軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

村人もほっこり

「見てろよ! 次こそは一番抜いてみせるからな!」

ローガンの屋台を後にして、歩いていると聞き覚えのある威勢のいい声が響いた。

今の声は多分、ローランドだろうな。

周りに人だかりができているせいで、本人こそ見えないものの、あの元気な声は彼に間違いない。

「……なんかあっちの方、人が多い。何やってるの?」

「ああ、あれは……何ていうんだっけ? アルが考えたあの投げるやつ」

ルーナさんの問いに答えようとしたエリノラ姉さんだが、名前を思い出せないのか俺に振ってきた。

「投球ターゲットね」

「そう、それ!」

あれだけ試遊していたというのに名称を覚えていなかったのか。

「投球ターゲット? 聞いたことがないな」

「アルが考えたっていうものだし気になるわ。収穫祭でこんな催し物があるなんて」

エリックだけでなく、アレイシアも興味津々。

皆が食いついてくれるように考えただけあって嬉しい。

エリノラ姉さんに視線をやると、こちらを見て顎をくいっと動かした。

どうやらお前が説明しろというらしい。

このままエリノラ姉さんが説明してくれると思った俺がバカだった。

「ボールを投げて、番号の書いている板に当てる遊びですよ」

「ふむ、的当て遊びのようなものか?」

「そうだね。それをやりやすく、爽快感が得やすくした感じだよ。詳しくはやってみた方が早いね」

皆が興味を示しているようだったので、俺達はぞろぞろと投球ターゲットの方に移動する。

そこは村の自警団なんかが稽古に使っている場所。屋台の建ち並ぶ場所から少し離れたそこには、俺が考案した投球ターゲットが並んでいた。

新しい遊びとあってかたくさんの村人が挑戦しており、どこも順番待ちのようなものができている。

どうしようかな。自分が貴族だからといって、優先してもらうなんて事はあまり慣れてないんだけど、今日はアレイシア達もいるし待たせるわけにはいかないよな。

「ねえ、悪いけどここ貸してくれないかしら?」

僅かに俺が迷っていると、エリノラ姉さんは女性グループが多く並んでる列にいって堂々と告げた。

「はい、お姉さまのためでしたら喜んでお譲りします!」

「どうぞ、エリノラ様!」

エリノラ姉さんを見るなり、少女達は喜んで場所を譲ってくれる。が、ちょっと異様な熱のこもりようがあるのが気になる。

「お姉さまって、普段はそんな風に呼ばせてるの?」

「違うから。あれはあの子達が勝手にそう呼んでるだけ。ほら、空いたから行くわよ」

エリノラ姉さんはため息を吐きながら言うと、空いた場所に歩き出す。

こういう貴族の態度を前面に押し出した振る舞いもできるなんて、さすがだなぁ。

俺は普段から村人達とフランクにやっているので、こうやって改めて貴族として頼むのは慣れないや。

前世でも下っ端気質だったので、こうやって一線を引いて命令するのはどうもしにくい。

エリノラ姉さんのように堂々とそれができるのも、貴族としての才能なのだろうな。

五メートルほど先には投球ターゲットが設置されており、その裏側ではちょうどエルマンが最後の板を嵌め直していた。

エルマンはエリノラ姉さんや俺に気付くと、急いでこちらにやってくる。

「エリノラ様、アルフリート様、ようこそ」

自然とエリノラ姉さんの名前を先に呼ぶ辺り、こいつは処世術が上手いなと思った。

「やあ、エルマン。投球ターゲットやキックターゲットの調子はどう?」

「アルフリート様の考えた新しい催し物だけあって大人気ですね。ボールを投げたり、蹴ったりするだけなので、大人だけでなく子供も楽しめているようです。ですが、やはり数が足りないですね」

苦笑しながらも嬉しそうにエルマン。

投球ターゲットの数に対して、並んでいる村人の数が遥かに多いがこればっかりは仕方がない。

収穫祭なのに、投球ターゲットやキックターゲットばかり並べても仕方がないからな。

「ほお、あちらではボールを足で蹴るものもあるのか」

「……物を投げて的当てならしたことはあるけど、蹴るっていうのはあんまりない」

投球ターゲットの奥では、同じようにキックターゲットが並んでいる。

エリックやルーナさんはそちらも興味津々のようだ。

確かに蹴るっていうのはサッカーでもない限り、あまり経験しないものだからな。

「遊び方は理解したと思うので、まずはやってみますか?」

「そうね。ラーちゃん、やってみましょうか」

「うん!」

アレイシアとラーちゃんが他の村人と同じように、ボール籠の置いてある地点に移動する。

「こうして見ると思ったよりも遠いわね。もうちょっと近付いて投げましょう」

「一回だけここから投げたい!」

「ここから? 届かないと思うけど……まあ、いいわ」

届かないだろうと思っても投げたくなる気持ちはよくわかる。俺も川なんかで絶対に向こう岸まで届かないってわかるのに挑戦したくなって投げたりするから。

何事にも挑戦してみる気持ちは大事だ。

俺達はラーちゃんの可愛らしい意見を尊重して見守る。

「はい、これがボール」

「ありがとう!」

俺がボールを渡すとラーちゃんは感触を確かめるように握って、ターゲットを見据える。

可愛らしい貴族の少女が投げるのだと察して、周囲にいる村人の視線が集まる。

ターゲットに集中して気付いていないのか、注目されていることに慣れているのか、ラーちゃんは実に堂々たる振る舞い。

まさか、その小さい身体から剛速球を繰り出したりするんじゃ?

ラーちゃんは細い腕を大きく使ってボールを投げる。

「えいっ!」

ポーン、ポトッ……そんな効果音が聴こえそうな山なりの軌道を描いて、ラーちゃんの投げたボールは三メートル先くらいで落ちた。

そのままボールは転がって、止まりそうになったところでターゲットの土台に当たる。

「あはは、転がって当たった」

それでも実に嬉しそうに振り返って言うラーちゃん。

その無邪気な笑顔に心が洗われるようだ。周囲で見ていた村人もどこかほっこりとしたような様子だった。

あんな穏やかな顔をした村人達は初めてみたな。やはり、ラーちゃんの可愛さは世界を平和にする力がある。

「そうだね。次はもうちょっと近付いてバウンドせずに当ててみよっか」

「うん!」

ラーちゃんと一緒にいると、老後に孫と一緒に遊んでいるような気持ちになれるな。

今世でお爺ちゃんになるような年まで生きていられたら、このように毎日孫と遊ぶような穏やかな日々がいい。

ラーちゃんの気が済んだところで、俺達はターゲットの近くへ寄る。

距離にして約三メートル。ターゲットはほぼ目の前にあるのと変わりないが、子供が投げるならばこれくらいの距離だろう。

「エリノラ様、隣にもう一台ありますのでこちらもお使いください」

「ありがとう、満足したらすぐに空けるわ」

確かにラーちゃんに合わせながら、六人で使っていたら時間がかかるしな。

ひと通り、遊ばせたら満足するだろうしエルマンの配慮は有難かった。

「……エリックもこっち。そっちじゃ多くなる」

「お、おお」

ルーナさんに連れていかれてエリックは隣の方へ。

確かにエリックまでこちらに入ると、メイドのロレッタさんを抜いても数が多い。

だから、そちらに行く方が適切だろう。

だけど、こちらにはエリックが好意を寄せるアレイシアがいるのだが、ルーナさんはそこまで配慮してやるつもりもないようだった。

残念そうな顔を浮かべるエリックを俺は見送る。

どこかタイミングが合えば、アレイシアと一緒になれるようにしてやろうかな。

その想いは叶わないだろうが、どこかで夢を見させてもいいかもしれない。