軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

汚れた水のような心

「にしても、すげえな。この水球。これさえあれば川までいかなくても済むじゃねえか」

「水球の中で水流が緩やかに流れているのもいいね。本当に川みたいで冷たくて気持ちいい」

水球を纏ったトールとアスモが、川の傍を歩きながら会話する。

胸元から太ももの辺りまで水球に覆われているせいか、シルエットが凄いことになっている。

例えるならば、ボールから手足が生えている生き物といったところか。見れば見るほど不思議な生物のように見えてくる。

最初に俺の姿を見たトールとアスモが微妙な表情をしたわけだ。

でも、アスモだけは普段と変わらないようなシルエットに見えるな。体型がぽっちゃりだからだろうか?

「どうしたのアル?」

俺が凝視していたのに気付いたのか、アスモが振り向いてくる。

「……いや、アスモは水球を纏っていても違和感がないなと思って」

「それは俺のお腹が水球みたいに膨らんでいると言いたい訳?」

「ははははは! 違えねぇ!」

怒気を滲ませながら言うアスモの言葉を聞いて、トールが手を叩いて笑う。

そんなトールの態度が気にくわなかったのか、アスモはムッとした表情をする。

それからノシノシとトールに近付き、トールの纏う水球を手でバシャバシャと叩き始めた。

トールを纏っている水球の水が地面を虚しく濡らす。

「ちょっ! お前やめろ! 俺の水球の水が減るだろうが! そっちがその気ならこっちだってやるぞ!」

自分の水球の水が減っている事に気付いたトールは、負けじとアスモの水を減らすためにバシャバシャとアスモの水球を叩き始めた。

ビンタ、チョップと二人の技が炸裂する度に、互いの水球の水が減っていく。

ちょっと、水球を維持しているのは俺だっていう事を忘れていないだろうか?

別にその気になれば叩かれても二人の水球が減らないようにできるが、このような醜い諍いのために労力を割こうとは思えないな。もう存分に争ってくれ。

でも、マスコットキャラのような外見をしているせいだろうか?

トールとアスモの醜い争いがどこか可愛らしく見える。不思議な事もあるもんだな。

俺がどこか微笑ましく眺めていると、水球を叩いていたトールが突然蹴りを繰り出した。

「食らえ!」

「ああっ!? トール、砂をかけたな!?」

「へへへっ! これでお前の水球はお終いだ。砂で濁った汚い水を纏ってるといいぜ!」

「ぺっ」

「うおおおっ!? 信じられねえ! こいつ、俺の水球に唾かけやがった!」

「ははは! 俺の唾液が混じった水球を纏い続けるといいよ」

「マジで汚ねえ! ちょっ、これどうやって外すんだ! アスモの唾液が混じったものを纏い続けるとか嫌だ!」

前言撤回。やっぱりこいつらの争いは醜いな。

水球のお陰で見た目だけは可愛らしくなったが、こいつらの心は汚れた水球のように汚らしいようだ。

トールとアスモが下らない争いをしたせいか、水球の水が汚くなってしまった。

砂入りと唾入り。そんなものが混じった状態では、いくらなんでも水球を纏いたいとは思わないだろう。

案の定、トールとアスモは取り換えを要求してきた。

「次にまた汚したら水球は作らないからね?」

「「へーい」」

本当にわかっているのだろうか? 二人のふてぶてしい態度を見ると、またやらかしそうな気がする。

「本当にわかってるの? 水球がなかったら、また地獄のような暑さの中、汗だくになりながら道を歩かないといけないんだよ?」

「「すいませんでした! もうしません!」」

ここに来るまでの辛さを思い出したのか、トールとアスモがハッと我に返って直立不動で返事をする。

これならいいだろうと頷いた俺は再び二人に水球を纏わせる。

「はい、じゃあ次はスライムがいる場所を案内してね」

「わかったぜ。といっても、後はこの川近くを歩くだけだけどな」

「ここら辺のスライムは川近くにいることが多いから」

そう言って、歩き始める二人に付いて行く俺。

ここら辺の個体は川の近くに生息しているようだ。やはり餌の多い場所を中心に活動しているのだろうか? 川には様々な生き物が集まって来るし。

でも、スライムは何でも食べる雑食だから一概にそうとは言い切れないよな。川や山や平原に生息する生き物はそれぞれ違うし、スライムにも食の嗜好があるのかもしれないな。

なんてことを考えながら、俺はスライムを探す。

そうやって俺達は歩きながらスライムを探すのだが、中々に見つからない。

トールやアスモの口ぶりでは、十分も歩けば見つかるような感じだったのだが、どうなっているのだろうか?

もしかして、仕事を長くサボりたい一心で時間を稼いでいるのか?

「……ねえ、トール。スライムなんかいないよ?」

「あれ? なんでいねえんだ? ここら辺を歩けば、一匹や二匹は簡単に見つかるはずなんだけど」

「いつもはいるのにおかしい」

しかし、トールとアスモの様子を見る限り、そんな事を考えている様子はない。普通にスライムを探していたようだ。

案内したはいいが全くスライムがおらずに、少し焦っている感じ。

「いつもはいる場所にいないんだ。どうしたんだろうね?」

「おかしいなぁ?」

俺が語りかける間にもトールとアスモはスライムを探してくれる。

アスモは死角となっている茂みなどを確認しているが、そこにもスライムはいないよう。

二人はしきりに首を傾げている。

そうやってしばらく探すも、スライムは一匹たりとも見つからない。

「面倒臭えけど反対側の森に戻るか。あそこならいるだろう」

「そうだね。ここでは見つからないようだし」

俺達のいる川から反対側だな。トールとアスモがいなければ俺は迷わずに転移を使うだろう。

俺がそんな事を思っていると、トールが頭をガリガリと掻きながら、少し申し訳なさそうに言ってくる。

「アル、悪いけど戻っていいか?」

「ここから反対側の森に行くよ」

「う、うん。いいけど……」

「うん? いいけど何だ? 時間がヤバいのか?」

「トールとアスモがそんな風に他人を伺って聞いてくると何か気持ち悪い」

「「しばくぞ!」」

トールとアスモが下手に出てくる時は大概ロクでもない事を考えている時だからな。そう思ってしまうのも仕方がないだろう。

トールとアスモは怒鳴るなり、背をくるりと向けて村へと向かう道を歩き出す。

それはもう「付いてこい」という事だろう。

察した俺はちょっと笑いながらトールとアスモについて行く。

水球を纏った俺達はスライムを探すために、川からコリアット村を経由して反対側の森を目指す。

勿論、村を歩く途中でスライムを探すことは怠らない。もしかしたら、畑の溝や平原にスライムがいるかもしれないからな。

俺達は視線をくまなく動かしながら道を歩いていく。

午後になって日差しは強くなっているが、水球を纏っているお陰で凄く涼しい。最初に川を目指す時とは大違いだ。

その有難みをトールとアスモも感じているのか、感心するように呟く。

「改めてこの水球の凄さがわかるな。クソ暑い中、道を歩いていても涼しいぜ」

「ずっと川の中にいるみたい」

まさにアスモの言う通りだ。俺達は炎天下の中を歩いているが、気分は川の中にいるようだ。日光が熱くはあるが、そこらへんは頭に水をかければ十分に防御できる。

完璧に防御したい場合は何か布を巻いたり、帽子を被ったりすればいいだろう。

「あっ、アルフリート様と子供達だ――けど、あの格好は何だろう?」

畑で仕事をしている村人が俺達に気付いたようだ。

何か珍妙な生き物を見たかのような顔をしている。

「うん? あの三人がどうかしたのか?」

「いや、何か丸い水が付いているんだけど……」

「……本当だな。何か丸い水がついてるな。どうなってるんだ?」

この魔法の仕組みがよくわからないのか首を傾げている村人達。

ただ水球を浮かべてコントロールしているだけなんだけどね。

奇異の視線を向けられながらも、俺達はコリアット村を歩いていく。

しかし、トールとアスモが急に道を逸れて、草道に進み出した。

「あれ? どこ行くの? 反対側の森に行くならこの道でしょ?」

俺が不思議に思って問いかけると、トールとアスモがこちらを見ながら、

「そっちの道を通ると俺とアスモの母ちゃんがいるかもしれねえだろ?」

「見つかると何を言われるかわからないから迂回するんだ」

あー、確かにこの道を真っ直ぐに通ればトール家とアスモ家の畑があるからな。

ミュラさんとドロテアさんが、ずっと畑仕事をしているかはわからないが出会う確率は高いな。

無理矢理のように抜けてきたトールと、ドロテアさん本人に伝えずに人伝連絡で抜けてきたアスモ。

どちらも後ろ暗い事をしているからな。連れ戻されたりはしないが、出会えば面倒な事になるだろう。

「わかった。じゃあ、迂回しよう」

そういう事情はとても共感できるので、俺は素直に頷く。

俺もよくエリノラ姉さんを避けようとするからなぁ。でも、いつも謎の感知能力で捕まえられる事が多いんだけどね。