軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

万乳引力

「じゃあ、次は私達だね~」

「うん」

トールの情けない試合が終わると、次はシーラとアスモによる姉弟対決だ。

「うーん、さすがにアスモの場合はハンデなしでいいよね~? むしろ、体格差を考えると私の方がほしいかも」

シーラはアスモの全身を眺めると、のんびりとした語り口調をしながらジャブを放つ。

勝負は既にこの盤外戦から始まっているのだ。ここで有利な条件をもぎ取ることが、腕相撲の勝利につながる。

確かにアスモは八歳とは思えない体躯と力を誇っている。年上とはいえ、華奢なシーラとアスモでは十分に張り合える可能性があるな。

「いや、年齢差があるんだから俺の方にハンデが欲しいよ」

「え~? トールがハンデなしで挑んだのに、アスモはハンデを貰うの?」

「……チッ、トールが余計なことを言うから」

トールがハンデなしで挑んだ以上、同じ姉弟対決であるアスモがハンデを貰ってしまっては興醒め。

従ってアスモはハンデをくれとは言い出せない状況である。

それと個人的にトール以下の存在にはなりたくないというプライドもある。

シーラってば、おっとりしたように見えてとんだ策士だ。完全にアスモの思考を読み切っている。

「――はっ! ということは、俺もハンデなし!?」

「そういうことね」

驚愕の事実に気が付くと、エリノラ姉さんは心底嬉しそうに笑う。

くそ、トールの試合を早く進行させるために焚きつけたりするんじゃなかった。結果として自分の首を絞めることになってしまった。

ああ、あの時の自分を引っ叩いてやりたい思いだ。エリノラ姉さんと正面から力勝負だなんて正気じゃない。

「それでは手を組んでください」

カルラさんの声を合図にアスモとシーラが肘をテーブルに載せる。

「よいしょ」

「――っ!?」

その時、食堂内がどよめいた。

それはテーブルの上に肘以外の柔らかい果実が形を変えて載っているからである。

な、なんだこれは。こんな光景があっていいのだろうか。

「「おおおお……っ!」」

トールとエリックがその光景を見て露骨に鼻息を漏らす。

「トール、キモいからやめて」

「……エリックもガン見しすぎ」

「「いや、腕相撲を見てるだけだ!」」

真横にいる姉に注意され、慌てながら全く同じ言い訳をする二人。

「……その慌て具合と否定の言葉が何を見ていたか如実に語っている」

ルーナさんに指摘され、バツが悪くなったのか何とか視線を逸らすトールとエリック。

しかし、すぐに視線がシーラの胸元にいっているのは傍で見ている俺でもわかった。

俺も万乳引力によって視線がいってしまいそうになるが、隣にいる姉が威圧感を醸し出してくるので必死に見ないようにした。

トールやエリックのような視線をエマお姉様に向けられでもしたら嫌だからな。

一時の好奇心で評価を下げられては堪ったものではない。

「それではいきますよ。レディ……ゴー!」

カルラさんが腕を離した瞬間、アスモとシーラが力を込めた。

最初の反応はシーラが上で、アスモが一瞬にして追い込まれる。

しかし、アスモはその自慢の太い腕を隆起させて対抗。劣勢の状況で拮抗し、徐々にシーラを押し返す。

「フンッ!」

「ふぬう~っ!」

アスモの鋭い呼気と、シーラの力の抜けるようなかけ声が響き渡る。

観客の村人が嫌に静かな理由はもはや語るまでもないだろう。その代わりに、村の一部の女性からは舌打ちのようなものが鳴っていた。怖い。

「いけー、アスモ! やっつけちまえー!」

「そのまま体重をかけろ!」

トールとエリックが声援を飛ばす。

さすがはアスモ。八歳ながらも肥満体を存分に生かして、年上であるシーラを押している。

この日ばかりは彼の身体がとても頼もしい。

アスモならばシーラを倒してくれるのではないだろうか。そんな希望の光が胸に灯る。

さすがにエリノラ姉さんもこの状況には焦るかと思いきや、当の本人は何故かポケットから紙の包みを取り出した。

「あっ、そう言えばバルトロからおやつのクッキーを貰ってるんだったわ」

「うわー、すごくいい匂い! 今日はカボチャクッキーなんですね!」

「枚数が少ないけど、あたし達だけで食べちゃおうかしら?」

「食べるッ!」

エリノラ姉さんとエマお姉様がそんな会話をしていると、ズダアンッという音が鳴り、シーラが激しく反応していた。

テーブルの上を見れば押していたはずのアスモの腕が自陣で倒れていた。

「しょ、勝者、シーラ」

「エリノラ様、私もそれ食べたいです」

「あら、もう試合が終わったのね。なら、あげるわ」

勝利の喜びすらどうでもいいらしく、シーラは即座にこちらにやってきてエリノラ姉さんからカボチャクッキーを貰った。

「んん~、やっぱり、バルトロさんの作ったお菓子は美味しい~」

カボチャクッキーを頬張ってうっとりするシーラ。

そうだ。アスモ家は食べ物のことになると、とんでもない力を発揮する一家であった。

エリノラ姉さんってば、シーラが不利になると悟ると咄嗟にお菓子を出して、シーラの力を目覚めさせたんだ。

なんという狡い手を使うんだ。

「……すごい、腕の動きが見えなかった」

「クッキーだけであれほどの力を生み出すとは、とんでもない食への執着だ」

「勝者、ルーナ」

アスモとシーラの試合が終わったと思いきや、次の試合であるエリックとルーナさんの試合が速攻で終わってしまった。

「おい、エリック様。もうちょっと頑張れよ!」

「無理だ。姉上に力で敵うはずがないだろ」

トールにそう言われても言い返すことができない程に瞬殺だった。

ハンデとして手首を握ってもらったというのに、欠伸交じりに倒されたんだ。

エリックも心が折れてしまうはずだよ。

「……エリックは非力過ぎる。もう少し鍛えた方がいい」

「姉上がおかしいんだ。俺は弱くない」

ルーナさんの容赦のない言葉にエリックもいじけてしまっている。

うん、ルーナさんがおかしいと思うのは俺も同意だな。

エリックだって、武闘派の貴族であり幼い頃から稽古を積んできている。それがああも赤子の手を捻るようにやられるなんて。

「なんだなんだ? 揃いも揃って姉に負けて、男の癖にだらしないな」

「腕相撲で女に負けたら、俺なら家に帰って泣くね」

トール、アスモ、エリックと揃いも揃って姉に負けているからか、観客である村人が笑い声を上げる。

「ちくしょー、あいつら普段は女に財布の紐を握られて、尻に敷かれている癖によぉ」

「好き放題だね」

「あいつらに姉上と腕相撲をさせてやりたい」

さすがにこうも笑われてしまっては腹立たしいのだろう。三人とも頭にきているようだ。

トールは身体を震えさせると怒りを堪えて、俺の両肩に手を置いてくる。

「こうなったら、アル! お前だけが頼りだ! どんな手を使ってもいい! エリノラ様を倒せ!」

いや、それが一番難しんだよなー。あの中で一番人間離れした身体能力を持っているのって、エリノラ姉さんなんだもん。まともに挑んで敵うはずがない。

「アルならできる!」

「……アスモ」

「お前はいつだってこういうピンチを乗り越えてきただろう?」

「……エリック」

しかし、この三人はこんな俺を信じてくれている。

そう、こんなにも澄み切った瞳を向けて……

「「「また今回も狡い手を使うんだろ?」」」

「お前達、全員しばくよ?」

少しはマシな台詞を言ってくれると思ったら、これだよ。