軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ギデオンとブランチ

ミスフィード家にあてがわれた寝室で寝ていると、勢いよく扉を開ける音が響いた。

「うわ! なんだ!?」

あまりの騒音に熟睡していた俺は慌てて上体を起こした。

入口を見ると、なぜか俺の寝室にエリノラ姉さん――じゃなくて、ギデオンが入ってきていた。

「ギデオン様!? ちょっと! ここ俺の部屋なんですけど!?」

「ここは俺の屋敷だ。よって俺にはどの部屋にも入る権利がある」

「それもそう――いや、なんかそれは違う気がします」

あまりにも堂々と主張するのでギデオンの強引な主張に納得しそうになった。

勝手に入ってくるから後ろで若いメイドが涙目になっているじゃないか。

客人への無礼を働かせてしまった責任もあるが、次期当主であるギデオンに強く申すこともできない。そんな葛藤に苛まれてどうしたらいいかわからない模様。

とりあえず、入口でおろおろとしているミスフィード家のメイドには問題ない旨を伝えて待機してもらう。

はあ、なんで他人の家なのにスロウレット家の屋敷にいる時みたいな起こされ方をしなきゃいけないんだ。

「とりあえず、急に入ってきたことは気にしないことにして何の用です?」

ため息をつくたくなるのを我慢して、俺はギデオンに問いかける。

「貴様、いつまで寝ているんだ。俺との約束をしたことを覚えていないのか?」

「もちろん、覚えていますよ」

「だったらどうしてこんな時間まで寝ているのだ?」

「ええ? ……もしかして、朝の約束だったのですか?」

「朝に決まっている」

おずおずと尋ねると、ギデオンがきっぱりと言う。

あんな夜遅くにした約束なんだ。翌日といっても良識的に午後にするのが普通じゃないだろうか?

「すみません。なにも指定がなかったので午後からの用事だと思っておりました」

「ふん、まあいい。急いで支度をしろ」

なぜこんなに偉そうに言われなければいけないのだろうと思うが、実際に彼は公爵家の長男でとても偉い。たてつくことは許されないので子爵の次男は粛々と準備を進めることにする。

「あ、すみません。軽い食べ物をお願いします」

「……待て。今から食事をするのか? この俺を待たせているのに?」

「まだ何も食べていないので。食べないと頭が回らなくて魔法について語れません」

「……ちっ、しょうがないやつ。おい、俺に紅茶を持ってこい」

「か、かしこまりました」

適当な理由をでっちあげるとギデオンは鼻を鳴らして対面の席に腰掛けた。

いや、シンプルに出直してほしいんだけど、さすがにそこまでは言えない。

寝間着から私服へと着替え、顔を洗って、髪の毛についた寝癖は……いつも通り直らないからこれ

でいいか。

身支度を整え終える頃にはテーブルに料理が並んでいた。

「おー、なんだっけ……このオシャレなイングリッシュマフィンみたいなやつの名前」

「エッグベネディクトだ」

思い出せず小首を傾げていると、ギデオンが教えてくれた。

「あ、そうそう多分それです」

スロウレット家の屋敷では昼食や軽食としてサンドイッチが出ることがあるが、エッグベネディクトのようなオシャレなものは出てこない。

うちの家族がそういったものをあまり好まないというのもあるし、料理人であるバルトロが気取った料理を作るのが苦手という理由もあるが、こうやって提供されると新鮮で嬉しいものだ。

寝室も豪奢なので今日は気取ってナイフとフォークを使ってみる。

ナイフを滑らせると上に乗っている卵がぱっくりと割れて、中からとろりとした黄身が溢れ出てきた。

とても美味しそうだ。

丁寧にナイフで切り分けて口へ運ぶ。

マフィンはサクッとしており、中はもっちりとしている。

上に乗っているベーコンの塩っけとポーチドエッグの甘味が実にマフィンと合っていた。

「美味しい」

上にかかっているオランデーズソースがとてもよく、ブラックペッパーがピリッと効いていてとてもいいアクセントだ。

エッグベネディクトを頬張っていると、真正面に座っているギデオンがジーッとこちらを見つめてくる。

「ギデオン様も召し上がりたいのですか?」

「違うわ! 早く貴様が食べ終わらないかと待っているのだ!」

なんだ違うのか。だったら意味深な視線を向けてこないでほしい。

「ふう、ご馳走様でした」

「食べ終わったな。では、行くぞ」

エッグベネディクトとサラダを平らげると、ギデオンがすぐに立ち上がる。

せっかくの優雅なブランチだったのに余韻も何もない。

「どこにです?」

「中庭だ。魔法を扱うのであれば、そこが安全だ」

俺はギデオンの後ろをついていき、ミスフィード家の中庭へと向かう。

「あっ、ギデオン兄にアルだ! どこか遊びに行くの?」

廊下を進んで玄関に向かうと、階段からラーちゃんがやってくる。

階段を駆け下りる度に白金色のツインテールがぴょこぴょこと揺れて可愛らしい。

「どけ、ラーナ。俺はアルフリートと魔法の稽古をするのだ。あっちに行ってろ」

そんなラーちゃんをギデオンは冷たくあしらう。

すごい。あんなに可愛い妹が寄ってきたというのに、そんなにぞんざいに扱うことができるのか。

俺だったら用事があったとしても変更して、ラーちゃんに構ってしまう自身がある。

「魔法だったらラーナも一緒に遊びたい!」

「はぁ? お前、いつもは魔法の稽古を嫌がっているだろうが?」

「アルと一緒だったら楽しいもん!」

ラーちゃんの提案にギデオンが戸惑ったような反応を見せる。

俺も忘れていたが、出会った当初は魔法を含めて習い事ばかりでつまらないと言っていたっけ。でも、俺と一緒にやるにつれて楽しくなったってラーちゃんも言ってくれたな。

臨時ではあるが指導者冥利に尽きるというものだ。

「ラーちゃんも詠唱破棄はできますし、一緒に習って損はないのでは?」

「いや、しかしだな……」

なぜか歯切れの悪いギデオン。

「なにか問題でも?」

「ラーナができるというのに、俺ができないなどバレればバカにされかねん」

「いや、ラーちゃんはそんな性格の悪い子じゃないですよ」

トールやアスモじゃあるまいし。

ラーちゃんは人のそんな部分をバカにする子じゃない。

「無詠唱を扱える人が多い方が参考にもなって、習得までの道のりも早いと思いますよ?今はちっぽけなプライドは捨てて、一つでも詠唱破棄を習得するのが賢い選択かと思いますが」

なんて言い方をしているが、本音はラーちゃんもいた方が楽しいからだ。

ギデオンはプライドが高く、人の都合を考えない部分があるので、横暴を食い止めるためにもラーちゃんは傍にいてほしい。あと単純にラーちゃんがいた方が癒しにもなる。

「ぐぬぬぬ、わかった。いいだろう」

あくまで詠唱破棄習得のためと囁くと、ギデオンは苦渋の決断を下すかのように声を絞り出した。

どれだけプライドが高いんだ。

「ラーちゃんもきていいって」

「やったー!」

そんなわけでラーちゃんを加えて、俺とギデオンは中庭へと移動する。

「よし、アルフリート。俺に詠唱破棄を教えろ」

「え? ギデオン兄、詠唱破棄できないの?」

早速、始まりかけた詠唱破棄の稽古だが、ラーちゃんの直球な言葉にギデオンが崩れ落ちた。