軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルナ母さんからの課題

「『我は求める 燃えさかる炎よ 集いて球となれ』」

エリノラ姉さんが呪文を紡ぐと、突き出した右腕の前に炎が収束していき、徐々に球体へと近付いていく。

ほお、エルナ母さんが道中で魔法稽古をつけたのは無駄ではなかったらしく、以前よりも魔法の発動がスムーズだ。

俺が感心していると炎は火球へと変化した。とはいえ、それはとても十分な発動速度とは言えないが、安定して火球を作れるようになったのは確かな進歩だ。

炎による温かな空気が赤茶色の髪を巻き上げる中、エリノラ姉さんはその鋭い眼差しを前方にある的へと向ける。

そして、そこに手をかざすように動かすと火球もそれについてくる。

魔法というものはイメージが大事なので、身体を動かすことはそれの補助になる。

今エリノラ姉さんは身体を動かしながら火球を動かし、前方にある的への直進運動を必死にイメージしているのだろう。

そうやって数秒間、集中するとエリノラ姉さんは勢いよく火球を飛ばす。

すると海面から伸びた土魔法でできた的に見事に当たる――こともなく、三メートル横の海水へとぶち当たった。

火球が海水へと吸い込まれて、小さく爆発。

虚しくも的を海水で濡らすだけであった。

「もう、五回も連続で当たらないわよー!」

エリノラ姉さんへの課題は五回連続で的に当てること。

ゆっくりと火球を作ることはできるようになったが、遠くの的へと当てることはまだまだ難しいようだ。三回に一回でも的に掠ればいい方だろうな。

一方シルヴィオ兄さんは、エリノラ姉さんよりも魔法は上手い。俺が作り直した的にしっかりと傷を刻み込んでいる。

「『我は求める 大気より集いし 鋭き風の刃を』」

シルヴィオ兄さんがもう一度風の刃を飛ばす。

しかし、それは強い海風に煽られて的から逸れてしまった。

「あっ」

ぶつかる先を無くした風の刃はフラフラと空中を彷徨い、減衰して消えていった。

魔法というものは距離が離れれば離れるほど威力がなくなるもの。よっぽど多めに魔力を込めない限り、十メートルも飛ばせば格段に威力が落ちる。

今回の場合は魔力が減衰し、形すら保てなくなって消失したというわけだ。

「後二回だったのに……」

「どんまい」

落ち込みの声を上げるシルヴィオ兄さんを俺は慰める。

エルナ母さんの課題は連続で十回だからな。途中で一回でも外せば最初からやり直しだ。

魔力は使えば使うほど消耗するし、魔法を発動させるのも神経を使うもの。

海風が強いコントロールの難しい状況で、風魔法を使わせるなんてエルナ母さんもいい性格をしている。

さて、人のことを心配している場合じゃないな。俺はあと四十九回も当てないといけない訳だし。

二人を観察するのを程々にして水魔法を発動。先程と同じように水球を飛ばして命中させる。

四十八、四十七、四十六、四十五……ただ単に水球を発動させて飛ばすにも面白くないな。

水球の大きさを変えたり、形状を変えながら当てることにしよう。

尖らせてみたり、極端に小さくしてみたり、水流を模してみたりと工夫をして当てること二十五回。

さすがにバリエーションが少なくなってきた。ちょっと飽きてきたのでさっさと終わらせてもいいのだろうか?

エルナ母さんは魔法を連続で当てればいいといった。

ならば、俺が水の腕を伸ばして二十回的を突いても当てたということになるはず。

早速俺は海水で腕を作って、三十メートル先の的へと伸ばす。

それから人差し指だけを作って、ちょんちょんと突くように的の真ん中を突く。

「十九、十八、十七、十六、十五、十四……」

「ちょっとちょっとそれはダメだよ!」

俺がキツツキのように水の腕で的を突いてカウントしていると、遠くで見ていたノルド父さんがやってきた。

「えー、何で? 俺はエルナ母さんが言った通りに、魔法を連続で当てているだけだよ?」

「いや、確かにそれはそうだけど、これは命中力や集中力、魔法の連続発動とかそういった趣旨の稽古なんだよ?」

まあ、やっぱりそうなりますよねー。ちょっとこれはせこいと自分でも思っていました。

「わかった。じゃあ、もうちょっと普通の魔法で」

俺はさっきシルヴィオ兄さんの崩した硬質な的の破片にサイキックをかける。

そしてそれを一気に持ち上げて、遠方の的へ一個ずつ射出した。

連続で飛ばされた破片は的の真ん中に吸い込まれるように次々と当たった。

うん、これで二十回は当たったな。

そもそもこの的は、俺が全て計算して作ったものだから外しようもないんだけどね。

「これなら問題ないよね?」

「……エルナに次の指示を聞いてくるといいよ」

何故か微妙そうな表情で言うノルド父さん。

やったね。とりあえず俺の課題は終わり。やっぱり剣の稽古に比べると魔法稽古の楽でいいな。

「……こう?」

「そう、その調子よ。身体の中に一本の管があるようなイメージで、そこに魔力を通して全体に巡らせるの」

俺がエルナ母さんの方へ行くと、ルーナさんとエリックがコツを聞いて魔力の循環を行っているようだった。

ルーナさんの方は割と飲み込みがいいのか、先程見た時よりもスムーズに魔力の循環ができている。

「……凄い。前よりも魔力が流れやすくなった」

「ふふふ、魔力操作に関してもイメージが大事だからね。自分のイメージに合う方法を見つければもっと効率が良くなるわよ。今は想像しやすい例えを教えたけど、ルーナさんに合うようなイメージがあれば切り替えて試してみてね」

「……わかりました」

「じゃあ、しばらく魔力を循環させてね」

こちらに比べてエリックは……。

「ふっ、くっ、くおおおおお!」

歯を食いしばって顔を赤くしながら必死に叫んでいるだけであった。

身体の中にある魔力はちょびっと早く動いただけで、さっきとあまり変わらない。相変わらず無駄に魔力が放出されているわ、しっかりと魔力が四肢に届いてもいない状態だ。

「エリック君は一度落ち着きましょうか。力んでも魔力は思う通りに動かないわ。むしろ、落ち着いた状態の方が巡りはいいわよ」

「は、はい」

エルナ母さんに諭されてエリックは魔力の循環を止めて大きく息を吐く。

エルナ母さんの言う通り、魔力は無理に力んでもスムーズに動くことはない。むしろ、自然体の方が上手く流れるもの。

俺も赤ん坊の時に魔力を流すことができなくて、力んだりと試行錯誤したなぁ。

「む、アルフリート。どうして貴様がここにいる?」

「魔力制御が下手くそなエリックを笑いにきたに決まってるじゃん」

「こ、この野郎……」

俺が下手くそと強調するように言うと、エリックが頬を引きつかせた。

「はいはい、今は稽古中よ。他人の邪魔をしないで自分の稽古に戻りなさい」

「それが終わったから来たんだけど?」

「はい?」

俺がそう告げると、エルナ母さんは間の抜けた声を上げる。

それからノルド父さんの方に視線をやると、向こうも視線に気付いたのかノルド父さんはゆっくりと頷いた。

「そ、そう。もう終わったのね。連続五十回……」

視線を向けるだけでハッキリと通じ合うことができるとはさすがの仲ですね。

「これで今日の稽古は終わり?」

「そんな訳ないでしょ。アルには次の課題をやってもらうわ」

そう言ってエルナ母さんが歩いていくので、何を言い渡されるのか少しワクワクしながらついて行く。

ルーナさんとエリックから程よく離れると、エルナ母さんは円を描くように滑らかに腕を動かして水球を作り出す。

なるほど、腕を丸く動かすことによって水球のイメージを補強。それによってスムーズに魔法を発動させているのか。勉強になるな。

試しに指先で円を描くように動かして水球を作ると、小さな水球でも正確に作ることができた。

「なるほど、こうすれば作りやすいんだね」

「…………え、ええ。そうね。でも、課題はこれじゃないわ」

エルナ母さんが連続で腕を振るうと十個の水球が出現する。

そして、また腕を軽く振るうとエルナ母さんの周りを回ったり、上昇して円の形になったりと自由自在に操った。

おおさすがはエルナ母さん。アリューシャやイリヤでも五個を何とか動かせるくらいだったのに……。

やっぱりエルナ母さんほどになると、これくらいの魔法制御は余裕だよね。

とにかく、今回の課題は十個の水球を同時に操作することだな。

趣旨を理解した俺は、早速十個の水球を浮かべ、エルナ母さんが動かした水球の動きを真似るようにして動かした。

「アルには同じように十個の水球を――いや、二十個の水球を同時に操作してもらうわ!」

「う? うん、わかった」

途中から訂正が入ったので、俺は追加でさらに十個の水球を浮かべる。

そして、十個の群れに加えるようにして列にしたり、ジグザグに動かす。

これだけ水球を浮かべていると、シャボン玉が舞っているようで綺麗だな。

「……水球三十個浮かしてちょうだい」

「はいはい」

さらに十個追加ですね。まだまだ余裕です。

俺はさらに十個の水球を追加。

「う、浮かぶだけでじゃなくて動かすのよ」

「うん」

そりゃ、そうだろう。操作のできない水球なんてカウントに含まないよ。エルナ母さんの指示通り、それもまた水球の群れに加える。

ふっ、三十個程度の水球を同時に動かすことなど容易い。こちとら伊達にカグラまで船旅をしていたのではないのだ。

暇さえあれば、アリューシャを煽るようにして水球を操作したものだ。

「……じゃあ全部大きさを変えてちょうだい」

「えっ!? ぜ、全部!?」

「そう、全部よ。同じ大きさは認めないわ」

俺が驚きの声を上げるが、エルナ母さんはさも当たり前のように言い放つ。

なるほど、水球を浮かばして操作することはできるが、全部大きさを変えたものを操作は試したことがなかったな。

俺は空中に浮かしている水球、全てを引き寄せて徐々に大きさを変える。

簡単に言えば、三十段階の大きさにするのだ。

ほどなくして俺の目の前には、成長する過程を描いたかのような水球がずらりと並んだ。

その状態でゆっくりと水球を動かしていく。

やはり三十個の水球のすべての大きさを変えるとなると神経を使うな。

今までと違って、少しでも大きく動かしてしまうと水球の大きさがぶれてしまいそうだ。

「何とか浮かせられるけどスムーズに動かすのは少し難しいね」

「……そう、なら少しの間やっておいてね。それができたらそれぞれの大きさを不規則にするのよ」

エルナ母さんは小さく息を吐くと、そう指示してエリックとルーナさんの方へ向かう。

あれ? なんかエルナ母さんがホッとしているように見えたのは気のせいだろうか?

まあ、いいや。今はこの魔法制御を楽しもう。