軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

安眠スライム

カグラの和紙はダメだった。いや、正確には使えないわけではないが、俺の財布事情やコリアット村での継続的な催し物となるとダメだった。

となると村周辺にあるもの、もしくは俺が転移で買い付けても違和感のないものでないといけない。できれば前者だ。

俺は屋敷に置いてあったいくつかの紙を拝借し、同じように丸くカットしてポイにつける。

いや、無謀だとはわかっているけど可能性としてないわけじゃないからね。

庭に作っておいた水槽に水を入れて、そこにくぐらせてみる。

すると、紙は和紙以上にボロボロと崩壊をした。もうそれは即座と言えるほど。

紙の残骸が水の中で散らばってしまい、小魚すくいを楽しむどころではない。

「これはダメだね」

そう、呟いて次の紙を挟んでみる。

こちらは先程の紙に比べるとかなり分厚い。スリッパを象るのにも使われているくらいだ。

正直、紙というよりは厚紙に近いのが、もしかするとこれがイケるかもしれない。

そんな淡い期待を込めながらポイを水にくぐらせる……。

「……全然破れない」

破れないこと自体は素晴らしいのだが、分厚すぎるのだ。

試しに地面にあった石ころを入れてすくってみたのだが、それでもビクともしなかった。

これでは小魚がポンポンとすくわれてしまい、面白みがないではないか。

この紙、いや厚紙はダメだな。

そんな感じで他の種類の紙を使用してみたが、同じように崩れるか、分厚すぎるものばかりで駄目だった。

やはり紙ではダメだな。何か他の素材で考えないと。

自分の部屋に戻ってベッドの上で寝転ぶ。近くにあるスライム枕を手繰り寄せて頭の下に敷く。

そこで覚える違和感。頭の下のクッション力が全く足りない。いつもと頭の位置だって違うし、これはおかしい。

飛び上がるように起きて、スライム枕を見てみるとふっくらとしていた枕がペシャンコになっていることに気付いた。

「え? なんで?」

スライムには今朝、ちゃんと餌をやった。毎朝起きてから餌を与えるのが日課になっているので、それは間違いない。

だけど、目の前にあるスライム枕は、まるで餌をやり忘れたスライム枕のように萎んでしまっている。

こういう行いをする人は、一人しかいない。エリノラ姉さんだ。

しかも丁寧な事に自分のカバーから外して、俺の生きているスライムと交換している。そのことから事件の悪質性はとても高いな。

とはいえ、いきなり決めつけて責めると間違っていた時に反撃されるかもしれないからな。念のためにシルヴィオ兄さん確認をしよう。

俺は部屋を出て、シルヴィオ兄さんの部屋に移動する。

扉をノックして、返事をもらうと中に入る。

シルヴィオ兄さんは椅子に座って、書類をチェックしているようだった、

多分、収穫祭関連のものだろう。ここ最近はノルド父さんから領地の仕事が振られるようになったからな。

これはとてもいい傾向だ。シルヴィオ兄さんには、このまま良き領主としてなれるように励んでもらわないとな。俺がのんびりとスローライフをおくるためにも。

「どうしたんだいアル?」

部屋に入るとシルヴィオ兄さんが不思議そうな声を上げる。

が、ここで下手に会話をして仕事の話をされて、手伝ってほしいなどと言われては堪ったものではない。

俺は迅速に用を済ますべく、声を無視してベッドへ。

そしてベッドの上に置かれているスライム枕を触ると、生きてるスライムの弾力が伝わった。

やはり、シルヴィオ兄さんは犯人ではなかったな。

「……えっと、どうかしたの? 僕のスライム枕に何かある?」

「いや、なんでもないよ。邪魔してごめんね」

心底不思議そうにするシルヴィオ兄さんに、そう声をかけて部屋を退出。

これで問題ない。仕事をしている人の傍で暇そうな姿を見せれば、ロクな事にならないのは前世で身に染みているからな。

無事にシルヴィオ兄さんの部屋から出た俺は、次にエリノラ姉さんの部屋へ。

エリノラ姉さんはいつも人の部屋に入る時、ノックしないから俺もノックせずに中に――といきたいのだが、だからといって男であり、弟である自分がするとロクな目に遭わない。

あれは会社でいう部長や社長というヒエラルキーのトップに者ができることであり、俺のような下の者がやればどのような目に遭うかはお察しというものだ。

しかし、だからといって素直にやれば負けた気になるので、せめてもの意趣返しと強めにノック。

「エリノラね――」

「うるさい」

「すいません」

強くノックしすぎたせいか、エリノラ姉さんから不機嫌そうな声が返ってきた。

その凄味の利いた、いかにも不機嫌そうな声音にビビってしまって咄嗟に口から謝罪が漏れた。

しかし、ここで引き下がる俺ではない。なにせ今日は俺が糾弾する側なのだから。

「エリノラ姉さん、とりあえず入っていい?」

「……なんで?」

なんでって、言われると圧迫感があるな。

なんだろう。この問い詰めにきたのに逆に問い詰められる感じは。

問い詰める立場はこちらなのだ。そう自分の勇気を奮わせるように心で呟いた俺は、単刀直入に尋ねることにした。

「俺のスライム盗ったでしょ?」

「……盗ってないわ。交換しただけ」

てっきり誤魔化しの言葉の一つでも返ってくるかと思ったが、淡々と事実を伝えるかのように返事された。

誤魔化すつもりもないとは予想外だ。

「とりあえず入っていい?」

「いいわよ」

とりあえず、お伺いを立ててから部屋に入る。

女性の部屋に入る時は、会話の流れ的に自然であっても無言で入ることは許されない。

俺は前世で姉達にそれを叩き込まれた。

たった一言かけるだけで、穏便に生活できるのであれば安いものだ。

エリノラ姉さんの室内は俺と同じ部屋の造り。しかし、置いてある物が剣、木剣、防具だったりと女性らしい物が少ないな。むしろかけ離れている。

だけど、不思議と漂う香りはふんわりと柔らかく女性の部屋そのものだった。

そんな部屋の主といえば、ベッドの上で仰向けに寝転がっていた。

今はリラックスモードなのかポニーテールも解かれている。

そして大胆な事に、頭の下には俺から盗んだであろうスライムの入った赤い枕が敷かれていた。

「俺のスライムを返してほしいんだけど」

「ええー、他にもスライムいるでしょ? あたしは他のスライムがどこにいるかわからないから、アルの枕にいるスライムを貰っただけなんだけど」

おっと、さりげなく言葉が『貰った』に変わったぞ? 本人は意識して言ったのではないらしいが、そのように認識しているようだ。

弟の物は姉の物という現象が自然に起きている。

しかし、今回ばかりは引き下がる訳にはいかない。そのスライムは特別なのだ。

「今は余ってるスライムはいないよ。餌をやり忘れて死なせちゃったなら、ちゃんと新しいスライム捕まえてきてよ」

「えー、アルのスライムいい匂いがするから好きなのに。というか、なんでこんなにいい香りがするの?」

「いい匂いのする花とか香草、柑橘類のものを餌として食べさせてるからね。ちなみにリラックス効果のある薬草とかもたくさん食べさせているから、香りの中にリラックス成分があるよ」

「はぁー、道理でなんか落ち着くわけよ」

エリノラ姉さんがうつ伏せになって、どこか落ち着くような息を吐く。

妙にリラックスしていた理由は、俺のスライム枕によるリラックス効果みたいだな。

これは興奮させたエリノラ姉さんを落ち着かせるためのいいアイテムになるな。

普段血気盛んなエリノラ姉さんでも、リラックス効果のあるスライム枕で眠ってくれれば、少しお淑やかになったり、稽古の回数を減らしてくれるかもしれない。

「そこまでするのにも時間がかかったんだよ。育てた苦労や愛着もあるから悪いけど返して。そうなるようにエリノラ姉さんにも教えてあげるから」

「しょうがないわね、返す――いや、ちょっとこのスライムで昼寝だけさせて……」

そう言ってスライムを返しかけたエリノラ姉さんであったが、欠伸を漏らしてポフンとスライム枕に顔を埋めた。

どうやら俺特製、安眠スライムが気に入ってしまったようだな。

程なくしてエリノラ姉さんは穏やかな寝息を漏らし出す。

見ているこちらも和やかになるくらいの穏やかな寝顔だ。

返すと言ってくれているし、さすがに今の状態から取り上げる程俺も鬼ではない。

俺はサイキックでエリノラ姉さんに毛布をかけて、静かに部屋を出た。