軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

稽古休み

「なにコタツでボーっとしてるの? 稽古に行くわよ!」

リビングでコタツでぬくぬくとしていると、エリノラ姉さんが言ってきた。

腰元に手をやってこちらを見下ろしているエリノラ姉さん。

これから稽古をするのを当然だと思っている態度。

ふっ、だけど甘いな。今日の俺はバルトロのお陰で稽古が免除されているのだ。

「今日は俺、稽古しないから」

「はぁ? なに言ってるのよ? ぐずぐずしてないで外に行くわよ」

俺がいつも通り駄々をこねていると思っているのか、エリノラ姉さんが腕を引っ張ってくる。

その力たるやすさまじくあっという間にコタツから身体が出てしまう。

「いやいや、駄々こねてるんじゃなくて他に用事があるんだって!」

「用事? なにそれ?」

真剣に訴えてみるとエリノラ姉さんは一応力を緩めた。

だけど、俺の腕から手を離すつもりは微塵もないようだ。簡単に逃げられないようにがっちりホールドされている。用心しすぎじゃないだろうか。

「どうせ昼寝とか言うんでしょ?」

「いや、アルの言っていることは本当だよエリノラ」

ノルド父さんが後ろにバルトロを連れながら入ってきた。

「ええ? 嘘?」

「今日はどうしてもとりたい食材があってな。そのために坊主の魔法を借りる必要があるんだ」

「それなら別の日にすればいいじゃない」

おっと、エリノラ姉さんの癖に鋭い指摘をしてくる。

だけど、きっと大丈夫。バルトロが適当な理由をつけて、俺を屋敷に留めてくれるはずだ。

今日の俺は屋敷でちょちょいと魔法でお手伝いをして、稽古をサボる予定。

「今日狙っている獲物はワラサビって小魚でな。綺麗に湖が凍結している時じゃないと釣れないんだ。今日を逃すと明日が釣れるかどうかもわからねえんだ」

「そ、そうなんだ」

バルトロが理由を話すと、エリノラ姉さんは不服そうにしながら呟いた。

「ちょっと待ってバルトロ」

「ん? なんだ坊主?」

ちょっと変なことを言っているバルトロをこちらに呼びつける。

「なんか俺が外に出る設定になってない?」

「稽古がサボれれば別にいいんだろ? 外に連れ出すなとは言われてねえし」

それは俺が求めていたこととは微妙に違う。

「俺、この間の掃除みたいに屋敷でぬくぬくとしながらできる手伝いで稽古をサボりたいんだけど」

「でも、それだと嬢ちゃんの指摘に対抗できねえぜ? どっちにしろ俺ができるサボらせ方だとこういうのになっちまう」

確かにそうかもしれない。生半可な言い訳ではきっとノルド父さんやエリノラ姉さんを納得させることはできない。

寒い中、稽古をしたくないからサボりたかったのに、結果的に外に出ることになるって無意味なのでは?

いや、ポジティブに考えよう。たとえ、外に出ることになっても稽古よりワラサビとかいう小魚を釣る方が遥かに楽でいいな。

「……父さんは本当にそれでいいの?」

道を誤っている父を諭すような物言いでエリノラ姉さんが、ノルド父さんに問いかける。

たかが、稽古を一回休むだけなのに大袈裟だな。

「ワラサビは今の時期でしか食べられない魚だからね。それに今日の稽古は中庭がぬかるんでいるようだから中止しようと思っていたんだ」

え? それなら無理してワラサビを釣りに行く必要がないんじゃないか? 稽古が中止なら俺はそれでいい。万々歳だ。

「バルトロ、別に今日じゃなくてもワラサビはきっと釣れるんじゃないかな?」

「今更そんなこと言えるかよ」

ですよね。でも、稽古が中止になる流れだったら、ずっと屋敷に籠っていたかった。

「足元がぬかるんでいても稽古になるじゃない」

「そうかもしれないけど、身体のできていないアルにそういった稽古は少し早いよ」

「……なんか今日は父さんがおかしい。妙にアルの肩を持ってる」

いやいや、七歳児に過酷な稽古を課そうとする方がおかしいんだと思う。

「別におかしくはないさ。そういうことだから今日の稽古は中止ってことで。よかったら、エリノラもバルトロを手伝ってあげなさい」

ノルド父さんはそう言い放つと、そそくさ逃げるようにリビングを去った。

うーん、エリノラ姉さんの言う通り今日のノルド父さんはちょっとおかしいな。いつもはもう少し厳しい採点をしてくるのだが。

まあ、中庭が雪のせいでぐちゃぐちゃになっており、一部では凍結しているので妥当な判断ではある。

稽古を無理にして怪我をしたら意味がないし。

「ねえ、バルトロは父さんがおかしい理由に心当たりがあるよね?」

エリノラ姉さんの笑顔からすごい迫力が出ている。

俺の稽古がスキップされたのではなく、稽古自体が中止になってしまってかなり不満そうだ。

でも、それをぶつける矛先がなくて持て余しているのだろうな。

バルトロが助けを求めるような視線を向けるが、俺には関係ない。

ノルド父さんがどうして妙に優しいか、俺には皆目見当がつかないし。

俺が助け舟を出さない態度を見て、バルトロは観念したのかため息を吐いた。

「……ワラサビはノルドの大好物だからな」

「ふーん、そうなんだ」

どんな感情が籠っているのかわからない平坦気味な相槌を打つエリノラ姉さん。

控えめに言って怖い。

「さあ、バルトロ。俺達はワラサビを釣りに行こうか」

「お、おお。そうだな」

「……あたしも行く」

重苦しい空気から逃れたくてバルトロとリビングを出ようとするが、エリノラ姉さんが思いもよらないことを言ってきた。

「え? エリノラ姉さんもくるの?」

「ええ、そうよ」

思わず何でと言いそうになったが堪えた。そんな自分を褒めてあげたい。

だけど、俺の疑惑の視線は誤魔化せなかったらしい。

「……父さんって、あんまり欲があるタイプじゃないでしょ? そんな父さんの大好物なんだから多くとってきてあげたいじゃない」

自分の前髪を弄りながら言うエリノラ姉さんは少し恥ずかしそうだった。

てっきり暇だとか八つ当たりで来ると思ったのだが、エリノラ姉さんの行動理由は想像以上にまともだった。

「エリノラ姉さんって、そんなキャラだっけ?」

「うるさい」

「いたっ!」

遂に我慢しきれなくなって突っ込むと、エリノラ姉さんがデコピンをしてきた。

ただの少女であれば可愛い報復だが、エリノラ姉さんはただの少女ではない。デコピンなのにおでこでゴッと音が鳴った。

当然、痛みも通常のデコピンと比べて洒落にならない。

「~~ッ!」

「坊主、一言が多いぜ」

バルトロが呆れながら悶絶する俺を眺めるのであった。