軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だらけた? 三才児

夜、寝たふりをして部屋からエルナが出ていくのを確認して、ベッドの傍らにある魔法本を開く。

電気なんて便利な物はないので、ライトの魔法を灯りがわりにする。変わりに照明の魔導具は存在している。

この間ノルド父さんの執務室でそれらしい物を発見した。

ちなみに魔導具には、魔法陣の他に核となる魔石と言うものがいる。

魔石を得るには魔物を倒す、または魔力の濃い危険地帯で採掘できるらしいのだが、そこには凶悪な魔物がいるので難しいらしい。

そんなところには絶対に行きたくないものだ。魔物とか怖すぎる。

さて、話は少しそれだがさっそく本を開きページを捲る。

最初の方の基本事項なんかは神様とエリノラのお陰で大丈夫だ。ペラペラととばす。

あった。下級の基本魔法って書いてある。

『魔法には【火魔法】【水魔法】【土魔法】【風魔法】 【無魔法】がある。

その他には水の派生の【氷魔法】稀に【雷魔法】を使う者もいるが極めて少ない。

この本を手に取った諸君が将来優秀な魔法使いとなり、ミスフィリト王国の力となれることを心より願う』

ユリウス=ミスフィード

ミスフィリト王国って何処だよって、心の中で突っ込みながら、俺は扉絵の様になった絵を見て感嘆する。

柄にもなく、新しい魔法をこれから覚えられるんだと心を弾ませてしまった。

摩りきれた二十七歳の心に希望を与えてくれるなんて……

ここでは一歳にもなってないけど。

感動しながらもページを捲る。

火の魔法とか火がついて危ないから、まずは水かな。

あった。水魔法!

『我は求める 清らかなる水よ 集え 』

「あえはおおえる いよああるる うぃずよ ふどえ」

…… 試しに声に出して言ってみたけど、自分でもよくわからなくなったぞ。

何だか言えそうで言えない感じがもどかしい。何か舌がうまくまわらない。

体操の他に演劇部でやるような声の体操もやっておこうかな……

今度は心の中で詠唱をする。

すると手のひらに、水を掬ったように水が現れた。

うおー! できたできた! これでいつでもどこでも水が飲める! これ凄く大事!

だからといって、毎回魔法で水を飲むことはしないけど。

田舎の水はとても美味しいのだから、飲み水は魔法の水というのも味気ないと思う。

日本で俺の住んでいた所の水は、殺菌に使われる塩素がキツいのか美味しく無かったなー。

それに比べて田舎の水は塩素がそれほど、含まれていないから美味しいらしい。

塩素殺菌がキツいと水は美味しくなくなってしまうんだって。

それでも東京とかの一部の所では良い洗浄処理で十分美味しいらしいけど。

魔法の水はどうなんだろ?

ペロリ。

……まあ、普通に水? 冷たくていいけど日本の天然水には負けるね。

さて次は風かな!

小さな風を起こす魔法かな?

『我は求める 大気に漂う 安らぎの風よ 』

心の中で詠唱する、イメージは今まで感じたことのある心地よい自然の風。扇風機じゃないよ。

すると突然、空気がフワッと流れてきた。

吹き抜ける風が気持ちいい。まだ外にあんまり出れないから風が恋しいんだ。

ふと思ったが、魔力を多く込めるともう少し強い風になるのかな?

気になりもう一度、風の魔法を使う。

ヒュゴオオオオオ!

予期せぬ強風に俺は思わず目をつぶる。

強い!強い!強い!強い!

魔力を流すのを直ぐ様に止めて、魔法を中止する。

部屋を見ると結ばれていたカーテンがほどかれ、垂れ下がっているくらいで問題ない。

……この部屋に何もなくてよかった。

会社のデスクでこの魔法を使うと、阿鼻叫喚とした地獄絵図が浮かび上がるだろうな……

この日は怖くて火の魔法は使わなかった。

それから二年と少し。

俺ことアルフリートは三歳になった。

体も大きくなり、まだこけやすいけど走れるようにもなった。

魔力増量訓練も最近は使いきることに時間がかかるようになった。

最近は魔力が増えるにつれて、魔力を切らした時の脱力感などが強くなったような気がする。

これは比例しているのだろうか?

「またこんな所でだらだら寝てる!」

何を? ここは俺のお気に入りの平原だぞ?

ここは屋敷の裏口から歩いて十分程の平原。

丁度邪魔にならないくらいの草が一面に広がり緑のカーペットのようだ。

寝転がっている俺を呆れた表情で覗き込んで来たのは、我が姉であるエリノラ。

六才から九才へとなり、子供ながらも体がスラッと成長し始めてきた最近。

ヒラヒラと草原から吹き込まれる風に揺れる、赤茶色のポニーテールは、さらに長く色鮮やかになり日に日に女らしくなるようだ。

顔の輪郭もスラッとしたラインをしていて、茶色の瞳はキリッとして力強い。

「休憩してるだけだから、別にいいじゃん」

「また目が死んでるわよアル?」

「いや、寝起きで目付きが少し悪いだけだよ」

俺の容姿は残念なことに、家族の中で一番悪いかもしれない。っと言うか俺以外の家族の容姿が優れ過ぎているんだと思う。

母さんと同じ栗色の短い髪の毛に、少し細めの目には茶色い瞳が見える。

これが俺の容姿。

何とも言えない。目に関しては子供にしては、魔力切れの倦怠感が出ちゃってるだけで、英気を養えば復活するさ。

魔力切れじゃないのに、たまに死んだ魚のように目が死んでるとか、疲れてるの?と聞かれるのは、偶然だと思いたい。

きっと前世のくたびれた感じが、ふとした瞬間出ちゃっただけさ。

僕は元気な三才だよ!

「お母さんが、たまにはアルを外に連れ出してあげてって言うから来てあげたのに」

母さんは、あまり手がかからない俺をよく気にかけてくれる。

手のかかる好奇心旺盛の三才のはずが、よく部屋で寝転んでいるのを見たら、そりゃ心配するよな。実際は魔法使ってくたばってるだけだけど。

もともと成長も早く、賢い子! と認識されたお陰でわりと自由に過ごせている。

(倦怠感がまだ残っている)俺が立ち上がらないのを見て、エリノラが眉根を寄せてへの字に曲げ、不満を露にしている。

「いや、姉ちゃん昨日も俺を川に無理矢理連れていったよね?」

「それは心優しい姉である、私の判断によるものよ」

どうよ!とばかりに無い胸を張るエリノラ。

何てことだ! 昨日俺のお昼寝が妨害されたのも、一昨日魔法訓練が妨害されたのも、その前のお手伝いを今手伝って!と急かして結局俺のお菓子を食べられたことも、(関係ない)全部エリノラ姉さんのせいだったなんて!

「俺にはエリノラ姉さんが鬼に見えるよ」

「いいから早く行くよ!」

抵抗は無駄のようだった。

エリノラ姉さんの白くて柔らかい手に引きずられながら、俺は今日も連れまわされる。