軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皆で買い出し

「シューゲル様にアルが揚げ物料理を振る舞うことになった」

「そういうことだろうと思ったわよ」

私室に戻り、ノルド父さんが事の顛末を話すとエルナ母さんが呆れたように言った。

面倒事にそうそうなることはないと言った後でのこれだ。

俺を信用してくれ発言は、今後しばらく二人に通用しないと思った方がいいな。

「まあ、別にちょっと料理を振る舞って、気に入ってもらえたら対価と引き換えに簡単なレシピや調理法を教えるだけだよ」

「そうは言うけど、私としてはそれだけで留まる気がしないのよね」

「怖いこと言わないでよ」

留まる気がしないってどういうことだろう?

シューゲルに揚げ物料理を作ってあげるだけだ。事が大きくなる要素がまるで見当たらないんだけど。

「もう、今日は三人で枕を買いに行く予定だったのに」

睡眠羊の枕を抱き締めながらエルナ母さんが拗ねたように言う。

……あ、そういえば、今日は二人をスリーパスに紹介する予定だったのを忘れていた。

「料理を振る舞うのは夕食だし、午前中にスリーパスに行けば問題ないよ」

「シューゲル様に料理を振る舞うのよ? 万全な体勢を整えていた方がいいわ」

「うん、僕もそう思うよ」

振る舞う相手が公爵家の当主とあってか、二人がとても慎重だ。

でも、なんだろう? 正しいことを言われているはずなのに釈然としない気持ちがある。

「アルは準備で忙しいことだし、寝具店には私とノルドで行くことにするわ。アル、スリーパスへの紹介状をお願いできるかしら?」

……あ、エルナ母さんってば、ノルド父さんと二人っきりでデートするつもりだ。

さすがにここまで狙いがあからさまだと俺にだって意図はわかる。

ノルド父さんは鈍いというより、家族愛が強いせいで気づいてないっぽいけど。

エルナ母さんが瞳を細めて無言で圧をかけてくる。

俺としても二人の甘酸っぱい空気はお腹いっぱいなので無理をしてまで味わいたくはない。

頭の中で即座にそろばんを弾き、俺はエルナ母さんを援護することにする。

「そうだね。紹介状は書いておくからスリーパスには二人で行っておいでよ。今日を逃したら、またいつお茶会が入ってくるかわからないからね」

「ありがとう、アル」

紹介状をしたためることを約束すると、エルナ母さんは嬉しそうに微笑んだ。

ここまで露骨なやり取りだとノルド父さんも俺の意図に気付いたようで気恥ずかしそうに苦笑する。

「アルはシューゲル様に何を振る舞うつもりなんだい?」

「串揚げだよ」

ミスフィード家には肉、野菜、海鮮と豊富な種類の食材があった。

串揚げなら一度でたくさんの食材を堪能することができるのでシューゲルも味の良し悪しを判断しやすいだろう。

「串揚げなら具材がたくさんあって色合いが豊かだし悪くないわね」

確かに肉巻きアスパラの一本揚げや唐揚げを山盛りにするよりも、遥かに見栄えがいい。

我ながらナイスチョイスだ。

「じゃあ、早速買い物に行ってくるよ」

「待ちなさい。食材の買い出しにはミーナかサーラを連れて行きなさい」

そのまま部屋を出ようとすると、ノルド父さんに引き留められてしまう。

一人の方が自由に動き回れて楽なのだが、二人は俺が空間魔法を使えることを知らないからね。

「アルフリート様! 私が同行します!」

チラリと視線を向けると、控えていたミーナが目をキラキラと輝かせて主張した。

「じゃあ、サーラで」

「アルフリート様、意地悪ですか!? お願いですから私も買い出しに付き合わせてください! 久しぶりの王都を満喫したいんです!」

「えー、どうしようかな」

「ノルド様もエルナ様もサーラばかりを贔屓してお茶会に連れていって、私だけがお留守番なんです! 私も外に出たいですぅ!」

「いや、贔屓しているわけじゃないからね?」

「ミーナ先輩の礼儀作法が未熟なのが悪いと思います」

ミーナの訴えにノルド父さんが慌てる中、サーラがきっぱりと告げた。

「えええん! 正論根暗後輩にいじめられますー!」

「……誰が根暗ですか」

ミーナがえんえんと泣きながら言うと、サーラが少し頬を引きつらせた。

ちょっとだけ気にしているのかもしれない。

「アルフリート様、できればミーナ先輩を選んでくださると助かります。私だけが同行すると後で絶対に面倒になるので」

サーラが軽くため息を吐きながら本音をぶっちゃけた。

ミーナが面倒くさくなると、一番に被害を受けるのは後輩であるサーラだ。

こうまで言われるとサーラを連れて行くのも可哀想だ。

「わかったよ。じゃあ、ミーナ付いてきて」

「ありがとうございます! アルフリート様!」

同行者を決めると、えんえんと泣いていたミーナはけろりと泣き止むのだった。

「アルー! 遊ぼう!」

ミーナと一緒に買い出しに向かおうとすると、ラーちゃんの声がした。

彼女の後ろには珍しくギデオンもいた。

どうやら俺を掴まえるべくロビーで待ち伏せしていたらしい。

「ごめんね、これから買い出しに行かないといけないんだ」

「えー? 買い出し?」

「一体、何を買いに行くというんだ?」

「料理に必要な食材を」

「料理? そんなものは料理人に任せて、俺の詠唱破棄の訓練に付き合え。もう少しで完全に物にできそうなんだ」

「ダメ! アルは私と遊ぶんだから!」

予定があることを告げているのに無理矢理割って入ろうとするギデオンとラーちゃん。

言っていることは同じなのに兄妹でここまで差が出るのが面白い。

「んんー、俺も料理人に丸投げしたいけど、シューゲル様の頼みだから」

「父上の頼みとはどういうことだ?」

「端的に言うと、昨夜、ロレッタと共に食べた揚げ物料理をシューゲル様も食べたがっているんだ」

ギデオンが怪訝な表情をしながら問いかけてきたので、俺は後ろで素知らぬ振りをしているロレッタを巻き込んでやった。

「ロレッタだけアルと美味しいものを食べたの?」

「え! いや、それはなんといいますか成り行きでして……」

「私には早く寝なさいって言うのに」

ラーちゃんから羨むような視線を向けられて、ロレッタが冷や汗を流しながら視線を逸らした。

こんな面倒なことになっているのにロレッタだけが無関係でいるのは面白くないからね。

「ふむ、父上も食べたがるほどの料理か。興味があるな。その揚げ物料理とやらを俺にも振る舞え」

「あっ! ギデオン兄だけズルい! 私もアルの手料理食べたい!」

たじたじになっているロレッタを見て溜飲を下げていると、突然ギデオンがそんなことを言い出し、ラーちゃんも便乗した。

あれ? なんだか話が大きくなっているような気がする。

「ええ? これはシューゲル様の頼みだし、俺だけに言われてもなんとも……」

「じゃあ、パパに聞いてくる!」

「ラーナ様! 廊下を走っては危ないですよ!」

シューゲルに丸投げすると、ラーちゃんが勢いよく廊下を走り出し、ロレッタが慌てて後ろをついていく。

廊下には俺とギデオンとミーナだけが残される。

「……ギデオンは一緒に行かないの?」

「ラーナが頼み込んで父上が首を横に振ることなど無いからな」

あれだけラーちゃんを溺愛しているからね。

可愛らしく一緒に料理を食べたいと申し出る娘の頼みを無碍にするシューゲルがまるで思い浮かばなかった。

程なくすると、ラーちゃんとロレッタを伴って戻ってくる。

その満面な笑みを見ると、結果がどうなったか容易に想像がついた。

「私とギデオン兄も一緒に食べてもいいって!」

「そっかー。それはよかったね」

許可を出すのは簡単だけど、料理を作るのは俺なんだけど。

「あの、アルフリート様、追加のお頼みになってしまい大変恐縮なのですが、フローリア様とシェルカ様の分もお願いできますと幸いです」

「三人だけってなると可哀想だもんね」

「人数が増えることに関しましては、追加で照明の魔道具を報酬として与えたいとのことなので……」

「わかった。それならいいよ」

それに見合うだけの対価を貰えるのであれば問題はない。

下準備の量が増えて多少は面倒になるけど、人数が増えたところで揚げ物はそこまで負担にならないからね。

「それじゃあ、買い出しに行ってくるよ」

「私もいくー」

「ラーナだけじゃ不安だ。俺も付いていこう」

「では、馬車の準備をいたしますね」

話が纏まったところで玄関に向かおうとすると、ラーちゃんとギデオンも付いてくる。

公爵家の者が外に出ることになると、当然のように馬車が手配される。

こうなるといよいよと大事の気配だ。

「アルフリート様、なんだか大事になっていませんか?」

「ちょ、ちょっと賑やかになっただけだって」

ただ食材の買い出しに行くだけだ。これ以上、騒ぎが大きくなることはない……はず。