荷物の整理といった細々としたことはトリーがやってくれるので問題ない。

ここで一泊して、食材や必要なものを補給。そして、英気を養って明日には港町エスポートへと出発するというわけだ。

アーバインとイリヤはトリエラ商会の護衛をしており、アリューシャとモルトは今後必要であろうものを買いに行っているというわけだ。

大してすることがないのは俺とルンバだけなので、この組み合わせで街を歩いているのである。

大通りの左右には様々な屋台が立ち並び、肉の焼ける匂いや果物、お酒といった人々の胃袋を刺激する匂いで満ちている。

その中を様々な人が行き交い、様々な人の話し声や商人達のかけ声、笑い声が幾重にも重なって耳を埋めていた。

「随分と活気がある街だね」

視界に溢れるは多くの人ばかり。小麦色の肌をした民族的な衣装を着た女性に、色白の肌をした妙に厚着をした男性、上半身裸で体に刺青を入れた男性と、王都の商店街よりも色々な人種が集まっている気がする。

「ここはアルドニア王国とミスフィリト王国を繋ぐ街だからな。色々な人や物が集まっているんだ」

ルンバはキッカに何度も来たことがあるらしく、慣れた様子で人混みの中を歩いていく。

ルンバが歩けばその見た目と迫力に押されて、人々が勝手に避けてくれるために子供である俺も歩きやすい。ベタな展開である、はぐれないように手を繋いでおくというむさ苦しい展開にもならないのだ。

まあこの身長差じゃ、手を繋ぐよりかは肩車をしてもらった方が良いと思うけど。

歩き疲れたら肩車をしてもらって楽するのもいいなと考えながら、俺は立ち並ぶ屋台や店へと視線を巡らせていく。

「おっ! あれ美味そうだな!」

そんな中、周りにいる人々よりも頭一つ分高いルンバが何か見つけたのか、俺の手を引いて歩いていく。

結局、手を繋がれてしまった。

しかし、人混みの中で子供と手を繋いで歩くと、結構な道幅をとってしまう。

これにはルンバを避けて歩く人も迷惑そうな表情をしている。

「ルンバ、手を繋いだら歩きづらいから肩車をしてくれる?」

「おう、わかった!」

俺の言葉に納得したルンバは、俺の脇に両手を入れてひょいと持ち上げ、肩に乗せる。

俺の視点が急に高くなり、さっきまで見上げる側であったのが、見下ろす側になった。

老若男女の頭のつむじがはっきりと見え、奥にある店や屋台まではっきりと確認することができる。

これは良い場所だ。それに乗り心地も悪くない。ルンバの身体は鍛えられているせいか体幹のぶれがほとんどなく、あまり揺れないのだ。

そのため、俺は馬に乗るよりも快適に座っていられることができるのだ。初めからこうしておけば楽だったな。

そんな事を考えていると、ルンバがお目当ての場所へと着いたようだ。

「らっしゃい!」

俺達を見て威勢よく声をあげるのは、網で串に刺さった鶏肉を焼いているおっちゃん。

一瞬、焼き鳥かと思ったりもしたが、塩や胡椒で味付けをしたもののようだ。

どうせ食べるならタレがいいのだが、塩味もさっぱりしていて悪くはない。

列に並んでいた先客が鶏串を持って流れていき、俺達は何本食べるか話し合いながら順番を待つ。

「へいよ、何本だい?」

「鶏串六本!」

「あいよ!」

勿論三本ずつなわけはなく、ルンバが五本、俺が一本だ。

せっかくキッカに来たのだ、今までに食べた事のない料理も食べてみたい。少しずつ色々な種類の料理を食べていこうと思う。

鶏串自体はありふれたものだが、馬車の旅で新鮮なお肉が恋しくなったのも事実。一本くらい構わないだろう。

空間魔法で食材を取り出せばすむのだが、今は馬車の旅を楽しんでいるので使ってはいない。こうした旅の空気を楽しむのもいいのだ。

もっとも、帰り道には飽きて使っている可能性が高いのだが……。

「お二人さんは親子かい? 髪色は似ているけど顔立ちは似てないねぇ」

鶏串を網の上で転がしながら、おっちゃんが話しかけてくる。

「いや、違うぜ。こいつは親友の息子さ。俺の子供じゃねえよ」

苦笑いしながら言うルンバに続いて俺も首を縦に振る。

「あー、そうなのか。道理で似てない親子だと思ったよ」

「こいつは実の父親にも似てないけどな」

何てことを言って、おっちゃんとルンバは笑い出す。

シルヴィオ兄さんのように色濃くノルド父さんの血を継いでいたら、もっと美形に生まれていただろう。そうすれば俺の人生はもっとイージーモードだったのかもしれない。

おっちゃんとルンバが会話を交わしていると、ほどなくして鶏串が焼けたので硬貨と交換して立ち去る。

「またな!」

「おう! 帰り道にも通るから買いにくるぜ!」

こういう小さな出会いと別れは、前世の世界では薄れつつあったものなので何となく好きだ。

鶏串を食べていると、喉が渇いたのかルンバが先にある屋台を指さす。

「おっ、あっちにエールと果実ジュースがあるぜ! 買いに行くぞ!」

塩の効いた鶏串を食べて、単にお酒が飲みたくなっただけなのかもしれない。

今日はもう観光するだけなのだから、昼間っからお酒を呑もうが問題もない。

多少のお酒が入ろうが、ルンバはザルなので酔う事もないしな。

エールを売っている屋台で、嬉々として木製のコップを受け取ったルンバは早速とばかりに口をつける。

「……ぬるい」

不満げに漏らす一言。

「そりゃ、屋台で売っているエールだしね。氷や冷水の魔導具で冷やしているわけないじゃないか」

高級料理店ならともかく、屋台で売っているお安いエールをキンキンに冷やせというのは難しいものである。できないことではないが、確実に赤字になるだろう。

「アル! いつもの頼めるか?」

「はいはい」

ルンバが持ち上げたコップを受け取り、氷魔法を発動する。

コップから微かに冷気が漏れて、あっという間に全体が冷えた。

いつものと言われるぐらいに、セリア食堂や屋敷で回数を重ねているのでエールを凍り付かせるなどというへまはやらかさない。

うちの村人達はお酒が大好きなので、よく頼まれるのだ。

この世界、氷魔法でも使えないかぎりは、ちょっとしたお金持ちしか冷えたものを飲む事はできないので仕方がないことでもある。

そのせいで宴会や誕生日などで招かれたりするのだが、いつも新鮮な野菜や果物、肉などを分けてくれるので気にならない。

「おー! これだよ、これこれ!」

俺から冷えたエールを受け取ったルンバは、ごくごくと喉を鳴らしてたまらんとばかりに息を吐く。

俺も前世ではお酒を嗜んでいたので、少し羨ましく思う。この世界での成人は十五歳とされ、そのくらいの年齢になるとお酒を飲む事も可能だ。

きっちり十五歳まで飲むのを禁止されているわけでもなく、子供の身体に悪いからという比較的曖昧なものなので、十三歳くらいには飲ましてくれるだろう。

その頃に、舌や体が美味しく感じてくれるかどうかはわからないが、あと二倍もの年月の間お預けか。何とも寂しいものである。

というか俺も喉が渇いたぞ。

「ルンバ、俺も喉が渇いたからジュース買いに行こうよ」

「ん? おお、悪かったな。つい、冷えたエールが美味くてな。さて、キッカならではのブドウジュースを買いにいくか」

たてがみのような茶色い髪の毛を引っ張って抗議すると、ルンバが歩き出した。

これで気付かなければ、眼帯のゴムを引っ張ってパチンとやってやるところだ。

「ブドウジュースって、王都でも飲めるよね?」

うちの村では採れないが、王都なら流通している。空間魔法で収納しているので、キッカならではとは言い難い。どうせなら見たことの無いジュースがいいのだが。

「ここにあるブドウはアルドニア産のブドウでな。ぶっちゃけうちの国のブドウよりも美味いんだ。酒と割れば芳醇な飲みやすい酒に変わり、ジュースにするとドロドロで濃厚なものになるんだ」

「……なるほど。そこまで言うなら期待するよ」

王都のブドウと大して変わらなかったら、眼帯パッチンしてやる。

ルンバの言葉に期待しながら、五つ屋台を通りすぎるとそれらしい屋台があった。

大きな樽を三個並べてあるだけの簡素な屋台だが、人の賑わいが凄い。

先程の鶏串屋台やエールの屋台とは比べ物にならないほどの人々が、コップを手にして並んでいた。

「アルドニア産の濃厚なブドウジュースが一杯、銅貨六枚だよ! 高いと思う人は飲んでみると分かるさ! 美味しさは保証するよ!」

女性の店員が威勢のいい声を張り上げて、客を引き寄せる。

王都でのフルーツジュースですら銅貨三枚程度であったのに、その二倍。普通のジュースなら二杯は飲める値段だ。

しかし、そんな事を気にしないくらいの客が並んでいる。

客引きとは別の若い男性が並んでいる人からお金を受け取り、コップを渡していく。

すると、お客がコップを手にして樽についているレバーを引く。すると、そこからどろりとした黒に近い紫色のジュースが流れ出した。

なるほど、お金を払ったら自分で入れるのか。

「な? 人気だろ?」

「うん、早く並ぼう!」

急かすふうに言うと、ルンバが一番後ろの列へと並ぶ。

結構な人が並んでいるが、お金を払ったらセルフサービス式なので、結構な速さで人がはけていく。

美味しそうにコップをこくこくと煽っていく人々を見ながら、俺も期待して待つ。

そして待つこと十分。あっという間に俺達の順番だ。途中で樽がなくなってヒヤヒヤしたが、まだまだ樽が残っているようで安心した。

自分でジュースを汲む時に、肩車をしていてはやりづらいので、一旦ルンバの肩から降りる。そして、店員さんに銅貨六枚を払って専用のコップを受け取る。

さあ、これからジュースを汲もう、というところで店員さんから制止の声がかけられた。

「ああ、駄目ですよエールのコップで入れちゃあ!」

「ん? ダメなのか?」

「エールのコップは専用のコップの二倍あるじゃないですか。うちのコップでお願いします」

どうやらルンバがエールのコップで入れようとしていた所で止められたらしい。

容量の違いによって値段が変わるからであろう。結構しっかりしているな。

というかルンバは初めて飲むわけでもないのに、何をしているのだろうか?

俺が疑問に思っていると、専用のコップを受け取ったルンバがやってくる。

「……前回はいけたんだけどなあ」

なるほど、前回は混雑を利用してエールのコップで汲んだのか。意外と強かだなぁ。

レバーを引くと、樽から濃厚なブドウジュースがどろりどろりと流れてくる。ジュースとは思えないくらいに濃厚な液体に感心しながら、零さない程度にまで汲む。

下にある石畳の地面を見れば、悲しいかな。欲張った故に無駄にされたブドウジュースのシミが数多く残されていた。

きっとそれほど美味しいのだろう。

コップに入れたブドウジュースを持って、道の端にまで歩くとルンバもかなりの遅い歩みで続いた。

理由は表面張力がぎりぎりまで汲んでいたからだ、途中でこぼれそうになり口をつけて啜りながらこちらへとやってくる。

「入れすぎだよ」

「それくらい美味いんだって。飲んでみろよ」

ルンバに促されて口を付けると、どろりとした重みのある液体が口の中へと入って来る。

口内を圧倒的に支配するブドウの芳醇な香り。そして舌に染み渡るようにあふれ出す甘み。

想像以上に濃厚なブドウジュースだ。

「すっごく濃厚だね」

「ははは、だろー?」

驚愕の声を上げる俺の反応を楽しむように笑うルンバ。

悔しいけれど、ルンバの言う通りの美味しさだった。これなら銅貨六枚を出しても惜しくないと思える味だ。王都にあるブドウとは比べ物にならない味だ。同じブドウでもこうはいかないだろう。アルドニアならではの特産品のようなものか。

感心しながら、俺とルンバはちびちびと味わうように飲んでいく。

コップの中身を半分にまで減らした時だろうか、俺はふと思いたった。

「これって、氷魔法で冷やしてシャーベットにしたら美味しいんじゃないか?」

「しゃーべっと?」

片言のような喋り方で首を傾げるルンバを放置して、俺はコップを氷魔法で冷やす。

あくまでもキンキンに凍り付かさない程度にだ。この絶妙に力加減が結構難しい。

パキパキと音をたてて、薄い膜が液体を覆っていく。

それから俺は土魔法でスプーンを生成し、程よく凍り付いたブドウジュースに突き立てる。

ザクッという雪を踏みしめたような、子気味良い音が鳴る。

いい感じにシャーベットになっている!

それから俺はスプーンでほぐすようにかき混ぜて、ひと掬い。

紫水晶にも似た煌きがスプーンの上に積み上がる。

「何だそりゃ? 砂……氷か?」

ルンバが口を半開きにして見守る中、俺はスプーンをゆっくりと口へと運ぶ。

噛めばサクリした軽快な音がして、口の中の体温によってほろりとシャーベットが溶ける。

溶け出したシャーベットからは、濃厚なブドウジュースをさらに濃縮したような味と気持ちのいい冷たさがやってきた。

「このコンビは最強すぎる……」

春であってこの美味さなのだ。熱い夏に食べればもっと美味しく感じられるだろう。

アルドニア産のブドウ……侮れない。

氷魔法が使えて、アルフリートは幸せです。神様、感謝します。

「おい! 美味いのか!? よくわからんが、俺にもそれをやってくれ!」

俺が天にも昇るような状態になっている所を、ルンバが肩を揺らすことによって現実へと引き戻す。おお、このままの状態でいたらシャーベットが溶け出すところだった。

俺はルンバのブドウジュースにも氷魔法をかけてやり、シャーベット状にしてやる。

それから土魔法で同じくスプーンを作ってあげると、貪るようにシャーベットをかき込んだ。

ルンバが頭痛に苛まれるようになるのは、言うまでもなかった。