軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

涼しい部屋で鍋を2

「それじゃあ、取り分けて」

「任せてください!」

味噌を溶かし終えて完成したので、取り分けをミーナに任せてしまう。

「肉多めで入れてよね」

「僕は魚で」

「はいはい!」

エリノラ姉さん、シルヴィオ兄さんが注文をつけて、それぞれの要望に応える形で注いでいくミーナ。

せっかくだから俺も注文をつけておこう。

「じゃあ、俺は長ネギ多めで」

「長ネギとは渋いですね!」

甘い長ネギに染み込んだ出汁と味噌の味が一番美味しいんじゃないか。それを渋いと言うとは、ミーナもまだまだだね。

ミーナに俺の分を注いでもらい、最後にミーナが自分の分を入れて準備が揃う。

「それじゃあ、食べましょうか!」

すると、エリノラ姉さんがそう言うなり食べ始めた。

全員が揃うまで待ってくれていたが、一刻も早く食べたかったらしい。

とはいえ、俺も気持ちは同じなので早速茶碗に口をつけてスープを飲む。

昆布出汁と味噌の優しい味が広がり、その中に染み込んだタラ、鶏肉、野菜の旨味が感じられる。優しくもしっかりとした味だ。

「はぁー、美味しい」

ホッと息を吐くように言葉が漏れる。

心の底からそう思ったせいか、何だか声がいつもよりも渋かった気がする。

「スープを飲んでいると身体が温まるね」

「ええ、これでちょうどいい感じだわ」

「夏なのに涼しいところで温かいものを食べるなんて贅沢ですね。ちょっと外で働いている人に悪い気がします」

ため息を吐くように感想を漏らす三人。

ふふふ、夏であるというのに氷魔法で部屋を冷たくして、温かい鍋を頂くっていうのがちょっとした背徳感であり、より味を高めてくれるスパイスなのだよ。

部屋の冷気の冷たさを感じながら、温かい味噌のスープを飲む。

すると、じんわりとスープの味がより繊細にわかり、身体の中でじんわりと温かいものが広がっていくのが感じられるのだ。

この飲めばホッとする感覚は冬でしか味わえないもの。それを魔法の力で再現して、美味しく戴くとはまさしくミーナの言う通り贅沢だな。

「まだあるわよね?」

俺がスープを飲んでホッと一息ついていると、エリノラ姉さんが身を乗り出して鍋を覗き込んだ。

ふと、エリノラ姉さんの茶碗を見てみれば、既に中身は空っぽ。綺麗に平らげられていた。

エリノラ姉さん、食べるの早いな。

ご機嫌そうにお代わりをよそうエリノラ姉さんをしり目に、俺もスープだけでなく具材を食べ進める。

今度は長ネギだ。斜め切りにされた大きな白いネギ。味噌のスープを吸っているせいか仄かに茶色く染まり、少し重くなっている。

これは味が染み込んでいそうだ。期待しながら少し息を吹きかけて口の中へ入れ込む。

「熱っ! はふっ、はふっ」

十分に冷ましたつもりだったが、ネギの内部に染み込んだスープが予想以上に熱かった。

俺は口の中でネギを転がしながら何とか熱を逃がして呑み込んだ。

ああ、熱さのせいであんまり味がわかんなかった。

「ふふふっ、アルフリート様ってば慌てん坊さんですね。私のように十分に冷まして食べれば――熱っ! ヤバいです! 思っていたよりもじゃがいもの中が熱い……っ!」

人のことを全然バカにできないじゃないか。

ジャガイモもネギの染み込んだ出汁に負けず劣らず、中がホクホクで熱がこもりやすいからな。

涙目になりながら口をパクパクと開けて熱気を逃がしているミーナ。それでもやはり口の中で広がる熱さがキツいのか、水を求めるように手をバタバタと動かしている。

その熱さを何度も経験している俺は、土魔法でコップを作り、そこに水魔法で水を注いであげる。

「はい、水」

「っ!」

俺が水を渡してあげると、ミーナが掻っ攫うように取ってごくごくと水でじゃがいもを胃袋に収めた。

「はぁー……ありがとうございますアルフリート様。死ぬかと思いました」

「ミーナは猫舌だから慌てん坊したらダメだよ?」

「はい、もっともで……」

これには言い返す言葉もないからか素直に返事をするミーナ。

とりあえず同じような被害を起こさないようにミーナのコップに水を入れてやり、自分を含めた他の三人にも水を用意しておく。

これでまた悲劇が起きようとも問題ないな。

俺は念入りにネギを冷まして、今度こそ口の中へと入れる。

ネギを噛み締めるとネギのとろりとした甘み、よく染み込んだ出汁と味噌の味が濃厚なまでに吐き出される。

「ああ、スープがよく染み込んでいて美味しい」

それに何よりネギ本来の甘みが違う。もはや出汁さえなくても煮込めば十分に食べられるほどの甘さだ。さすがはコリアット村で育てた野菜だな。

柔らかくなりながらも、この適度な歯応えがあるのもまたいい。シャキシャキとした食感が堪らない。

「野菜の甘みと出汁と味噌の味が絶妙に合っているね」

「ですねー」

味噌鍋の美味しさと温かさにほんわかしている俺達。

「あれ? 肉はどこよ?」

エリノラ姉さんがまたもやお代わりとして、お玉で鍋を探っている。

「ちょっとエリノラ姉さん、肉ばっかり食べ過ぎ。野菜や魚も食べなよ」

「野菜よりもあたしは肉が食べたいわ」

清々しいまでに子供のようなことを言い放つエリノラ姉さん。

普段ならば、皆でもうちょっと野菜を食べろと叱りつけるところであるが、美味しい鍋料理を食べて和んでいるせいかそんな気さえ起きない。

同じ釜の飯を食べた者同士。という表現があるのも納得だな。鍋料理は皆の心を優しくしてくれる。

つまり鍋料理を食べれば、トールやアスモだって穏やかで優しい気持ちになれるかも――いや、既に心が汚れ過ぎている奴には無理か。

「はぁー、美味しかったです」

「部屋が涼しかったお陰か、冬みたいに温かい鍋が美味しかったわね」

「うん、お陰で身体も温まったよ」

鍋を食べ終わり、身体が温まったお陰か皆がホッとしたように言葉を漏らす。

お腹も適度に満たされたお陰か皆表情が満足げだ。

しかし、鍋はまだ終わっていない。むしろ、ここが本番だと言えるだろう。

「さて、最後のシメにしようか」

「そうですね! 具材の旨味が染み込んだ味噌のスープとご飯の相性は抜群に決まってます!」

冬にも鍋料理をしており、その時にシメとしてご飯を入れて食べたのでここからが本番だと皆理解している。

「では、私がご飯を貰ってきますね」

「しかし、ミーナは食べられませんよ」

ミーナが鍋を抱えて部屋を出ようとすると、そこには同じくメイドのサーラが待ち構えていた。

「え? さ、サーラ!」

「鍋を部屋にお届けしたら、すぐに掃除に戻ってくださいね。廊下の掃除が全く終わっていないので」

「そ、そんな! 五分、いや、三分だけでいいんです! どうか最後のシメだけでも食べさせてください!」

ミーナが上目遣いに懇願するが、サーラは首を横に振る。

「ダメです。もう何時だと思っているんですか。休憩時間もとっくに過ぎているんですよ?」

「私の分を半分、サーラにも分けてあげますから!」

「私はもう昼食を食べてお腹がいっぱいなので結構です」

雑炊を分けるという切り札を切っても、全く揺るぎもしないサーラ。

何という精神力。サーラの心は鋼か何かでできているのではないだろうか。

「さあ、仕事に戻りますよ」

「……はい」

サーラに言われて、しゅんとしながら廊下へと出ていくミーナ。

先程の嬉しそうな顔から一転して絶望の表情に。無理もない、味噌鍋でありながら最後のシメを取り上げられてしまったのだ。これほど悲しいことはないだろう。

「……ミーナ」

「はい、何でしょう! アルフリート様!」

俺が声をかけてやると、ミーナがどこか期待するような表情で振り向いてくる。

「ご飯だけじゃなく卵も入れてきてね」

「アルフリート様のバカぁ!」

捨て台詞を吐きながら出ていくミーナ。

主人に向かってバカとは何事だ。

この後、雑炊は俺とエリノラ姉さん、シルヴィオ兄さんの三人で美味しく頂きました。