軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族で屋敷に帰還

しばらく時間が経過し、エリノラ姉さんとルーナさんが清々しい表情で帰ってきた後。

「おーい! アルフリート様! きてやったぜー!」

「お、お邪魔します」

トルネルがクイナと案内のメイドさんを伴って、屋敷の庭へと入ってきた。

クイナは初めて貴族の敷地に入るせいか、おっかなびっくりと言った感じだが、トルネルの方はまったく気にしていなかった。

懐かしいな。最初はトールやアスモも俺の屋敷に来た時は……いや、あいつらは最初からトルネルみたいな感じだったな。屋敷の門の外から大声で誘い声を上げていたし。

「はぁ~、すげえな。これがアルフリート様の馬車か。でっけえ、ドラゴンの紋章がついてやがる」

「お父さんはドラゴンスレイヤーだもんね」

俺の家の馬車を見るなり、興味深そうにする二人。

うちの馬車は豪華さでは負けるかもしれないが、紋章のインパクトは随一だからな。

「本当にもう帰っちゃうんだな。せっかく仲良くなったのに残念だぜ。アルフリート様とやエリック様と銛突きとかしたかったのになぁ」

「うん。でも、また来るから、その時に銛突きを教えてよ」

今回は合同稽古で疲れていたために、銛突きや海で遊ぶなどのことはしなかったが、興味がないことはない。今度、王都に行く用事があった時、あるいは転移でこっそりとくる時があれば、是非とも銛突きを教えてもらいたいものだ。

「おう! 約束だかんな! 絶対来いよ!」

俺がそう伝えると、トルネルがニカッと笑う。相変わらず無邪気な笑みが似合う少年だ。チラリと見える欠けた前歯も健在だ。

「これ、お土産です。良かったらどうぞ」

そう言ってクイナが渡してきたのは小さな木箱。

「何これ? 開けてみてもいい?」

「はい」

クイナに許可をとって開いてみると、そこにはキラキラと輝く魔石の破片があった。

お店にあったような勾玉のような形や球形、四角くカットされたもの、魚の形を模したものと、精緻に加工されている。

「おお! 綺麗だね!」

「へー」

「本当だね。これ、全部魔石の破片かな?」

俺が驚嘆の声を上げると、近くにいたエリノラ姉さんやシルヴィオ兄さんも気になったのか覗いてくる。

「はい、そうです。数が揃わなかったり、余ったりしたものを加工したものですけど……」

「いやいや、これは凄いでしょ」

恥ずかしそうに答えるクイナだが、そう卑下するようなものではない。むしろ、魔石の破片をここまで綺麗に加工できるなんて職人技だ。

「うむ、装飾人は他にもいるがここまで魔石の破片を加工できるのは、クイナのところだけだ」

「だよな!? クイナはすげーんだぞ!」

「お、お兄ちゃん、恥ずかしいからやめて!」

エリックが褒めると、トルネルが誇らしげに語って、クイナが恥ずかしそうにする。

そんな兄妹のやり取りがとても微笑ましいな。

「よかったら、皆さんで眺めたり、友達にお土産として渡してあげてくださいね」

改めてクイナにそう言われて、俺はトールとアスモにお土産を買っていないことに気付いた。

「……あたし、エマとシーラにこれを少し分けることにするわ」

「俺もトールとアスモに……いや、あいつらには貝殻か拾った魔石の破片で十分か」

トールとアスモにこんな綺麗な物をあげるなんて勿体ない。あいつらには、浜辺で拾った貝殻と、加工されていない魔石の破片で十分だ。

どうせ物よりも食べ物の方が喜ぶ輩だからな。

「アル、エリノラ、シルヴィオ。そろそろ出発するわよ!」

そんなことを考えていると、馬車の準備が整ったのかエルナ母さんが声をあげる。

「フッ、ようやく貴様の面を拝まずにいられるな」

「それはこっちの台詞だよ」

「あはは、二か月もしないうちにまた顔を合わせることになるんだけどね」

シルヴィオ兄さんの言う通り、二か月もしないうちにまた会う事になるので、特に寂しがることもない。というか、元より寂しいと思うような関係や友情ではないけどな。

「……エリノラ、次は絶対負けないから」

「ふふん、望むところよ。あたしは次も負けないから」

そして、何やらバトル漫画の主人公のような言葉を交わし合うルーナさんとエリノラ姉さん。互いに闘志を燃やし合うことはいいことだけど、その次に俺とシルヴィオ兄さんを絶対に巻き込まないようにお願いします。

「……シルヴィオ君の防御力。次はすんなり突破してみせるから」

「う、うん、僕は姉さんみたいに強くないからお手柔らかにね」

ルーナさんはシルヴィオ兄さんにそう言うと、次はこちらに視線を向けてきた。

巻き込まないでって願ったばっかりなのに。

「……次はもっと魔法を上手く使えるようになってみせるから」

「土魔法頑張ってね」

「……うん、いつかエリノラみたいに魔法戦闘ができるように頑張る」

「それは応援しかねるよ」

俺が言えるのは土魔法頑張れだけだ。俺はエリノラ姉さんみたいに戦闘狂ではないので、他を当たってください。

俺は逃げるようにして会話を打ち切って、馬車へと移動して乗り込む。

それからシルヴィオ兄さんとエリノラ姉さんが一言二言喋って、同じように馬車へと乗り込んだ。

「さて、もう忘れ物はないわよね?」

既に席に座っていたエルナ母さんの言葉に頷く。

仮に何かを忘れていたとしても転移ですぐに取りに戻れるから問題ない。

シルヴィオ兄さん、俺、ミーナが並んで座り、対面にエリノラ姉さん、ノルド父さん、エルナ母さん。御者席にはロウさんも座っており、誰一人欠けてはいない。

「今度お邪魔する時はよろしくお願いしますね。旅の無事を祈っています」

「秋を楽しみにしているぞ!」

「ええ、ありがとうございます」

「次に会えるのを楽しみにしているわ」

窓の外から声をかけてくるナターシャさんとエーガルさんの言葉にノルド父さんとエルナ母さんが答える。

そして準備が整うとノルド父さんは小さく息を吸って、

「それじゃあ、コリアット村に帰ろうか」

ノルド父さんの言葉を聞いて、御者席にいるロウさんがピシャンと鞭を打ち付けて、馬がゆっくりと歩き出す。それに伴い馬車もゆっくりと動き出し、エリックの屋敷の庭から離れていく。

「じゃあなー! アルフリート様!」

「ま、また来てくださいね」

馬車の窓から身を乗り出すとトルネルとクイナが元気よく叫び、エリックとルーナさんが小さく手を振っているのが見える。

「じゃあねー!」

俺達は皆に手を振って別れの言葉を告げる。

すると、あっという間にエリック家の敷地から出ていき、五日間滞在していた屋敷が小さくなっていく。最後まで手を振ってくれたトルネルやクイナが見えなくなったところで、俺達は手を振るのを止めた。

転移があるからいつでも会えるとわかってはいるものの、別れというのはどこか物悲しいものだな。この便利な魔法がなければ、ちょっとというかかなり寂しく感じていただろうな。

そんな事をしみじみと感じながら、俺は窓から離れて席に座り直した。

さあ、コリアット村に帰ろうか。屋敷に戻ったら部屋で昼寝、草原で昼寝。暑いから今度は氷の城を作ってみたりするのもいいかもしれないな。

自分のやりたいことを自由気ままにやっていこう。それがいい。

帰り道では、いつものように昼寝をしたり、魔法を使って遊んだり、行きと同じように土魔法の家で泊まったり。魔物に襲われることもなく、ごく平凡に時間が過ぎて、四日目の正午にコリアット村に到着し

た。

「はぁー、空気が美味しいな」

「やっぱり私達には潮を含んでいない、澄んだ空気が落ち着きますね」

海の香りも悪くないのだが、やはり俺達にはこっちの空気の方が合っている。

俺とミーナは窓を覗きながら大きく深呼吸を繰り返す。

シルフォード領と違って、波の音や潮の香りはせず、土と緑の香りの混ざった空気が鼻孔をくすぐる。この懐かしくも澄んだような空気はコリアット村のもの。この空気を嗅いだだけで帰ってきたんだという実感が湧いてくる。

大きな山々が村を囲むようにそびえており、空はとても青い。目の前にはたくさんの麦畑が広がっており、青々とした麦の穂が風に揺られて、潮騒のような音を立てている。

「これがもう二か月もしないうちに黄金色になるのね」

「そうだね。収穫祭はもう目の前だ。帰ったら急いで準備を進めていかないとね」

帰ってくるなりもう仕事のことを考え始めるノルド父さん。

まだ屋敷に戻ってもないのに仕事のことを考えるとは忙しない。

「あらあら、帰るなり仕事? 今日はもう身体をゆっくり休めて、明日からにしたらどう? 荷物の整理もあるし」

「……そうだね。あまり急いでも仕方がないか」

エルナ母さんに諫められて、フッと肩の力を抜いて座り直すノルド父さん。

ノルド父さんは少し根を詰めすぎる嫌いがあるから、のんびりとしたエルナ母さんが適度に手綱を取ってあげるくらいが丁度いいのだ。

まあ、本人はそこまで考えているかわからないが、屋敷でノルド父さんとゆっくりしたいだけかもしれないね。

「あー! お腹が空きました! 早く屋敷に戻ってバルトロさんのハンバーグが食べたいです!」

「あっ、それわかるわ。今はとにかく思いっきりお肉が食べたいわ!」

「唐揚げとか揚げ物もいいですよね!」

シルフォード領に着いてからは海鮮料理が主だったからな。魚を食べれば、次はお肉が食べたくなるわけで、そして次にまた魚。このループから永遠に抜け出せる気がしないな。

あー、ミーナとエリノラ姉さんの会話を聞いていると、お腹が空いてきた。屋敷に戻ってバルトロの料理が食べたい。

そんなことを考えていると、俺の胃袋がぐうと空腹の音を鳴らす。

「ロウさん、アルがお腹を空かせているみたいだから少し急いで」

「はははっ、わかりました」

俺がお腹を空かしたことを口実に、馬車を急がせるエルナ母さん。

俺以上に屋敷までが待ち遠しかったのはエルナ母さんだったのかもしれないな。

それからロウさんが少し馬のスピードを上げて、軽快に村の傍を通り過ぎて一本道を進んでいく。

すると、程なくして遂に我が屋敷が見えてきた。

どんどんと大きくなってくる屋敷に胸を高まらせる。

「お帰りなさいませ」

屋敷の門の前に来ると帰還の連絡が伝わっていたのか、サーラとメルとバルトロが門を開けて綺麗なお辞儀をする。

ははは、バルトロがそんな風に仰々しくやると気色悪いや。俺が窓から覗いて、からかうように笑うと向こうも気付いたのか、苦々しい表情をしていた。

それから馬車は屋敷の玄関の前に着くと、ゆっくりと停車する。

ミーナが先に降りて、昇降台を置いてノルド父さん、リードされてエルナ母さんが降りて行く。

続いてシルヴィオ兄さんが一人で降りて、エリノラ姉さんと俺は作法などクソ食らえというように飛び降りた。

「こら、二人共。もっと優雅に降りなさい」

「「だって、もう自分の家だもん」」

ここが外出先やエリックの屋敷内ならはしたないが、ここはもう自分の家だ。久し振りに帰ってきたのだし、細かいことはもういいだろう。

座っていたせいか凝り固まっていた筋肉をほぐすと、早速とばかりにミーナが玄関の扉へ向かう。

「それじゃあ、扉を開けますね!」

「「ただいま!」」

俺達は元気な声を響かせながら、懐かしい我が家へ帰還した。