軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪しき心

夏野菜を食べて身体の中から涼んだ俺達は、イグマと別れて村にある川へと来ていた。

「よっしゃー! 行くぜ!」

いつの間にか服を脱いだのか、トールが勢いよく岸からジャンプして川に入り込んだ。

ドボンと派手な水飛沫が上がる。それは岸で立っていた俺のところまで飛んでくるほどだ。

冷たい飛沫が肌にかかり、少しのくすぐったさとひんやりとした冷たさを感じる。

「ぷはぁ! 風や食べ物もいいけど、やっぱり涼むには冷たい川に入るのが一番だな!」

トールが水面から顔を出しながら気持ち良さそうに言う。

いつもは上がっている前髪なんかは水分を吸ったせいか降りており少し可愛らしくなっている。

こっちの憎らしい顔つきもマシに見える気がする。いつも前髪を下ろしていたらどうだろうか。

俺がそんなことを思っていると、今度は服を脱いだアスモが隣に立つ。

「よーし、次は俺だね」

「ば、バカ! やめろデブ! お前みたいなのが飛び込んだら水の衝撃がやべえだろ!」

「俺はデブじゃない! ぽっちゃりだ!」

トールがそのように叫ぶが、アスモは聞く耳を持たずに助走をつけてジャンプ。

デブ――ぽっちゃり体型とは思えない程の跳躍を見せてアスモが宙へ。やけに長く感じる滞空を経た後に、アスモはトールの近くへと落水。

トールよりも遥かに派手な、まるで水中で何かが爆発したかのような水飛沫が上がる。

それは岸に立っている俺にもかかった。さっきはまばらな雨のようだったが、今回はバケツに入れられた水が降ってきたかのよう。

お陰で俺は川に入る前からずぶ濡れだ。

「ゲホッゲホ、この野郎! 鼻に水が入っただろうが!」

「ははははは! そんなの知らない――くぱっ!」

アスモが高笑いしていたが、そこを狙ってトールが顔面に水をかける。

すると、アスモの鼻に水が入ったのかトールと同じように咽る。

「ゲホ、ガハッ、何すんだトール!」

「さっきの仕返しだバーカ!」

「こいつめ! 沈めてやる!」

「ははは! やれるもんなら――おい、ちょっと待って。覆い被さってくるのは卑怯だろうが! そんなの重くて――」

トールの言葉が途中で発せられなくなって二人の姿が水面から消える。

川に入るなりあんな目に遭うのはこりごりだな。もうちょっと二人が落ち着きを取り戻してから俺は入ることにしよう。

そう決めて、俺は先程イグマさんからもらった夏野菜を手にして、水に浮かべる。

それから水流に流されないように石を積み上げて囲いを作る。しばらく様子を見て、トマトなどの野菜が流れないことを確認。

「よし、これで少し待てば水で冷えた夏野菜が食べられるね」

川で遊ぶとはいえ汗はかいてしまう。後の休憩時間に塩でも振りかけて食べるとよさそうだな。

さて、あちらの方は落ち着いたかな?

ふとアスモとトールの方に視線をやると……。

「ま、まい……ガボガボ!」

「んー? 何か言ったかな? 聞こえないよ?」

アスモが全体重をかけてトールにのしかかるというむさ苦しい光景が見えた。

さすがにアスモの重さで抑え込まれれば、二度と復帰することは構わないだろう。

「アスモ、そろそろ許してあげなよ」

そろそろトールが死んでしまいそうだ。

「しょうがないなぁ」

俺が諭すとアスモがゆっくりと抑え込みの体勢を解除する。

すると、即座にトールが水面から顔を出す。

「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思ったぜ」

水の中にいたトールはきっと走馬燈でも見ただろうな。

とりあえず二人が落ち着いたところで、俺はずぶ濡れになってしまった服を脱いで、傍にある木の枝にかける。

今日は天気もいいし、遊び終わったことには乾いているだろう。

川で素っ裸になった俺は、トールやアスモのように飛び込みはせずにゆっくりと水へと入る。足先を包み込む冷たい水の感触。それに身体が驚いて一瞬跳ねるように反応するが、すぐに慣れて心地よいものへ。

そのままゆっくりと足首から太ももへ、そして座りながら上半身も浸かってしまう。

「はぁー、冷たい水が気持ちいい」

「何だか風呂に入る父ちゃんみたいだぜ」

「うん、入り方が完全に風呂だね」

俺が恍惚の表情を浮かべながら水で浸かっていると、トールとアスモがそのようなことを言う。

「いやいや、いきなり冷たい水の中に入ったら身体がびっくりするからね。足先から徐々に慣らすように入らないと」

「「おっさんくさい」」

いや、でも身体を労わることは大事だと思うけど……七歳にしてそのようなことを考えること自体がおっさんくさいのか。

まあ、いいや。今はこの快適な状況を楽しもう。

相変わらず村の水はとても綺麗で澄んでいる。水は透明で底が見えており、よく見ると小さな魚が泳いでいた。

これくらいたくさん泳いでいると、手で一匹くらいすくえるのではないだろうか。

そう思った俺は両手を使って小魚の群れの場所に手を入れて、すくいあげる。

すると、俺の手の平の中には三匹の小魚がいた。大きさにして三ミリほどか。それほどまでに小さな魚が手の平に乗っている水の中をちょろちょろと泳いでいる。それがとても可愛らしい。

「小さな魚捕まえた」

「本当か?」

俺が手の平を凝視していると、トールとアスモがこちらを覗き込んでくる。

「ちっけぇ! そんなのよく捕まえたな!」

「群れのところに手を突っ込んで、すくい上げたら捕れたよ」

「ははっ、俺もやってみるか」

俺がそう言うとトールは楽しそうに笑って、小さな魚の群れを探し始める。

それに倣ってアスモも同じように探し始めた。

「おい、アスモ。そっちに小さな魚はいるか?」

「俺は食べられない魚に興味はないから、食べられる大きな魚を探すよ」

アスモも小さな魚を探しているかと思いきや、食べられるような魚を探しているらしい。食べられる魚にしか興味がないところがアスモらしいな。

「お、いたぜ!」

俺が苦笑しているとトールが小さな魚の群れを見つけたのか、両手で水をすくい上げる。

「ちくしょう! 逃げやがった!」

「ははは、悪しき心を持つ者では捕まえることができないんだよ。魚も悪い気配をする人間がわかって避けるんだよ」

「だったらアルが捕まえられんのはおかしいだろうが!」

失礼な。俺は良き心を持った純粋な子供だ。トールのような醜い心を持つ者と同じにしないでもらいたい。

トールから心無い言葉を言われた俺は、視線を外して流れる水の感触を楽しむ。

あー、この程よい水中の流れが心地よい。無理に身体を押し流すような強さではなく、肌をするりと撫でていくような丁度良さがまた素晴らしい。

水はとても気持ちよく、歩いた時や畑仕事でかいた汗を瞬く間に洗い流してくれる。汗塗れになっていたのが嘘のようだ。

辺りでは絶え間なく水の流れる音が聞こえ、聞いているだけで涼やかな気分になれる。

新鮮な夏野菜を食べて、川の水で涼む。田舎だからこそできる涼の取り方だな。

感慨深くそう思っていると、手の平の中でピチピチとした不思議な感触がした。

驚いて視線をやると手の平から水が零れ落ちて、泳いでいた小さな魚が水を求めるように必死に跳ねていた。

おっと、いつの間にか水がなくなっていた模様。小さな魚だし、あまり水のない場所にいさせるのは可哀想だ。

「そら、川にお戻り。今度は捕まるなよ」

慌てて手の平を水に浸してやると、小さな魚はピチピチと跳ねていたのが嘘のようにスイスイと水の中を泳いでいった。

そして小さな魚の群れと合流して彼方へと去ろうとしたところで、トールが獲物の目をしながらやってくる。

「そら! ……ちっ、外れかよ」

トールが群れのところを両手ですくい上げたが、一匹も捕まらなかったようだ。

「ほーら、やっぱり」

「うっせえ、絶対捕まえてやるからな!」

結局トールは三十分かけて一匹だけ捕まえた。