軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二度寝の代償

「……アル、起きるんだ」

身体を揺すられる感覚によって意識が持ち上がる。

ゆっくりと瞼を空けると、穏やかな表情でこちらを覗き込んでいるノルド父さんがいた。

甘ったるい雰囲気を直視しないように目を瞑っていたら、いつの間にか俺も眠っていたようだ。

俺は瞼を擦りながら上体を起こす。

「ノルド父さん、ぐっすり眠れた?」

「アルの枕のお陰でね」

そう言って微笑むノルド父さんの顔色はかなり良さそうだ。

隣にいるエルナ母さんも元気になったノルド父さんを見て嬉しそうに頬を緩めている。

「この枕には睡眠羊の毛が入っているんだって? まさか、こんなにもぐっすりと眠れるなんて驚いたよ」

「気に入った?」

「気に入ったさ」

「でも、これはダメだよ。俺のオーダーメイド枕だからね」

譲ってあげたい気持ちはあるが、これは俺専用の枕なのだ。

ノルド父さんの頼みであっても譲れない。

「……アル、スリーパスを紹介してくれないかな? 僕もオーダーメイド枕が欲しい」

俺が枕を渡さないと抱きかかえると、ノルド父さんが真摯に頼み込んでくる。

「おお、ノルド父さんも枕の重要性に気付いたんだね?」

「アルほどの情熱があるとはいえないけど、これだけ質のいい睡眠が得られるのであれば買う以外に選択肢はないよ」

ノルド父さんも枕の重要性をわかってくれたようで俺は嬉しい。布教が成功すると気持ちがいいよね。

「いいよ! でも、紹介ってどうすればいいの?」

「紹介状をしたためるか、お店に同行すれば問題ないはずよ」

「じゃあ、明日にでも一緒に買いに行こうか」

「ありがとう。助かるよ」

わざわざ紹介状を書くのも面倒だし、他にも色々と見たい寝具があるからね。

約束をすると、ノルド父さんとエルナ母さんは嬉しそうに寝室を出ていった。

窓へと視線を向けると、空はすっかりと茜色に染まっており、薄闇が微かに顔を覗かせていた。夕食までまだ時間はある。

「もうひと眠りするか」

俺は二人がいなくなると今度こそ睡眠羊の枕を堪能するために二度寝をするのだった。

真っ暗な寝室の中で俺は何度も寝返りを打つ。

「……眠れない」

夕食を済ませ、お風呂から上がってサッパリし、ベッドの上でゴロゴロしてると、いつもは適当に眠気がくるものだが今日はまったくこなかった。

何も考えずに目を瞑ってみる。

そのまま五分、十分と経過するがやっぱり眠れない。

原因はわかっている。

真っ昼間に昼寝をした後に、睡眠羊の枕で眠ったせいだ。

睡眠羊のフェロモンはあくまで使用者の睡眠欲を引き出して睡眠へと誘うこと。

二度寝をバッチリとキメてしまったせいで睡眠欲が減退していれば、睡眠へと誘われることはない。

「睡眠羊の枕が届いたっていうのに、最初の夜がこんなことになるとは……」

そのままベッドでボーッとしてみるが、心地よい眠りへと誘われることはない。

ずっと眠れない状態が続く。

このままボーッとするだけっていうのも悪くはないけど、ちょっとだけ退屈だ。

それになんだかお腹が空いてきた。

今日の夕食は少し早めだったので深夜になってお腹が空いてしまったらしい。

「ちょっと厨房でも借りようかな」

亜空間から食べ物を取り出して食べてしまうのが一番楽だし簡単なのだが、どうせこのままだと眠れないしな。

これだけ長い期間、料理をしないのは久しぶりなのでなんだか落ち着かない気分だ。

料理をして美味しいものでも食べれば、眠れるようになるに違いない。

俺はベッドから起き上がり、寝間着から普段着に着替えると寝室を出た。

「……夜なのに明るいや」

ミスフィード家の屋敷には照明の魔道具が設置されており、深夜にも関わらず明るさがあった。もちろん、すべての魔道具から灯りが放たれているわけではないが、動き回るのにまったく心配がない程の明るさだった。

「うちにもこれだけの魔道具があれば、夜が怖くないんだけどね」

スロウレット家の屋敷は洋館風ということもあって、夜になると独特の怖さが出るんだよね。ノルド父さんは節約志向が強いみたいだが、俺としてはもう少し照明の魔道具を増やしてもいいと思う。

「……アルフリート様?」

考え事をしながら廊下を歩いていると曲がり角からロレッタが現れた。

「びっくりしたぁ」

「驚かせてしまい申し訳ありません」

声自体は小さなものであったが、まさか人がいるとは思わず驚いてしまった。

「ロレッタは夜の見回り?」

「はい。そうです」

そうだよね。これだけ屋敷が広い上に使用人も多いんだもの。見回りの人数だって多いよね。

「アルフリート様はどうされたのですか?」

「眠れない上にお腹が空いてね」

「でしたら、夜食をお持ちしましょうか?」

「いや、自分で料理をしたいんだ」

「アルフリート様がですか?」

まあ、普通の貴族だったら作ってと命令することはあっても、自分で料理をしたいなんて言わないよね。

「ダメかな?」

「いえ、問題ありません。厨房をお借りできるように手配いたします」

「助かるよ」

礼を言うと、ロレッタと一緒に階段を降りていく。

「それにしても、ミスフィード家のお屋敷は夜でも明るいね」

「照明の魔道具が潤沢にありますから。暗闇はあまり得意ではないので私としては助かります」

小さな声で雑談をしながら一階に降り、ダイニングルームよりも奥へと進んでいくと厨房らしく部屋から灯りが漏れていた。

こんな時間にも関わらず、ミスフィード家の厨房には料理人が待機しているようだ。

「少々お待ちください」

ロレッタは俺に待機するように言うと、先に一人で厨房へと入っていった。

「アルフリート様、どうぞ」

「ありがとう」

ロレッタに促されて俺は厨房へと足を踏み入れる。

ミスフィード家の厨房は俺が想像していたよりもずっと広く、様々な調理道具が並んでいた。

テーブルやシンクには汚れはついておらず、水滴の一つたりとも付着していない。

清潔感があり、手入れが行き届いている。

当然のように魔道コンロが何台も並んでいるし、俺の知らない調理用の魔道具らしきものもある。バルトロが見たら羨ましがりそうな光景だな。

奥のテーブルにはコック服を身に纏った料理人が数人ほど動き回っており、明日の朝の仕込みや料理の研究のようなものをしているようだ。

客人である貴族が何を作るんだというような胡乱げな視線を感じる。

普通の貴族は厨房に入ってこないもんね。

お邪魔させてもらっている立場なので軽く会釈をすると、向こうは驚きながらも会釈をしてくれた。

よかった。そこまで邪険にされているわけじゃなさそうだ。

「さて、何を作ろうかな……」

これが生前であれば、翌朝のことを考慮して軽いものを作って食べただろう。

お茶漬け、玉子雑炊、うどん、春雨と。

下手に重いものを食べてしまえば胸やけして眠れなくなったり、翌朝に胃もたれを引き起こすことになりかねない。

しかし、今の俺は七歳の子供であり、若さというエネルギーがある。

若さという名のエネルギーは異世界に満ちている魔力よりも不思議なもので、深夜に何を食べようが翌朝に響かないように肉体を保護してくれるのだ。

つまり、今の俺だったら深夜に揚げ物を作って食べても問題はない。

……やるか。深夜の揚げ物を。