軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鮎追い

「トール! そっちに鮎が行った!」

「わかってる! 任せろ!」

川の中をアスモとトールが鮎を捕まえようと必死に走り回る。

水中ではアスモが追い立てた鮎が三匹ほどトールの方に向かっていく。それを待ち構えていたトールは腰を落として構え、一気に手を伸ばす。

「うらぁっ!」

「どう?」

「ダメだ逃げられた!」

水面から腕を抜きながら残念そうに言うトール。

手の平には勿論鮎の姿はない。

「ったく、しっかりしてよ。これで何度目?」

「うっせえ、アスモだって何回も失敗してるだろが!」

鮎を取り逃がしていがみ合う二人。

もう二人とも何度も鮎を取り逃がしている。捕まえられそうで捕まえられない状況がいら立ちを加速させているのだろう。

「まあまあ、そんなにいがみ合わずに、ここは水に浸かって冷静になろうよ」

「つーか、アルも手伝えよ! お前だって鮎を食いてえだろ!」

俺が石に腰かけて諭すと、トールが振り返って叫ぶ。

「いや、イグマさんから貰ったトマトとかあるし……」

「……アル、鮎を塩焼きにして食べたら美味しいんだよ? 焼きたてのものを頭から頬ばって、独特な苦みと塩味が汗を流した身体に染み渡る……」

俺は冷やしておいた夏野菜を掲げるも、アスモの具体的な言葉により完全に霧散してしまう。

「……何だよ、その具体的な言い方は。思わず鮎の塩焼きが食べたくなっちゃったじゃないか」

別に鮎など取れなくても冷やした夏野菜があるからそれでいい。そんなことを思っていたのに完全に気分が鮎の塩焼きになってしまった。

「でしょ? だったら、アルもこっちにおいで」

俺はアスモに誘われるままに川へと入る。

もはや今の俺は鮎腹。鮎を食べずして他のものを食べることなどできない。

アスモってば恐ろしい子。やはりアスモもトールの友達。人を悪の道へと引きずり込むのが上手い奴だ。

「で、どうすればいい?」

「三人であそこに多くの鮎を追いこもう。そうすれば逃げ場の失った鮎は俺達の方に向かってくる」

「後は一人一匹でも捕まえれば問題ないな」

作戦内容を把握した俺達は真剣な表情で頷き合う。

二人では鮎を追いこむことが難しかったかもしれないが、三人となるとそれだけ追いこめる鮎の数が増えるというもの。先程のトールのように捕まえ損ねる可能性はあるが、捕まえられる可能性はグッと上がるはずだ。

「それじゃ、鮎を探すぜ!」

トールの勇ましい言葉に頷くと俺達は鮎を探して散らばる。

鮎、鮎だ。先程のような小さな魚ではない。身がしっかりとついた大きなもの。

ずんずんと足を進めていくと、前方に鮎が五匹泳いでいるのを見つけた。

「こっちに五匹いたよー」

「こっちは三匹だ!」

「こっちは六匹!」

俺が声を上げると、トールとアスモも同時に鮎を捕捉の声を上げる。

となると後は追い込み地点に追い立てるだけ。そこは石が積み上がっている天然の罠地帯だから鮎が逃げられないようになっている。

そうなると鮎は逃げ場を求めて俺達の方に自らやってくる。後は誰かがそれを捕まえるだけだ。

俺達は鮎を遠くに逃がさないように慎重に誘導していく。

さすがに全員連れていくことはできず、一匹だけ遠くに行って四匹になってしまったが十分だろう。

俺達は徐々に包囲を縮めるように罠地点へと追い立てる。俺達の目の前には十匹以上の鮎が悠々と泳いでいる。

俺達は無暗に声を上げることはせずに、無言で包囲の輪を縮めていく。

そして包囲が縮まり鮎が逃げられなくなった時、

「今だ!」

逃げ場の無さに慌てた鮎へと俺達は飛び掛かった。

伸ばした手や足の脛をぬるりとした何かが通り過ぎていく感触。

ちくしょう、逃がしてしまったようだ。

しかし、俺が捕まえることができなくても問題ないだろう。

パッと見十匹くらいは追い込んで密集していたんだ。トールやアスモが一匹ずつ、もしくは二匹同時に捕まえていてもおかしくなんてない。

俺は顔を上げて期待の表情を浮かべながら尋ねる。

「「「ダメだった。そっちはどうだ?」」」

はにかむような笑顔を浮かべた俺達が見事に固まる。

あ、これ全員が取り逃がしちゃったやつだ。

「ちくしょう何やってんだよ、揃いも揃って逃がしやがって。誰か一人くらい捕ると思っていたのによ!」

見事に俺達の心を代弁してくれるトール。きっとこのような他人を当てにするような思いだったから逃がしてしまったのだろうな。

「ほら、トール、アル。もう一回だよ」

「ああ」

一回失敗したくらいでまったく諦めるつもりはないのか、逃げた鮎を探し始める二人。

俺だって鮎の塩焼きを食べたいので勿論諦めるつもりはないが、やはり手掴みでは効率が悪い。

こう、魔法でパパッと獲ることができれば……。

「あっ!」

している奴がいたな。エリックの領地で水魔法を使って漁をしているゴリラの双子が!

今まで忘れていた。あれを使えば密集さえしていればすぐに捕まえられるではないか。

「どうしたアル?」

「大きな声を上げると鮎が驚いて逃げちゃうよ」

声を漏らす俺に怪訝な声をかけるトールと、注意の声を飛ばしてくるアスモ。

「魔法でもっと簡単に獲れる方法を思いついたというか思い出した」

「おお! いつのもの魔法か! で、何をすればいい?」

「鮎が楽に獲れるなら何でもするよ」

俺がそう言うと、トールとアスモがこちらにやってきて水に濡れることを厭わずに傅く。

こいつらのこの潔い精神は嫌いではない。

「やることはさっきと同じだよ。鮎をできるだけ追いかけて集めればいいから」

「「わかった!」」

俺が説明するとトールとアスモが真剣な表情で返事をしてから散開。それから鮎を探すために水面を見ながら移動する。

最初から水魔法を同じように使えば恐らくできるが、一か所に固めたところで魔法を使った方がいいしな。

俺もさっきの場所に集めるべく鮎を求めて歩き出す。

さっきの鮎は散り散りになっていたが、透き通る水のお陰か簡単に鮎を見つけることができた。

しかし、二匹と三匹が距離を開けて泳いでいて誘導するのが面倒だ。さっきの行動で鮎に警戒心を持たれてしまったのかもしれない。

それでも俺は得意の気配を断つ技術で鮎にそっと近づく。

そうすると、逆に鮎が俺に気付かなくなった。それはそれで嬉しいのだがこちらの気配を察知して移動してくれないと困るぞ。

いっそのこと今なら手掴みでも獲れる気がする。でも、それだと一匹や二匹しか獲れないので非効率この上ないな。

俺は自分の気配を少しだけ出していくと、鮎はこちらに気付いたのか驚くように泳いで離れていく。これで三匹は誘導個所に向かったが、残りの二匹がまだ遠い。

ここは水魔法で水流の流れを操作して、それとなく向かわせるか。

俺は離れたところで泳いでいる二匹の鮎の周りに水魔法を発動。水流を意図的に流してやると、鮎はそれに逆らわずに流れに身を任せて誘導個所へと流れる。

そうやって俺が少しずつ五匹の鮎を誘導していると、トールとアスモも同じようにやってきた。

二人が誘導してきた鮎は二匹ずつ。先程のせいで警戒されて集めにくくなったのだろう。しかし、九匹もいれば三人で食べるには十分だ。

トールとアスモが無言でアイコンタクトをしてくるので、俺はこくりと頷いて足を進める。

俺の意図が伝わったのか、トールとアスモはそのままゆっくりと包囲網を縮める。

そして九匹の鮎が大体一か所に集まると、俺はそこら一帯に水魔法を発動。

鮎の群れがいる場所を中心に水球を作成。すると、そこを泳いでいた鮎も巻き込まれるようにしながら水球に囚われた。

「おおー! すげえ!」

「これならいくらでも捕まえられる!」

九匹の鮎が入った水球を宙に浮かべると、トールとアスモから感嘆の叫びが上がる。

さすがは便利な魔法。さっきの手掴みと比べると難易度も効率も段違いだ。

それにしても水球の中を泳ぎ回る鮎は中々に綺麗だな。魚というのは当然下にある水の中で泳いでいるので、こうして下から見上げて眺めることはまずない。前世のような水族館でも行かない限りお目にかかれない光景だろう。

「それじゃあ、早速食うか!」

「俺とトールは串になる枝を集めてくるよ」

しかし、トールとアスモの中ではもう食い気で一杯のようで、特に眺めることもせずに串になる枝を集めるために走り回った。

俺はそんな二人に苦笑しながら岸へと上がった。