軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バトル鉛筆の完成

夕食を終えてリビングでまったりしていると不意に視線を感じた。

エリノラ姉さんか? と思いきや、本人はソファーでうつぶせになってスライム枕を堪能している模様。

今はダラダラするのに忙しい模様で俺に意識を向けている感じはない。

シルヴィオ兄さんはバトル鉛筆の着色に戻ったのでリビングにはいない。

テーブルではノルド父さんとエルナ母さんが食後の紅茶を楽しみながら、ぽつりぽつりと会話している。

いつも通り夫婦も睦まじい光景だな。

そう思っていると、ノルド父さんの視線がエルナ母さんから俺に逸れた。

僅かな間ではあるが俺とノルド父さんの視線が合う。

……何だろう。ただ単に視線があったのではなく、意図して合わせられたような感じだ。

何か言いたいことがあるような意思を感じた。

うん? ノルド父さんが何か俺に言いたいことがあるのだろうか?

または俺がノルド父さんに言わないといけないことがあったっけ?

最近の俺は暖炉をつけたり、ドライフルーツを作ったり、薪を割ったりとこれといって悪いことをした覚えはないな。

別に報告する案件や相談することなどなにひとつ……

『――今度からは何か作ったら見せるなり相談することにするよ』

などと思い返していると、シルフォード領に行く途中でノルド父さんとそのような約束をしたことを思い出した。

「……あっ」

俺、今バトル鉛筆を作っているけどノルド父さんに何も報告をしていなかった気がする。

きっとノルド父さんはどこかでそれを知って、一向に相談をしてこない俺に思うところがあるに違いない。

「どうしたんだいアル?」

「ちょっとノルド父さんに報告したいことがあってね」

「僕に報告したいことかい? それは今思い出したのかな?」

にっこりと笑いながらノルド父さんは暗に今思い出したのかいと聞いてくる。

おおっと、これは確実に俺がバトル鉛筆を作っていることを知っているな。

「いや、ちょうど報告するのに都合がいいタイミングを伺っていたんだ」

あくまで思い出したなどとは言わない。きちんと覚えていて、都合のいいタイミングで報告しようとしていた呈だ。

わざわざ忘れていたなどと自白して怒られる意味はないのだから。

「そうかい。わかった。じゃあ、報告を聞こうか」

シラを切る俺にこれ以上問い詰めることはできないと判断したのか、ノルド父さんはそう言った。

どっちにしろ今回はまだ完成まで至っていないし、広めてもいない。

広めてトリーに販売するまで報告していなかった前回とは雲泥の差だな。俺も成長したものだ。

「なに? また何か変なものを作ったの?」

「変な物とは失礼な。ただの遊び道具だよ」

ダラダラとしていたエリノラ姉さんも口ではそう言いつつ、興味があるのかテーブルの方にやってきた。

「それで今回は何を作ったんだい?」

改めて尋ねてくるノルド父さんに、俺はバトル鉛筆についての説明をした。

「なんだ、今回は投球ターゲットのように身体を動かす遊びじゃないのね」

室内で鉛筆を転がすだけの遊びにエリノラ姉さんは少しガッカリしている模様だった。

寒い冬に室内でも楽しく遊べるというのがコンセプトなのだ。外に出て遊ぶものを考えていたらコンセプトがずれてしまう。

「なるほど、現物はあるかい?」

話を聞いて考え込んでいたノルド父さんが尋ねてくる。

「製作途中かな。シルヴィオ兄さんが色塗りを終わらせれば完成するよ」

「もうそんなところまで進めていたのね。アルって、普段は面倒くさいって言っている割に、そういうところは行動が早いわよね」

「えへへ」

「褒めてないわよ」

思わず照れる俺にエルナ母さんが呆れたように言った。

なんだ、褒めてなかったのか。

「ふーん、シルヴィオもやってるんだ」

エリノラ姉さんが意味ありげな言い方をする。

多分、姉弟の中で自分だけ加わっていないのが面白くないのだろう。

遊びを作ることに興味はないものの、こうやって輪の中にいないのは面白くないらしい。

気持ちはちょっとわかるが、今回ばかりは手先の不器用なエリノラ姉さんに手伝えることはなかった。

「今回は工作系だったから。また投球ターゲットみたいな身体を動かす遊びがあれば、エリノラ姉さんにも手伝ってもらうよ」

「そう。それならいいのよ」

俺のフォローにエリノラ姉さんは満足したのか不満そうな表情を引っ込めた。

ちょっと面倒くさい姉だが、こういうところは年相応で可愛らしいと思う。

運動神経のいいエリノラ姉さんは、こちらが想像した通りの遊びを再現してくれるので貴重なデータがとれるのだ。

「大体の遊び方は把握したけど、木製の棒を転がすだけで楽しいのかしら?」

「単純だからこそ楽しいんだよ。現物ができたら遊んでみてね」

遊び方を説明されても馴染みのない人にはよくわからないだろう。

けん玉だって、簡単に説明すれば引っ付いている玉を操って穴に突き刺したり、乗せたりする遊びだしな。言葉だけで言われても何ら魅力的に感じない。

こういう感覚的なものは実際に遊んでみるのが一番だ。

「とにかく、そういうものを作っているのはわかったよ。報告してくれてありがとう。リバーシやジェンガのように売るつもりはないんだね?」

「うん、特にそんな予定はないよ。そもそも売れるかどうか俺にはわからないし」

「そうかい」

俺の返答を聞いて、ノルド父さんは心底安心したようだった。

別にこれ以上お金を稼ぐ必要も感じないしな。

こうして俺は少しギリギリではあるが、ノルド父さんにきちんと報告をすることができたのであった。

「アル、色塗りとコーティングが終わったよ!」

ノルド父さんに報告いた二日後。シルヴィオ兄さんが遂に色塗りとコーティングをしたバトル鉛筆を持ってきてくれた。

「おっ、ということは遂に完成だね。見せて見せて」

俺がそう言うと、シルヴィオ兄さんはテーブルに着色したバトル鉛筆を置いてくれた。

すごい、イラストの背景も塗られているし、文章表記のところも見やすいように白で塗られ、文字も見やすく黒で塗ってくれている。

余り部分の下半分も縞模様に色を組み合わせて、単体で見ても飽きないように工夫がされていた。

「シルヴィオ兄さんすごいよ。よくここまで綺麗に塗れたね」

「えへへ、細かいからちょっと時間がかかったけど」

照れ臭そうに笑いながらシルヴィオ兄さんは謙虚に言う。

いや、もはやプロの職人じゃん。紙に塗れるならまだしも、塗りにくいバトル鉛筆にこれだけの着色を施すなんて……。

これはシルヴィオ兄さんの意外な才能を見つけてしまったのではないだろうか。

「コーティングもちゃんと薄く伸ばされているね」

「うん、転がるのを阻害したら意味がないからそこは慎重に塗ったよ」

コーティングの樹脂が固まっていたり、不自然に膨らんでいたりすることは全くない。

べたつきもなく完璧にコーティングされていた。

最初は六角形の木製棒に適当にイラストや表記を入れたもので遊べばいいと思っていたが気が付くととんでもないクオリティになっているな。

前世の物と同じとまではいかないが、かなりそれに近づいている出来栄えだ。

バトル鉛筆を知っている俺でも唸らせる出来栄えにかなり興奮していた。

「よし、早速遊んでみようか!」

「うん、やってみよう!」

シルヴィオ兄さんと早速遊ぼうと思ったところで部屋の扉がノックされた。

ノックをしたのはサーラだ。

「はいはい、どうしたの?」

「アルフリート様、トリエラ様がご挨拶をされたいようです」

「トリー? 従業員の人じゃなくて?」

トリエラ商会は今や王都に本店を構える大商会だ。その主たるトリーは基本的に王都で仕事をしている。

最近は貴族との繋がりや、カグラで卓球を広めたりと忙しくしており、コリアット村には従業員だけを派遣して商いにくることも多い。

「はい、トリエラ様ご本人です」

しかし、今回は忙しいはずのトリーがわざわざやってきたようだ。

そろそろ顔を出しておいた方がいいと思ったのか、何か狙いがあるのか。

わからないがバトル鉛筆が完成した直後にやってくるなんてタイミングが良すぎるんじゃないだろうか。

「……わかった。バトル鉛筆で遊んでから挨拶するよ」

「いや、そこはすぐに挨拶に行こうよ」

遊びを優先してそう言うも、シルヴィオ兄さんに窘められてしまった。