軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

川が付いてきた?

「……水の掛け合いで魔法を使うのは卑怯だろ」

「ここにある水全てが使い放題とか勝てるわけがないよ。俺達はちっぽけな手の平で水をすくう事が精一杯なのに……」

俺に一発で負けたことが気にくわないのだろう。トールとアスモが川の岸部分にある石に座りながらブツブツ呟いている。

逆にあそこで魔法を使わないと何をされるかわかってものではないからな。あそこで魔法を使った俺の判断は間違っていないだろう。

「終わった事をブツブツ言わないの。氷魔法を使って身動きを取れなくしてから、水をかけまくるとか、他にも方法はあったけど一番優しいものを使ったんだよ?」

「お、お前はなんて恐ろしい事を考えてんだ!? 人のやることじゃねえぞ!?」

「……ボーっとしてる顔の癖に、アルって考えることがえげつないよね。鬼畜だよ」

俺の優しさを説いたつもりが、鬼畜認定されてしまった。

まあいい。今はとにかく俺への文句でも吐きたい気分なのだろう。

俺はトールとアスモに構うのを止めて、存分に川で涼むとする。

トール達とは反対側に歩き出した俺は、木陰になっており座りやすそうな石を見つける。

定位置を定めた俺は、すっかりと重くなってしまったシャツを近くの木の枝にかけた。

いくら夏でも水を吸ったままのシャツを着ていれば、風邪を引いてしまうかもしれないし、重くて動きづらいからな。

そのままズボンも脱いでしまいたい気持ちになるが、そこは我慢して穿いておく。

ズボンの水っ気を絞った俺は、木々の木陰になっている石に座り込む。それからゆっくりと両足を水に入れた。

冷たい水が俺の足を包み込んで気持ちがいい。川の水はとても透き通っており綺麗だ。

水の中に突っ込んだ俺の足がしっかりと見えるほど。緩やかな川の流れが、俺の足に当たる度にマッサージでもされているような気分だ。

俺が魔法を使ったせいか魚はいないが、辺りからは時折カエルや鳥の声が聞こえ、川の流れる音は聞いているだけで涼やかな気分になれる。

まさにここは自然的に作り出された避暑地だ。

あー、こうしてゆっくりと川で涼をとれることのなんて幸せな事か。

「寒くなってきたな。俺達も上着は脱いでおこうぜ」

「そうだね」

ただ、惜しむらくは目の前にある肌色成分がトールとアスモという事か。

目の前で涼んでいるのがシーラやエマお姉様であれば、俺の心はさらなる潤いを得ていたというのに。

俺は目の前にある汚らしい現実から目を背けるように瞳を閉じた。

「さて、そろそろスライムを捕まえに行こうか」

川ですっかりと涼んで身体を冷ました俺は、本来の目的に移るべく言った。

すると、川に浸かっていたトールとアスモが振り返り、

「んだよ、もうちょっとここにいてもいいじゃねえか」

「日陰から出たら暑いんだよ? 暗くなるまでここにいよう」

まだまだここでだらっとしていたいのか、トールとアスモがそのような甘い誘惑をしてくる。

それは非常に魅力的な言葉であり、俺もそうしていたいのだが今日はスライムを捕まえるという使命があるので行動に移らなければならない。

俺は自分の意思を硬く持って首を横に振る。

「ダメだよ」

「だらだらしようって言っているのに、アルがそれを拒否するなんて……」

「本当にアルなのか?」

俺の言葉がよっぽど意外だったのか、トールとアスモが心底驚いたような顔をする。

「本当は俺もそうしていたいけど今日はスライムを捕まえないといけないからね。そろそろ探さないと時間がなくなるよ」

「そう言いつつ、お前も動いていねえけどな。俺達と同じで肩まで水に浸かっているじゃねえか」

「…………」

まさにトールの言う通りだ。

口ではスライムを探しに行こうなどと言ってはいたが、俺の身体は一ミリも動いていなかった。

「アルの身体はここにいたいと言っている」

アスモの言う通り、本音ではまだまだここに残っていたいのだろう。

しかし、俺にはスライムを手に入れるという使命がある。今日の夜はヒンヤリとしたスライム枕で気持ちよく眠ると決めているのだ。これを曲げるわけにはいけない。

トールとアスモは俺が川から出ない限り、ずっとここに居座るつもりだろう。ここは言い出しっぺの俺が真っ先に立ち上がらなければいけない。

俺は本能に逆らって水面から身体を持ち上げる。

「うおおおおおおおおっ!」

「アル! まさかこの楽園を捨てて陸地に戻るというのか……っ!?」

「やめるんだアル! 外の世界は危険だよ! 今の俺達はここでしか生きられないんだ!」

トールとアスモが静止の声をかけてくる。

「人間は水がないと生きられねえんだぞ!?」

「心地よい場所にいることは何も悪くないよ! アルはこの涼しい場所にいるべきだ!」

ダメだ。トールとアスモの甘い言葉に耳を貸してはいけない。

それを真に受けて妥協をしてしまったら、今日の俺はこの川から出ることができなくなる。

シルヴィオ兄さんにあれほど力説したのだ。また今度なんて言えない。

アルフリートよ、ここが踏ん張りどころだ。

……ああ、もういっそのこと川が付いてきてくれればいいのに。

ダメだダメだ。その怠惰な考えは俺を永遠に川に釘付けにしてしまう。

「うおおおおおおおおっ! 俺はスライム枕でぐっすり眠るんだ!」

俺は自らの使命を敢えて口にして吠える事で邪念を振り払い――そして、俺は魅惑の川から身体を抜け出す事に成功した。

「「…………」」

川から身体を持ち上げた俺は陸に上がるなり、さっと水気を払って靴を履く。

それから近くの枝にかけた半渇きのシャツを取ると、トールとアスモに言う。

「ほら、スライムを取りに行くよ」

決まったな。これで言い出しっぺとしての体裁も取れた。

後はトールとアスモが上がってくるなり、スライムを探しに向かうだけだ。

「……おい、ちょっと待て。何だそれは?」

俺が陸で待っていると、トールが怪訝な表情をしながらこちらを指さしてくる。

「なに? 何かおかしいところがある?」

「惚けんな! その身体に纏わりついている水球はなんだよ!」

トールにお腹部分を指さされて、俺は改めて自分の身体に視線を向ける。

そこには水球が俺の身体を包み込むように存在していた。

綺麗な円を保った水球は緩やかに流れており、中にある俺の身体は水中のように涼しい。

「おお! いっそのこと川が付いてきてくれればいいとは思ったけど、まさか川が本当に付いてくるとは……っ!」

「いやいや、魔法だろ。それ料理で手を洗う時にも使っていたし」

「怠惰すぎる余り、無意識のうちに魔法を使っちゃうんだね」

トールとアスモが呆れながら言ってくる。

いやー、俺としては本当に魔法を使うつもりなんてなかったんだけどな。

これが魔法としての極致なのか、それとも自分の本能を抑えることができずに発動をしてしまったのかは正直なところよくわからないな。でも、これは便利だな。

水球の大きさは胸元から太ももの辺りか。

自分の身体に纏わりつく水球を見ながら、俺は手を動かしてみたり普通に歩いてみる。

身体の胴体部分にくっ付いているだけなので特に動くのに支障はないな。

普通に下を向くことだってできるし、水球の維持と同じなので邪魔になったらすぐに外すこともできる。

さすがに上半身が裸では変態っぽいので、一度水球を外し、空中に浮遊させてから服を着る。それから水球を手繰り寄せて再び身体に纏わりつかせた。

うん、これで問題ないな。

大きな水球があるせいか、ぱっと見マスコットキャラみたいな見た目になっているが居心地が良かったら気にしないや。

俺の確認作業が終わったところで、トールとアスモがおずおずと尋ねてくる。

「アル、それは気持ちいいのか?」

「どんな感じなの?」

「この間、水球に腕を突っ込んだ時の感触が全身で感じられるよ」

こうして水球に包まれたマスコットキャラもどきが追加で二人出来上がった。