軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法稽古

「さて、そろそろ魔法の稽古を始めましょうか」

おにぎりを食べ終わり、シートの上で横になっているとエルナ母さんがゆっくりと立ち上がる。

「えー、もう始めるの?」

「もうじゃないわよ。午前中の疲労を考えて多めに休憩時間をとったのだから」

俺が駄々を捏ねるもエルナ母さんの意思は固いらしい。

「エリノラ、ルーナさんも戻っていらっしゃい」

「はーい」

砂浜で剣を打ち合っているエリノラ姉さんとルーナさんも、エルナ母さんに呼ばれて打ち合い稽古を中断して戻ってくる。

シルフォード家で借りたのか見知らぬ本を読んでいるシルヴィオ兄さんも読書を中断し、近くに座っていたエリックも立ち上がった。

どうやら本当に始まってしまうことを察した俺は、休憩時間が終わってしまったことを残念に思いながら立ち上がる。

子供達がきちんと整列して並ぶとエルナ母さんは「コホン」と喉の調子を整える。

「それじゃあ、お昼になったことだから予定通り魔法の稽古を始めるわ」

「「よろしくお願いします」」

いつもよりもちょっと厳かな声を上げるエルナ母さんであるが、靴すら履かずに日陰で集合しているところを見ると、如何にもエルナ母さんらしいと思ってしまう。

そうだよね。色々と説明をするだけだったら別に日陰で集合してもいいよね。

さすがはエルナ母さん、その欲望と合理性を追求する姿は立派な魔法使いそのものだね。

「アルとエリノラ、シルヴィオの大まかな実力は把握しているけれど、ルーナさんとエリック君の実力はわからないわ。まずは二人の実力を見たいから、身体の魔力を循環させてくれる?」

「「わかりました」」

まずは二人がどれだけスムーズに魔力を循環させるかを見て、どれだけ魔力制御に長けているのか判断するのだろう。

エルナ母さんの言葉にルーナさんとエリックは頷くと瞳を閉じる。

視界の情報をシャットアウトして精神の集中を図っているのだろうが、それはあまり現実的な方法とは言えない。

別に俺のように戦闘に使うつもりもサラサラないのであればいいが、常識的に考えて人間や魔物を前にして目を閉じて精神統一など不可能だからな。

何てことを思っていると、二人の胸の中心部から魔力が徐々に流れて血管を伝うように流れていく。

ルーナさんの方はスムーズな方だが、エリックは酷いな。無駄に魔力もあふれ出しているし、全然魔力も循環していない。

これだけで二人の魔法による実力がどれほどのものかわかるな。

「もう大丈夫よ。魔力の循環を止めていいわ」

エルナ母さんがそう言うと、ルーナさんとエリックは息を大きく吐いて魔力の循環を元に戻す。

ルーナさんは特に平常といったところだが、エリックは慣れていないし、無駄もあるために少し疲弊しているように感じられる。

「……そうね。本来ならアドバイスをして一日中、魔力の循環をしてほしいのだけれど、それだけじゃあ勿体ないしね」

「一日中っ……」

エルナ母さんの呟きを聞いて、エリックが信じられないとばかりに目を剥く。

一日だけだなんて温い方だよ。普通なら一年を通してやっておくべきだ。

俺の場合は、赤ん坊の頃から意識があったお陰でやっていた、というより、暇な時間は魔力をぐるぐる循環させて遊ぶくらいしかやることがなかったんだけどね。

「一先ず二人には魔力制御のコツを軽く教えるわ。それが終わったら魔法の使い方の稽古とかに入るから。アルとエリノラとシルヴィオは先に個別に用意した稽古をやってちょうだい」

そんな訳でエルナ母さんの指示する稽古内容を聞くと実習グループと魔力制御グループに別れる。

俺としてはエリノラ姉さんも制御グループに混ざった方がいいと思うのだが、道中で練習させたことを実践させてやりたいのだろうな。

「じゃあ、アル。お願いできるかな」

「へーい」

シルヴィオ兄さんに頼まれて、俺は土魔法を発動。

十メートルほど先にある砂を隆起させて、四角い的を一つ作り出す。

その中心部には凹みを利用することで見事な円が描き出された。

うん、綺麗な円ができたな。

綺麗な的を見て俺は一人ごちる。

そう、俺達がやるのは簡単な魔法の命中稽古だ。

「あれ? アルと姉さんの的は?」

「今から作るよ」

この程度の距離であるならば目の前のゴミ箱にゴミを入れるよりも簡単だ。

で、あることはエルナ母さんにもバレているので、俺には試練が与えられている。

三十メートル先にある小さな的の真ん中に五十回連続で当てろとのことだ。

そんな訳で人の三十メートル先に指定されたサイズの的を追加で作る。

大きさにして人の頭ほどだろうか。三十メートルも離れていると小さな物体にしか見えないな。

それと追加でエリノラ姉さんの的は海中の土を使って作る。

「ちょっとどうしてあたしの的だけ海なのよ?」

「エリノラ姉さんはコントロールも効かないし外すからに決まってるじゃん」

砂浜で火球が着弾する度に砂が舞い上がるなんて迷惑だ。

その点、海であればいくら火球を打ち込んでも問題ない。精々遠くで海水が飛沫となるだけ。エリノラ姉さんを隔離することは当然だ。

「まあまあ、火魔法は危ないから。ね?」

シルヴィオ兄さんもエリノラ姉さんの危なさを理解しているのか必死に宥めにかかる。

「……わかったわよ」

するとエリノラ姉さんは複雑そうな顔をしながら波打ち際へと歩いていった。

「それにしてもアルの的は遠いね。 母さんは連続で五十回当てろって無茶を言っていたけど大丈夫なの?」

「これくらいだったら問題ないよ」

俺の集中力的なことを試されているのか知らないがこの程度なら問題ない。自主稽古の時は、もっと小さな的に二百や三百で効かないほど連続で当てていたし。

しかし、馬鹿正直にそれ言ってハードルを上げてもらう必要もないか。

多分、エルナ母さんの中でも様子見だと思うし、とりあえず結果を示せばいいだけだ。

俺は水魔法を発動し、海から海水を持ってくる。

波打ち際では突然湧き上がった海水に驚いたのかエリノラ姉さんが「わわっ」と声を上げていた。ちょっと面白い。

持ってきた海水を的にある円と同じ大きさの水球にすると、俺はそれをポーンと押すように飛ばした。

俺の飛ばした水球はスルスルと飛んでいき、三十メートル先にある的へと着弾。

的は真ん中の円だけが濡れていた。時間が経過すると下へと滴り落ちたけど。

「……綺麗に当たったけど何か稽古としては違う気がする」

「え? でもちゃんと魔法を飛ばして当たったじゃん」

「まあ、そうだけどね」

水球だって立派な水魔法だからいいじゃないか。

イリヤだってソードファングと戦う時に使っていたし。

「じゃあ、次は僕もやろうかな。アルと違ってこの距離で十回当てるだけだけど」

シルヴィオ兄さんの課題は的に連続で十回当てること。特に俺みたいに真ん中だけと指定されているわけでもない。的にさえ当たれば大丈夫。

シルヴィオ兄さんがゆっくり呼吸をしながら前方にある的を見据える。

そして右腕を突き出し、シルヴィオ兄さんが詠唱をする。

「『我は求める 大気より集いし 鋭き風の刃を』」

シルヴィオ兄さんが詠唱の言葉を紡ぐと腕の前へと空気が収束し、勢いよく発射された。

シュルルルと空気を切り裂いて飛んでいくと的に当たり、カキイイインという音を立てて弾かれた。

「あっ」

シルヴィオ兄さんの口から漏れる呆気にとられたような声。

すぐに壊れる的を作ったら何回も作り直すことになって面倒だと思って、硬めにしておいたのだがちょっとやり過ぎたようだ。

シルヴィオ兄さんの前方にある的は、風の刃を受けたにも関わらず掠り傷一つついていない。

「ごめん、ちょっと的を硬くし過ぎたかも」

「あっ、うん。いいよ、当たったことはわかるから……」

俺は、傷痕がつくようなちょうどいい硬さの的を作り直した。