軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルVSエリノラ

「子供混合部門、第六試合の人はこちらへどうぞ!」

カルラさんの声が上がり、第六試合の準備が始まる。

遂にきてしまった。俺とエリノラ姉さんの腕相撲対決。

多くの歓声が上がる中、エリノラ姉さんは悠然と戦場に歩き出す。

不敵な笑みを浮かべながら腕を回し、首の骨を鳴らしている。

自信に満ちた表情と態度から自らが負けるとは欠片も思っていないようだ。

エリノラ姉さんは自分が狩人であると確信している。

高慢なのではなく自信。

今まで幾度となく積み重ねた勝利がエリノラ姉さんの覇者のオーラを形成していた。

……うん、無理。エリノラ姉さんと腕相撲とか勝てるわけがないじゃん。純粋な力勝負とかエリノラ姉さんの土俵でしかない。

「頼むぞ、アル! 絶対勝てよ!」

「このままじゃ村の皆にバカにされる」

「アルフリート、俺たちの無念を晴らしてくれ!」

そんな俺の心境を知らずしてか、トール、アスモ、エリックは口々に勝手なことを言う。

「そんな無茶なことを言われても……」

「なに弱気になってんだ! それをどうにか覆すのがアルの小賢しさだろ!」

弱気の言葉を漏らすと、トールが発破のつもりか知らないが叫んでくる。

狡い手を使って勝てと言うが、そもそも単純な腕相撲では策を弄しようがないのだ。

勝負というのは始まるまでに大概の勝負は決まっているもの。

事前にどれだけ準備をできるか、有利な状況に持っていけるかで大いに変わる。

今回はそのどちらもできない上に、純粋な力というエリノラ姉さんのフィールドだ。

そもそも俺がエリノラ姉さんと戦う状況になれば、絶対に力勝負には持ち込まない。

そのフィールドに持ち込まれたが最後、どのような小細工を弄しようが力でねじ伏せられるからである。

だからこそ、純粋な力勝負に限定された腕相撲では負けが濃厚なのだ。

はぁ……仕方がない。負けるのは確実だから皆に文句を言われないように奮闘したようにみせかけて怪我だけはしないようにしよう。

そう心に決めると、ラーちゃんが俺の目の前にやってくる。

「アル!」

「ん? どうしたの?」

「頑張ってね!」

ラーちゃんの純粋な瞳が向けられる。

それは俺が絶対に負けないと信じているような無垢な笑顔。

どうしよう。絶対に負けると思い込んで怪我だけはしないようにしようとか思っていた自分が情けなく思える。

俺にとってラーちゃんはもはや妹のようなもの。

妹の前で無様な姿を見せるのはカッコ悪いよな。

自分でも柄でもないとわかっている。

だけど、俺に期待してくれているラーちゃんのためにも恥ずかしい試合はしたくないと思った。

「……わかった。頑張ってみるよ」

「うん!」

ラーちゃんに見送られて俺は、腕相撲のステージへとやってくる。

すると、食堂にいる村人が賑やかになる。

「おお、アルフリート様とエリノラ様の対決か!」

「これは今日の中で一番残酷な試合かもしれんな」

「でも、アルフリート様がそう簡単にやられる姿も想像しにくいな」

本日最後の姉弟対決とあってか、盛り上がりは最高潮を迎えている。

皆、試合がどうなるか好き勝手予想している。

やはり、その大半はエリノラ姉さんの勝ちを疑っていない様子だな。うん、俺もそうだと思う。

でも、見てくれているラーちゃんのためにも頑張ったフリはしたくない。

前を見据えるとエリノラ姉さんが、こちらを見下ろしている。

「覚悟はできたみたいね? 稽古の時間をお茶会で潰してくれた罪は重いわよ?」

指の関節をパキポキと鳴らしながら言うエリノラ姉さん。

その仕草は女性としてどうなのかと思うが、妙に様になっているのが不思議だ。

底冷えするような声と迫力に思わず逃げ出したくなるが、ラーちゃんが見ている以上それはできない。

「まあ、それなりに頑張ってみるよ」

「……へえ、面白いじゃない」

もっと情けない台詞を言うと思っていたのか、エリノラ姉さんは目を丸くして笑みを浮かべる。

ラーちゃんがいなかったら命乞いの言葉を発していたからね。その予想は間違っていないよ。

「それでは手を組んでください」

カルラさんの声を合図に俺とエリノラ姉さんが肘をテーブルに載せて、指を組み合わせる。

エリノラ姉さんの細い手がガッチリと絡みついてくる。

エリノラ姉さんの指が『絶対に逃がさない』と言っているようだった。

試しに振りほどこうとしてみてもピクリともしなかった。

……これはやっぱりダメかもしれない。

いや、諦めてはダメだ。俺には魔法がある。

別に腕相撲で魔法を使ってはいけないなどのルールは課されていない。

さすがにこれだけの観衆に見られている中で派手な魔法を使えば、反発されることは必至であるがバレなければいいのだ。

気付かれないように魔法を使うのは慣れている。

魔法で一瞬のスキを作って、身体強化で一気にフィニッシュだ。

頭の中の勝利への道筋を組み立てていると、審判であるカルラさんが手を重ねてくる。

「それではいきますよ。レディー……」

カルラさんが手を離して開始を告げ終わる前に、俺は空いている左手の指を弾いてエリノラ姉さんの鼻っ面目がけてエアショットを繰り出した。

しかし、エリノラ姉さんは僅かに顔を逸らすことでそれを回避。

バカなっ! 読まれていただと?

ほぼ全員が魔力感知できないほどの僅かな魔力で、視認することが不可能な高速空気砲だぞ。死角から最小の動きでやったというのに、この距離で避けるなんて意味がわからない。

エアショットで怯ませてからの身体強化で倒す不意打ちは無理だ。

かといって、今更ライトを使って目くらましをしても腕相撲なんて目を瞑ってでもできる。それに奇襲とは相手が警戒していない状態でやってこそ効果を発揮する。驚異的な反射神経と警戒心を保っているエリノラ姉さん相手に通用はしない。

ええい、こうなったら身体強化を使って、押し込んでやる。こういう脳筋プレイは好きじゃないけど仕方ない。

「ゴー!」

開始の声が上がった瞬間、俺は身体強化を発動して力を込める。

魔力操作や身体強化による恩恵ならエリノラ姉さんよりも俺の方が遥かに上だ。

たとえ、力馬鹿なエリノラ姉さんでも身体強化の前では手も足も――

「あれ? 動かない?」

俺の腕には間違いなく魔力が籠っている。魔力による恩恵を受けて俺の力は何倍にも高まっているはずだ。

しかし、手を組んでいるエリノラ姉さんの腕はスタート位置から全く動いていなかった。

――え? 岩?

エリノラ姉さんを見上げてみると巨大な岩を幻視した。

まさに不動の象徴。人間がどうあがいても届かないものがあるというのを痛感させられる。

そして、信じられないことにエリノラ姉さんは身体強化を使っていない。

魔力の補助なしに俺の身体強化を受け止めているのである。

もはや化け物だ。

「なにしてるの? いつでもはじめていいのよ?」

俺が力を込めていると知りながらエリノラ姉さんは挑発の言葉を口にする。

「なにやってるんだよアル! ちゃんと力込めろ!」

「貴様! やる気があるのか!」

ステージの中央で一向に動かない状態に焦れて、トールとエリックが野次を飛ばしてくる。

もう全力でやっている上に身体強化までしてるんですけど……。

絶望感に浸っていると、エリノラ姉さんがゆっくりと力を込めてきた。

「うぐぐぐぐぐぐ!」

身体強化を使いながら必死に抵抗をするが、エリノラ姉さんの腕は動き出した重機のように止まることはない。

こちらの抵抗など関係ないとばかりに腕を押し込んでくる。

そして、エリノラ姉さんは抵抗する俺の様子を見て楽しんでいる。

いつもよりやり方が陰湿だ。稽古の代わりにお茶会に参加させられたのが余程お怒りだとわかる。

だ、ダメだ。抗えない。

「アルー! 頑張ってー!」

とはいえ、ラーちゃんだって見ているんだ。

このままエリノラ姉さんに舐プされて、ゆっくり押し込まれて無様に負けるなんてできない。

俺はエリノラ姉さんの押し込みに必死に耐えるように力を込めながら、苦しそうな表情を浮かべる。

そして、腕がクッションギリギリの辺りまでくると、エリノラ姉さんの中に勝ちと、報復の成功を確信した隙が生まれた。

そこを見計らって俺は全力で魔力を込めた身体強化を繰り出す。

「――っ!!」

油断を突いた全力の身体強化は見事に腕を押し返す。

エリノラ姉さんが焦りながらも一瞬にして力を込めて抵抗。

くそ、俺の全力魔力に一瞬だけど生身で抵抗できるってどうなってるんだよ。

とはいえ、俺の全力魔力はエリノラ姉さんに抵抗されるものの強引に押し込んでいく。

俺の劣勢からの逆転に観客から湧いたような声が上がるがどうでもいい。

ここでエリノラ姉さんを倒しきるんだ! エリノラ姉さんの身体強化が間に合う前に!

しかし、エリノラ姉さんの身体強化が間に合ってしまった。

先程まで確かに手応えのあったものがなくなる。

エリノラ姉さんの腕に魔力が通った瞬間、腕はまったく動かなくなった。

エリノラ姉さんはまたもやジワジワ追い詰めてくるかと思いきや、そんなことはせずただただ全力を込めて蹂躙した。

俺の腕が壊れた振り子のように動いて、クッションに叩きつけられる。

「勝者、エリノラ様」

カルラさんの声が上がり、観衆からドッと湧いたような興奮の声が上がる。

「うおー! なんか思ってたよりも熱い試合だったな!」

「ああ、最初はエリノラ様に舐められてる時点でダメかと思ったが、さすがはアルフリート様。あれは演技で隙を伺っていたんだ」

「というか、エリノラ様も途中からマジじゃなかった?」

「年上の姉相手にあそこまで戦えるなんてアルフリート様って、意外と力があるんだな」

俺がエリノラ姉さん相手に一方的にやられなかったのが不思議だったのだろう。

皆、不思議そうに首を傾げていた。

「ちぇー、後ちょっとだったのになぁ」

「まあ、アルフリートにしては頑張った方ではないか?」

理不尽に怒られないのはいいが、秒殺組が何故か偉そうに評価するのが釈然としなかった。

それにしても右腕が痛い。全力で魔力を込めての身体強化は、やはり幼いこの身体では負荷がきつすぎるようだ。

魔力を込めた割に、まったく力へと変換されていなかった気がする。

「というか、エリノラ姉さん最後思いっきり握ったでしょ? すごく指の痕ついてるんだけど?」

「…………」

エリノラ姉さんに話しかけてみるが、何故か反応がない。

エリノラ姉さんは自分の右腕をまじまじと見つめて、何度も握ったり開いたりしていた。

「もしかして、腕とか痛めた?」

「そ、そんなわけないでしょ。というか、よくも開幕前から空気弾飛ばして、不意打ちで身体強化使ってくれたわね?」

「し、仕方ないじゃん! 俺が正々堂々やってエリノラ姉さんに敵うわけないじゃん!」

エリノラ姉さん相手に生身で戦うなど不可能だ。

ジットリとした視線を向けるエリノラ姉さんから逃れようとすると、ラーちゃんが袖を引っ張ってくる。

「アル、惜しかったね!」

「あっ、ラーちゃん。ごめんね、応援してくれたのに勝てなかったよ」

「でも、頑張ってるアルはカッコよかったよ!」

「……ラーちゃんッ!」

負けてしまった俺に変わらぬ視線を向けてくれるラーちゃんの優しさに感動だ。

「ねえ、アル! 私も腕に魔力込めるやつできるようになりたい!」

「ああ、身体強化ね。うーん、本当は小さい頃から無理に使うのはオススメしない技だけど覚えておいて損はないか。わかった。俺と腕相撲しながら練習しようか!」

「うん!」

そんな風にセリア食堂での腕相撲大会は楽しく消化されるのであった。