軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

武闘派貴族

「いっくよー! えいっ!」

ラーちゃんが可愛らしい声を上げて、ボールを放り投げる。

山なりの軌道を描いたボールは見事に一番の板に当たって抜けた。

「あっ、すごい! 板が抜けた!」

「ラーナ様、お見事です」

「おー、いきなり板を抜くなんてすごいじゃん」

「えへへー、これ楽しいね!」

ロレッタと俺が褒めてあげると、ラーちゃんは嬉しそうに笑う。

ラーちゃんの威力でも板が抜けるようにギリギリの位置ではめ込んでもらっただけあって、ボールが直撃した板はきちんと抜けてくれた。

正確には抜けたというより、押し出された感じなのだがそこは何も言うまい。

「次はアレイシア様も投げてみますか?」

「ええ、やってみるわ」

ボールを差し出すと、アレイシアはそれを受け取って歩き出す。

さすがにラーちゃんが投げた位置から投げるつもりはないようだ。

アレイシアは少し距離をとって六メートルほどの位置で止まった。

片手でボールを上に放り投げては、それをキャッチ。ボールの感触を確かめているのだろう。少なくてもターゲットを見ながら、楽にそれがこなせているので運動音痴ではなさそうだ。

「五番でも狙ってみましょうかしら?」

アレイシアはターゲットを見つめると、悠然と微笑んで狙う場所を宣言。

どうやら自分の制球力に自信があるようだ。

アレイシアは宙に浮かせたボールをキャッチすると、しっかりと下半身を使い、ボールを投げた。

アレイシアの腕から放たれたボールは空中を突き進み、見事に木板に当たる音がした。

しかし、当たったのはターゲットではなく、その後ろにあるボール止めの役割を持った木壁にだった。

堂々と宣言していただけに、どう反応すればいいかわからない。

惜しかったといえばいいのだろうか? それともドンマイとでも言えばいいのか。

「外れた」

俺とロレッタがどうしたものかと悩んでいると、ラーちゃんが目の前で起きた現象を忠実に述べた。

ラーちゃん、素直なのはいいけど、物事には言わなくてもいいことがあるんだよ。

「ボ、ボールを投げるのなんて随分久し振りだから、的外れな方向にいってしまったわね」

「的だけに?」

「ふぐっ、アルフリート様。おやめください」

アレイシアがダジャレのようなことを言ったので、思わず突っ込みを入れるとロレッタが吹いた。

このメイドさん、意外としょうもないギャグに弱いのかもしれない。

「的だけに?」

「ぷふふ、ラーナ様も真似してはいけません」

ラーちゃんが思わず俺の言葉を真似すると、ロレッタはまたしても吹いていた。

もうちょっと弄りたいところであるが、アレイシア本人に聞かれたら後が怖いのでこれくらいにしておこう。

ラーちゃんのパパみたいに魔法をかけられたら嫌だし。

アレイシアは肩をブンブンと回すと、傍に控えていたリムが次のボールを渡す。

「今度こそ五番よ」

そして、先程と同じようにボールを投げる。が、ボールはまたしても的外れな場所に飛んでしまった。

「お、おかしい。こんなはずじゃ……」

自分でも信じられないといった様子でアレイシアは呟く。

「もしかして、アレイシアって運動が苦手?」

俺が薄々と思っていたことをラーちゃんがハッキリと口にする。

「そ、そんなことはありませんよ! アレイシア様は槍を握らせれば騎士にも引けを取らない実力があり、王都の祭りやパーティーでは演武をなさるほどなのです!」

騎士並みの槍捌きと、祭りやパーティーで演武を頼まれるほどの実力か。

槍という武器は長いだけあってか、かなり扱いが難しい。それを使えるだけで大したものだと思う。そんな彼女の運動神経が悪いはずがない。

それにアレイシアの投球フォーム自体も決しておかしなものでもないしな。

どうなっているんだ?

俺が首を傾げていると、隣の方から軽快な音が響く。

「次、三番いくわ!」

そちらに視線をやると、ちょうどエリノラ姉さんがボールを投げようとしている。

エリノラ姉さんは右足だけで立つと、そのまま体重を移動させるように左足で踏み込み、腰を回して腕をしならせた。

それはまるで前世のピッチャーのよう。ボールを投げるという動きを自分の中で最適化したらああなったのだろう。独学であそこまでのレベルに高めてしまうとは恐ろしい姉だ。

勢いよく飛んでいったボールは、エリノラ姉さんの宣言した通りの板を抜く。

「次は六番!」

エリノラ姉さんは再び宣言して投げると、その宣言した通りの板が抜けていく。

狙いに行くようなゆっくりとしたボールならともかく、エリノラ姉さんの投げる速度はどれも剛速球。本気でバッターを討ち取らんとするようなものばかり。

もはや、完璧に制球できていることは言うまでもなかった。

やがて、エリノラ姉さんは全てのターゲットを漏らすこと撃ち抜くと、晴々とした様子でピッチングをルーナさんに変わる。

「……一番」

エルマンさんが板の設置を終えると、ルーナさんが短く宣言して投げた。

ぎこちなさはあるもののしっかりとしたフォーム。

ルーナさんの投げたボールは、左上にある一番の板を綺麗に抜いた。

「……快感。次は二番」

少しも爽快そうな顔をしていないが本人としては爽快だったのだろう。

ルーナさんは黙々と宣言しながらボールを投げていく。

それらは全て宣言通りにターゲットを抜いていき、一回投げるごとにフォームの硬さもなくなっていっていた。

「次は俺だな。五番だ」

そして、ルーナさんが投げ終わると今度はエリック。

エリックは大きく腕を使い、勢いよくボールを投げる。

エリノラ姉さんやルーナさんのようなしなやかさはないが、力のこもった投球。

エリックの投げた球は、真ん中より右に逸れて隣の六番を撃ち抜いた。

「……エリック、外れ」

「わかってる。次は五番に当てる」

ルーナさんの茶化しに悔しそうに返事しながら再びボールを投げる。

それは今度こそ宣言通りである、中央の五番の板を撃ち抜いた。

エリックの渾身のドヤ顔が発動。

「フッ、次は七番だ」

楽しいのかニヤニヤと笑いながら板を撃ち抜いていくエリック。

やはり、あちらは武闘派集団だけあってかなり運動神経がいいな。

ルーナさんもエリックもエリノラ姉さんほどではないが、かなりいいボールを投げている。

そんな光景をエリノラ姉さんは後ろから腕を組んで眺める。

顔にシワが寄っているあの顔は、多分エリノラ姉さん的に気になる部分があるのだろう。

「ルーナ、左腕をもっとグッとした方がいいわよ? その方が速くなるから」

「エリックはぎゅるんとして、腕は鞭みたいに!」

「……本当? 次は意識してやってみる」

「ぎゅるんとして鞭?」

エリノラ姉さんの感覚的なアドバイスを聞いて、しっかりと頷くルーナさんと戸惑うエリック。

エリノラ姉さんの感覚的なアドバイスをルーナさんは理解したようだが、エリックはよくわかっていないようだ。

勿論、俺もわからない。

今のグッとかぎゅるんってなんなのだろう? 擬音だけでは何をするかさっぱりわからないんだが。

とにかく、ルーナさんはエリノラ姉さんの言葉がわかったらしく、もう一度ボールを投げる。すると、ルーナさんの投げたボールは、先程と見違えるほどに速くなった。

「……すごい、左手を引いた方が反動で振りが速くなる」

「でしょ?」

なるほど、さっきのグッというのはボールを投げない腕を身体に引き寄せることだったのか。ルーナさんがちゃんと言葉にしてくれたお陰で、何を意識していたのかようやくわかった。

でも、これって絶対に女の子が投球ターゲットをしてするような会話じゃないよな。

「で、エリックは?」

いつまでも行動に移さないエリックを見て、エリノラ姉さんが尋ねる。

「いや、その、腰をぎゅるんとして腕を鞭にするというのがわからないのですが……」

「……腰をしっかり回して、腕をしならせるように柔らかく使うってことに決まってる」

何を当たり前のことを聞いているんだ? といったようにルーナさんが言う。

エリノラ姉さんもそれにしっかりと頷いているので、どうやらそれが正しい翻訳だったらしい。

「わ、わかりました」

エリックはあんぐりと口を開けていたが、エリノラ姉さん相手にケチをつける度胸はないのか、ルーナさんの翻訳をしっかりと咀嚼してボールを投げる。

「違う、もっとぎゅるってして、腕はシュルって!」

「……もっと足から腰を連動させて回して。そうすれば腕も勝手についてくる」

今のエリノラ姉さんの言葉に、本当にそんな意味が含まれていたのか……。

しかし、エリノラ姉さんのアドバイスをルーナさんが翻訳して伝えることで、エリックのフォームはドンドンと修正されていき滑らかになった。

そのピッチングを見てみると、最初に投げた時よりも雲泥の差だということがわかる。

うちにもルーナさんという名の翻訳機が欲しいな。そうすれば俺も稽古でエリノラ姉さんに理不尽な怒られ方をしなくて済みそうだ。

いやいや、ちょっと待て。それでは、俺がしっかり稽古を受けるような感じになってしまうから今のままでいいや。

エリックの矯正が終わると、ルーナさんがもう一度投げる。

その度に、ちょこちょことエリノラ姉さんが擬音の混じったアドバイスをして、理解したルーナさんがまた投げて……それを繰り返す度にボールが速くなっていくのがわかる。

が、これは遊びというより監督がピッチャーを指導している光景のような。

球速がドンドンと速くなるルーナさんとエリックのピッチングを見て、エリノラ姉さんは腕を組んで満足げに頷いていた。

アレイシアもフォームは綺麗であるが、あの三人と比べると分が悪いな。彼女達は本当に武闘派だから。

「アルのお姉ちゃんってすごいね。私も教えてもらったら、もっと速くなるかな?」

「んー、そうかもしれないね。ラーちゃんの体がもっと大きくなったら、教えてもらうといいよ」

「うん!」

さすがにラーちゃんまで、あのような武闘派になって欲しくない。

俺はエリノラ姉さんがラーちゃんに指導するような日がきませんようにと心の中で祈っておいた。