作品タイトル不明
シルヴィオ兄さんの塗装
「さて、イラストや表記を書いていこうかな」
屋敷に転移で戻ってきた俺は、バトル鉛筆を持って自分の部屋に引きこもっていた。
ラエルやルウが作ってくれたバトル鉛筆の素体が完成したので、そこにイラストなんかの書き込みを入れていくのである。
「まずは区切りだね」
イラスト部分、与えるダメージや技なんかを書き込む文字表記部分だ。
バトル鉛筆とはいっても、今回のものは鉛筆としての役割を付与していない試作品なので下まで目いっぱい使えるな。
鉛筆だと削ることを考えるから下手に下の方まで表記することができないからね。
昔、自分が持っていたバトル鉛筆を元にしながらペンで区切りをつけていく。
それができれば次はイラストだ。
とはいっても、この六角形や五角形にイラストを描いていくのはかなり難しい。
真面目に描こうと思ったらかなり時間がかかってしまう。
「六角形でも簡単に描けそうなスライムとかでいいか」
スライムであえば、その気になれば一筆でも描ける。
どうせならこの世界の魔物や動物をモチーフにして描いてやろう。
鉛筆一本一本にスライムやゴブリン、アルキノコなんかのイラストを描いていく。
鉛筆の上にイラストを描くのは難しいが、これらなら何とかなる。
イラスト部分が描き終わると、次は文章表記だ。
『体当たり ●属性に三十ダメージ』
『全員に十のダメージ』
『キノコの胞子 全員に二十のダメージ』
などと攻撃となる技名やダメージ表記をそれぞれの面に記していく。
体力を百として仮定したターン制の攻撃なので、このぐらいでいいだろう。
●、★、▲といった三つの種族を作ってやり、それらを当てはめる。
スライムは●属性なので、全員にダメージ以外の▲と★へのダメージは受け付けないというわけだ。自分の攻撃が必ずしも当たるとは限らないし、相手の攻撃も当たるとは限らない。
こうした無効化する運要素もあることで、バトル鉛筆での戦いをよりワクワクさせるのが狙いだ。ダメージの多い面が出ただけで勝ちになると、少しつまらないからな。
元の世界のバトル鉛筆について詳しいわけではないので、色々と突っ込みどころはあるかもしれないがゲームバランスはやりながら模索していけばいいのだ。
「アル、なにをしているんだい?」
夢中になってバトル鉛筆を制作していると、いつの間にかシルヴィオ兄さんが部屋にきていた。
「うわっ、シルヴィオ兄さんか。いつの間に入ってきたの?」
「ついさっきね。何度もノックをしたんだけど返事がないから」
シルヴィオ兄さんが肩をすくめながら苦笑いする。
どうやら作業に没頭するあまり周りの音を遮断していたようだ。
「アルに貸した本を読み返したくなってきたんだけど、今は何をしてるんだい?」
「部屋で遊べる玩具を作ってるんだ」
「玩具? どんなものだい?」
屋敷にこもりがちな生活のせいかシルヴィオ兄さんも娯楽に飢えているようだ。
シルヴィオ兄さんが強い興味を示しているようなので、俺はバトル鉛筆という遊びを教えてあげる。
「へえ、それは面白そうだね! よかったら、そのイラストを僕が塗ってもいいかい?」
「シルヴィオ兄さんが? 別にいいけど、細かいし六角形だから難しいよ?」
「うん、それでもやってみたいんだ」
ふうむ、シルヴィオ兄さんが予想以上にやる気を見せている。
俺の可愛いイラストを見て、色をつけてみたくなったという好奇心だろうか?
色は塗らなくてもいいと考えていたが、あればより愛着も湧くというもの。
エリノラ姉さんならともかく、割と手先の器用そうなシルヴィオ兄さんになら任せてもいいかもしれない。
「わかった。それじゃあ、この三本をよろしくね。くれぐれもはみ出さないように」
「うん。わかった。ありがとう、アル!」
スライム、ゴブリン、アルキノコのイラストの描かれたバトル鉛筆を渡すと、シルヴィオ兄さんは嬉しそうに部屋を出ていった。
恐らく自室で絵具セットを用意して塗るつもりなのだろう。
元の用事は俺の部屋にある本の回収だったが、そんなことはすっかりと忘れてしまっているようだ。
まあ、最悪失敗してしまっても、遊びとして使えないわけでもないので過度な期待はせずに待っておこう。
◆
「アル! 色が塗れたよ!」
夕方ごろになると、シルヴィオ兄さんがバトル鉛筆を手にして俺の部屋にやってきた。
まさか一日も経たずに完成させて持ってくるとは思わなかったので驚く。
「えっ、もう塗れたの?」
「うん、こんな感じなんだけどどうかな?」
シルヴィオ兄さんはおずおずとバトル鉛筆を見せてくる。
そこには見事に塗り上げられたイラストがあった。スライム、ゴブリン、アルキノコの色使いが忠実に再現されている。
俺の描いた下書きからはみ出すこともなく、くっきりと影やハイライトも塗られている。
ただの紙の塗り絵ならともかく、六角形の鉛筆の一部分をここまで精緻に塗り上げるとは。
「ど、どうかな?」
「シルヴィオ兄さん、すごいよ。正直、ここまで綺麗に塗れるとは思ってなかったよ」
「僕もそう思ってたんだけど、意外とできたんだ。こういう細かい作業は苦手じゃないみたい」
俺のはっきりとした言葉に、シルヴィオ兄さんは苦笑しながら返事した。
はっきりと言って予想を遥かに超える出来栄えだ。色がつくことで魔物達に命が与えられたようだった。
イラストに色が付くことでここまで変わるとは。
「いいね。色が付くと愛着が湧くね」
「うん。イラストだけじゃなく他の部分も塗ってあげた方がいいよ。その方が絶対に遊びたくなる」
シルヴィオ兄さんの意見にまったくの同意だ。
最初は面倒くさがって色なんてなくてもいいと愚かに考えてたけど、これを見たらモノクロの世界に戻れないな。
「でも、塗料を塗り過ぎると転がした時に色移りしたり、剥がれるのが困るな」
「それなら樹脂を塗ればいいんじゃないかな? 看板とかに塗ってある色落ち防止の」
「なるほど、それなら転がしたり水に塗れても簡単に塗料が剥がれたりしなさそうだね」
実際にどうなるかはわからないが、やってみる価値はあるはずだ。
それほど色味というものはバトル鉛筆の価値を高めてくれるのだ。
どうせならかっこいい玩具で遊びたいに決まっている。
シルヴィオ兄さんと全体の色合いの話を進めると、早速とばかりに立ち上がった。
「それじゃあ、さっきの塗装を試してみるよ!」
「うん、お願い」
本当は塗っていないバトル鉛筆を使って遊んでみたかったが、ここまでシルヴィオ兄さんがやる気を見せているのだ。
きちんと色塗りや樹脂によるコーティングで完成させてから一緒に遊ぶのがいいだろう。
やってもらっている身としては、勢いがあるうちにやらせてあげたいしな。