軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目くそ鼻くそを笑う

俺は土魔法によって、さっくりと草抜きを終わらせると土魔法で即席の椅子とパラソルを作って畑の端っこで腰かける。

「そういやアスモの方もまだ仕事が終わってないの?」

「ああ、あいつなら俺と似たような状況に陥っているぜ。あいつってば基本的に人伝にしか休むことを言わねえからな。ドロテアの母ちゃんにいい加減怒られて罰の最中だ」

俺の言葉に、トールが鍬を振るいながら答える。

真っ向から休むトールもあれだが、人伝にしか休むことを言わないアスモも曲がった性根をしているよな。

でも、その嫌な事から回避しようとする姿勢は嫌いではない。

「じゃあ、次はアスモの様子でも見てくるかなー」

「あーん? 俺を見捨てるのかよ? あいつを冷やかしに行くくらいなら手伝ってくれよな」

「さすがに鍬を振るうなんて力仕事は無理だし、疲れるから嫌だ」

畑仕事などまったくしたことがない七歳児が鍬を満足に触れるはずもないだろう。

雑草取りと違ってかなりのしんどそうなのでやりたくない。それをやるくらいなら、ここでボーっとしてトールがなじっている方が楽しい。

「だったら、さっきの魔法みたいにパパってやってくれよー。雪合戦の時みたいに鍬とか操れないのか?」

雪合戦の時みたいに?

……ああ、サイキックのことか。サイキックで鍬を振ってやれば、それはできなくもないかもしれないな。

俺は魔法的な興味から、トールの持っている鍬に魔力を浸透させてみる。

「うわっ!? 鍬が浮いたぞ!?」

俺の魔力の支配下におかれた鍬が、俺の意思に反応するかのように宙に浮く。

俺はトールの耕していた畝を確認し、鍬をサイキックで振りかぶって、地面に叩きつけた。

「……こんな感じか?」

「うおおおっ! できるじゃねえか!? だけど、それじゃ地面を叩いてるだけだな。ちょっと待ってろ!」

俺の魔法に興奮したトールが家へと戻り、新しい鍬を持ってくる。

俺に手本を見せるということだろうか? トールが手招きしてくるので、俺は仕方なく椅子から立ち上がって畝へと移動する。

すると、トールが鍬を振るって耕し方を説明する。

「……もっとこう土をかき回すようにやるんだよ。こう一方からだけじゃなく満遍なくな!」

「……なるほど」

手際よく耕すトールの鍬の動きをしっかりと観察する。

そしてそれを再現するようにサイキックで鍬を振るう。

「鍬はそんなに振り上げなくていいぞ?」

「魔法で動かしているから、こうやって勢いをつけないと深く耕せないんだ」

「なるほどな。実際に人間が使うのとはちょっと感覚が違うんだな」

まあ、そこは慣れたら大丈夫だよ。

「こんな感じ?」

「そうそう、後は空気を入れるように混ぜるんだ」

「こう?」

「そうそう」

俺はトールの鍬の動かし方を真似て魔法で畑を耕していく。

トールから耕し方のお墨付きを貰ったら、後はそれを反復するだけだ。

実際に身体を動かして使う人間には、これが辛いかもしれないが、単純な反復作業は魔法の得意分野だ。

俺はサイキックを使い、無心で鍬を振るっていく。

鍬が一人で動いて土を耕す姿は少しシュールだ。

「お、おおおおおおっ! すげえ勢いで畑が耕されていくぞ! 鍬が勝手に動いて土が耕される! まるで夢を見ているようだぜっ!」

お前の夢は冒険者になって、エリノラ姉さんに認められることじゃなかったのかよ。

まあ、毎日鍬を振るっていれば誰しも思う事か……。

俺だって歩くのが面倒で、地面が勝手に移動しないかなとか常々思っているし。

そんなことを思いながら魔法で耕すことしばらく。ただの土だったものが綺麗な畝になっていた。

それを監督役のトールが畝の最終チェックをする。

「よし、これなら問題ないな!」

「……何故か俺が働いてトールが簡単な確認作業だけになっているのが納得いかない」

これじゃあ、まるで搾取される部下と部下の手柄を取る上司のような関係だ。

俺が神妙な顔つきで考えていると、トールが肩を組んでくる。

「まあまあ、気にすんなよ! 仕事が早く終わったんだし、これで遊べるだろ?」

「次はアスモが残っているけどね」

まだ待ち合わせ場所であるトールの家に来ていないのだ。きっとアスモも働いているのだろう。

「はは! そうだな! あいつが汗水垂らして働いている様子を見物して冷やかしてやろうぜ!」

「そうだな」

俺もまったく同じ気分でトールを見ていたけどね。

トールの畑から少し離れた場所にある畑地帯。

そこでは多くの村人が今日も畑を耕し、時に苗植えや収穫をしている。

そんな畑の一画では、汗水垂らして鍬を振るうアスモの姿があった。

「おぉ、おぉ、アスモが働いてるなぁ!」

アスモの姿を見たトールが、輩みたいな声を出して笑い声を上げる。

こいつは顔がヤンキーみたいなので、すごくチンピラ言葉が似合うな。

「……それにしても、こっちも畝作りなんだね」

「まあ、単純に一人でやると辛いからな。罰にはもってこいなんだよ」

「なるほど」

広大な敷地を一人で延々と耕すのは中々にツラいものだろうな。さっき戯れに鍬を振るってみたけど、かなり力とか必要だったし。

俺がそんな事を考えていると、トールが笑いながらアスモの方へと近付いていく。

「よお! アスモ! そっちはまだ終わらねえのか!?」

「おいおい、何でそっちの方が早く終わってるんだよ? 今朝ミュラさんが、トールの方が仕事量が多いから終わるのは時間がかかるって言ってたのに」

「おい何だよそれ? 俺だって今朝ドロテアさんから同じようなことを聞いたぞ? アスモの仕事量が多いから終わるのは時間がかかるかもって……」

お互いに見つめ合ったまま固まる二人。

今朝の二人はお互いに相手の方が仕事量が多いとわかってほくそ笑み、自分の方が仕事量は少ないのだと優越感に浸っていただろう。

辛い畑仕事だが、自分よりももっとキツい目にあっている奴が身近にいる。

そう思わせることによって、二人のモチベーションを保たせていたんだろうな。

「……ブフフ、つまり二人はミュラさんとドロテアさんにいいように転がされたんだね」

俺が笑いながらそう言うと、トールとアスモも理解したのか「なあっ!?」と驚愕の声を上げる。

「ちっくしょー! 汚ねえな! あいつら!」

「グルになって俺達の心を弄ぶとは卑怯な……っ!」

「多分、トールとアスモの心が汚いからこそ通用した技だよ」

「「うっせ!」」

真実を言ってあげただけなのに叩かれた。

その目クソが鼻クソを笑う汚い精神がなければ、通用しない小技だというのに。

今はそれぞれの母親にしてやられた二人だ。虫の居所が悪いのだろう。

もはやこれ以上は何も言うまい。

「ちくしょう、今度機会があれば仕返ししてやる。ロイヤルフィードの茶葉が減ってもわからない程度に盗ってやろうか………」

「料理の取り分けの時に母ちゃんの分だけ微妙に少なくしてやる」

……本当にやることが小さいなお前ら。

「で、もうトールの方は終わったの?」

「おうよ!」

アスモの問いかけに、トールが自分の成果だと言わんばかりに胸を張る。

「……アルが貴族特権を使って作業を中止にさせたとか、ミュラさんが気を遣ったとかじゃないの?」

「そんなことしないよ」

「俺の母ちゃんが、そんな優しい配慮をしてくれるかよ」

まあ、俺が来てもトールの作業を切り上げるようなことは言わなかったしな。けど、きちんと俺を家で休憩させようと配慮はしてくれたぞ?

「それもそうだけど、トールの方が早く終わるとは納得できないな……」

アスモの方が力もあるし、早く終わらせることができると思っていたのだろうな。ちょっと納得がいってなさそうだ。

「はっはーん、アスモより俺の方が仕事をやるのが早いんだよ!」

「……ぐぬぬ! どうせアルに手伝ってもらっただけじゃ……いや、アルは面倒臭がりだし畑仕事なんてしんどいものは手伝わないか。精々暇つぶし程度に草むしりをするくらいだろう」

まったくもって俺の事を理解している親友だ。まるで俺達の様子を傍で見ていたかの様だな。

だが、魔法という存在を考慮するのを忘れている。

今回は魔法で畑仕事をやってみるということに好奇心が疼いたので、つい手伝ってしまったのだ。

「そうだぜ! 俺はこのくらいの広さの畑をアスモよりも早くに耕し終わったぜ?」

「……おかしい。体力も力も根性もないトールが俺より早いなんて……何かが狂っている」

この二人、母親たちが策を弄すまでもなく勝手に争っているな。

そりゃ、簡単に利用されて転がされるわ。

「へへ、言ってろ! 俺はアルと一緒にアスモが汗水垂らして働く姿を見ていてやるよ!」

「どうせ暇なんだし、手伝えよ!」

「ほら、行くぞアル。さっきみたいに椅子作ってくれよ」

アスモが叫ぶのをしり目に、トールは俺を連れて端っこへと移動する。

俺もどうせ見物するなら座っている方がいいので、トールの分と合わせて土魔法を発動して椅子とパラソルを設置する。

ついでに小さな土テーブルを作り、小さなコップを作る。

そこに氷魔法で作った氷と、水魔法による新鮮な水を入れてやる。

「はい、水」

「お、おう。ありがとな」

トールにコップを手渡した俺は、自分のコップを煽って水を飲む。

今日は天気が良くて温かいから冷たい水が美味しいな。

パラソルで日差しを遮っているとは、やはり夏の気温は暑いな。氷魔法による冷気で辺りの空気を適温にしておこう。

「……なあ、アル。俺の姉ちゃんをやるから家族になれよ」

「驚くくらい下心しかないな。それとエマお姉様に捧げているのは敬愛であって、恋とかじゃないから」

「またよくわかんねぇ事を。はぁ……一家に一人アルが欲しいぜ」

「まあ、気が利くという誉め言葉として受け取っておくよ」

男に欲しいなどと言われても心など動くはずがない。

俺とトールは必死に鍬を振るうアスモの姿を眺めながら、適温の空気の中で優雅に冷水を飲む。

コップの中でカランと音を立てる氷の音が、俺達の気分を涼やかにしてくれるな。

「はぁ……働かねえって最高だなアル」

「でしょ? トールも俺の気持ちがわかるようになったか」

そう言って俺とトールは笑い合う。

こうして二人で涼むことで友情が深まったような気がした。

「……おい、うちの畑の敷地でなに涼んでるんだよ」

一方、そんな俺達が気にくわないのが必死に労働をしているアスモだ。

「仕事の邪魔にならねえ場所に作ってあるだろ? それよりちゃんと鍬を振れ! 腰が入ってねえぞ? アスモが終わらねえと皆で遊べねえだろ?」

「ぐぬぬぬ……トールの癖に生意気な……」

トールの言葉を聞いて悔しそうな表情で鍬を構え直すアスモ。

それから、さっきよりも鍬を大きく振り上げて勢いよく振り下ろした。

ザシュッと土を抉る小気味の良い音が鳴り響く。

苛立った心を土にぶつけているのだろうな。彼の脳内ではトールが鍬で滅多内にされていることだろう。

「アル、水のお代わりをくれよー」

「ほーい」

トールが空のコップを差し出してきたので、俺が水魔法でお代わりを入れてやる。

魔法はやはり素晴らしいな。

通常時であれば水を汲みに井戸に向かったり、貯めてある台所に行かなければならないが、魔法が使える俺は一歩も動かずに済む。

快適なスローライフをおくるために必要なのは、やはり魔法だな。

俺がそのような事を思っていると、視界の先ではトールを訝しんだ目で見ているアスモが……。

「……なあ、もしかしてトールってば、アルの魔法で畑仕事を手伝ってもらったんじゃないか?」

「そ、そんなことねえし――」

「当たりだよ」

狼狽しながらも否定しようとするトールに、俺が被せる。

「はあっ!? ちょっ、手前ぇ! 何言わなくていいこと言ってんだよ!?」

別に俺はトールだけに味方しているわけじゃないしね。面白い状況になりそうだと思ったら、いくらでも真実を言うよ。

俺の解答とトールの焦りようから察したアスモがニヤリと笑う。

「それはミュラさんも知っている?」

「ちょっ、お前っ!」

トールが慌てて俺の口を塞ごうと身を乗り出すので、トールの座っている椅子を崩してやる。

すると、トールは後ろから見事にひっくり返った。

「知らないよ」

俺の言葉を聞いたアスモが表情を歪める。

それから転がったトールに近付き、

「トール、ミュラさんにバラされたくなかったら耕してよ」

「あ、アル。俺の時みたいに魔法でパパって耕して――」

本人がやる必要のある罰ゲームなのだ。それを貴族である俺にやらせて楽をしたと知られればミュラさんから怒られることは確定だろうな。

アスモの脅迫に顔を真っ青にしたトールが、おずおずとこちらを振り返り。

「あー、椅子を作ったり水を出したりして、今日はもう魔力が足りないやー」

「嘘つけ! 雪合戦の時はもっと派手に魔法を使っていただろうが!」

「いやー、無理だよー。もう力出ないわー。俺ってばさっきトールにこき使われたしー」

「こんちきしょう、雑草取りくらいで根に持ちやがって……っ!」

いやいや、別に雑草抜きをやらされたから根に持っているわけじゃないからね? なんだかんだと畑仕事を手伝わされたことを不満になんて思ってもいないからね?

「ほら、トールやるの? やらないの? まあ、やらなくてそこで見ているだけでもいいんだけどね? 後でどうなっても知らないけど」

そう言ってアスモが差し出した鍬を、

「……やらせて頂きます」

トールが丁寧に担ぎあげた。

結局俺達は、その日何をするでもなくこんな風にじゃれ合うだけで一日を終えたのであった。

だけど、こんな風に過ごすのもたまには悪くもない。