軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カイオウ海賊団船長ダグラス?

海鮮バーベキュー、エスポートの観光、空間魔法で収納するための食料の買い込み。などなどと過ごしているうちに三日間はあっという間に過ぎた。

そして四日目の早朝。俺達はカグラへと向かう為に船が停泊している港へと来ていた。

港町エスポートの朝は早い。

早朝になれば漁に出る人達が朝から忙しく動き回り海へと出る。中には暗い内から漁に出ていたのか、出発する漁師達と入れ替わるようにして戻ってくる船もある。

収穫した船の魚は市場へと運び込まれるので、当然市場の方も朝から賑わう。

ここで魚達を仕分けしたり加工したり保存したりするのだろう。

港にいる俺の耳にもしきりに盛んな声が聞こえてくる。

『はい、獲れたてのドスマグロ! 大金貨六枚から!』

『大金貨六枚と金貨五枚!』

『こっちは大金貨七枚だ!』

しきりに値段の声が聞こえるのは、市場で競りをやっているからであろう。

早朝に獲れたばかりの新鮮な魚を狙った料理人達も来ているのだろうな。

そんな市場の喧騒を耳にしながら、俺は前方へと視線を向ける。

目の前には視界一杯に広がる海があり穏やかな波音を立てている。

そんな一面に広がる青々とした海と鮮やかな空色は視界の彼方にまで続いており、空と海の境界である水平線で混じり合っているようにも見える。

コリアット村のような緑の草花と青い空の対比も綺麗だが、海と空が混じり合うかのような光景も悪くはないな。

昇ったばかりの太陽の光に目を細めながらそんな事を思う。

雲一つなく無限に広がるかのような大空には、三匹の海鳥が自由を謳歌するかのように飛び回り鳴き声を上げる。その姿を見て、俺も無魔法のシールドで空を歩こうかと思ったりしたが、今は地上からの景色を楽しもうと思った。

押し寄せる波の音が耳に心地よい。

一定のリズムで奏でられる優しい音の中には不規則な波の音もある。何かにぶつかったり、魚が跳ねたり、潮の流れが変わって波同士がぶつかる音だったりと一つとして同じような音はない。

そんな様々な音が入り混じっているというのに波の音は決してうるさいものでもなく、どこか調和のとれた優しい音だった。

まるで赤子をあやすかのような……。そんな落ち着くような音だ。

海は万物における母。生物の生まれる源といわれる理由も納得できる気がする。

それからの俺は心を無にして海を眺め続ける。

エスポートの空気を身体全身で感じるかのように無心で。

そんな風にボーっと海を眺めてどれくらいの時間が経ったであろうか。

船の方からアーバインがやってきた。

「おーい、アルフリート様! 準備ができたぜー。っておいおい! これから海の旅に出るって時なのになんだよその死んだ目は! 昨日一緒に食べたドスマグロみたいな目をしているぞ!?」

人の目を死んだ魚のような目呼ばわりとは何て失礼な奴なんだ。

そんな心の内も伝わるわけもなく、アーバインは俺の顔を覗き込んで頬を突いてくる。

「失礼な。俺の目はいつもこんなもんだよ」

「あー、そうだな。いつも死んだような目をしているよな」

これが俺の正常な目なんだと言ったつもりなのに、酷く誤解している。

俺の目はエスポートの海のように澄んでいるというのに誤解も甚だしい。

ここは一言言ってやらねばなるまい。

そう思っていたところでアーバインが俺の肩にポンと手を置き。

「しかし、子供がそんな目をするもんじゃないぞ? アルフリート様はまだ子供なんだ。楽しい事はまだ一杯あるって! まずは俺達と船の旅を楽しもう! ほら楽しい未来はこれからだ!」

そう言ってアーバインは立ち上がり、元気よく駆け出して行った。

「おい、こら! 勝手に同情するな! 俺はきちんと人生を楽しんでいるからな?」

「これが俺達が乗る船だぞ!」

「おー、船って近くで見ると結構迫力があるんだねー」

アーバインと共に俺達が乗りこむべき船の所へと向かうと、そこには大きな帆船があった。

それは俺達が見上げるほどに大きなものだった。俺達がいる場所からは階段を使って乗り込まなければならないほどだな。

一応、カグラとエスポートの貿易船という事なので小さな船ではないとは思っていたが、これは予想していたよりもずっと大きいな。マストが三本もあるし。

確か一番大きいのがメインマストで後ろにあるのがミズンマスト。そして前にあるのがフォアマストだったであろうか。前に海洋冒険ものの映画をちらりと見たことがあったので、僅かにだが覚えている。だが、船には細かく名称のついた道具とかがあるので、それ以外はほとんど覚えていない。

「確かドラマや物語では、あのメインマストが嵐で折れちゃったりするんだよなあ」

「おいおい、これから海に出るっていうのに縁起でもねえこと言うなよ」

見上げればそこかしこにロープが架けられており、船員と思われる男達がロープを伝ってマストへとよじ登っていた。

「あの斜めに架かったロープって何ていうんだっけ?」

「あー、今船員達がよじ登っているあれか? あれはマストに登る縄梯子でシュラウドっていうんだ。あっちがマストを支えるロープのステイで、後ろにあるのがバックステイ。マストを支えるロープだな」

「なるほど。ごちゃごちゃしすぎてわからん」

海の旅に出た事のあるアーバインは一応知っているらしく、一つ一つ指をさして説明してくれるがシュラウド以外全く名前が頭に入ってこなかった。

「まあ、俺達は船員でもねえし全部ロープでいいだろ」

「そうだね。俺達は船員じゃないし、使うのはよじ登るロープのシュラウドくらいだよ」

うん、全部ロープ。実にわかりやすいな。

「はっはっは! 今回はお偉い貴族の坊ちゃんが乗るって聞いていたが、随分と貴族らしくないな!」

そんな風にアーバインと帆船を見上げていると、後ろから腹に響くような声が聞こえてきた。

振り向くとそこには、ルンバほどの背丈を持つ巨漢の男が腕を組んで立っていた。

真っ黒な髪の毛をオールバックにし、口回りには濃い髭を生やしている野性味のある男だ。

緑色の海賊コートを羽織っており、その下には襟のついた白いシャツを着崩している。

シャツからむき出された肌は、随分と日に焼けており体つきはとても筋肉質だ。

腰にはナイフがいくつも刺さっており、刺繍の入ったオレンジ色の布が提げられているのが印象的だ。

まあ、この男を一言で言い表すと……。

「……海賊か?」

「よく間違われるが違うな! これでも俺は商人だからな!」

俺の遠慮ない一言を豪快に笑い飛ばす男。ちょっと声が大きい。

「俺の名はダグラス。この帆船『カイオウ』の船長をやっているもんだ!」

「カイオウ海賊団の船長?」

「あーそうとも! 俺たちゃ泣く子も黙るカイオウ海賊団! 命が惜しければ金目の物を置いていけ――って違うわ!」

「結構ノリノリだったけどね」

淀みなく発せられる言葉と声の抑揚。手馴れているとしか思えない。

「まあ、この見た目のせいか酒場でこういうお芝居をして遊んだりしていたからな」

俺が何となくジトッとした視線を向けると、少し気恥ずかしくなったのか頬をポリポリと掻きながら呟く。

船員達も屈強なので酒場に入ったら本当に海賊の集団としか思えないな。

「どうだダグラス? アルフリート様ってば貴族らしくないだろ?」

そんな事を思っていると隣にいたアーバインが、ダグラスへと気軽に話しかけた。

ダグラスと呼び捨てにしているところを見るに知り合いのようだ。

銀の風のメンバーは海の護衛任務を多くこなしているパーティーだからな。エスポートに来たのだって初めてではなかったし、ダグラスの船に乗っていてもおかしくはないな。

アーバインには俺を褒めているのか貶しているのかじっくりと聞きたいところである。

「ああ、そうだな。お高く止まっていないしノリもいい。他の貴族と違って接しやすいな」

ミスフィリト王国の貴族も様々だからね。思い描くようなプライドが高い貴族も多かった。俺やエリックのように男爵くらいの貴族だと可愛いものだが、ブラムを筆頭とする伯爵あたりが面倒くさい。特に伯爵令嬢とか。

逆に公爵くらいまでいくと器が違うのか、随分と落ち着いているようにも思える。

「それにこのふてぶてしい目つき。……こういう目をした奴は滅多に死なないぞ」

腰を下げて俺の瞳をジッとのぞき込むダグラス。

うーん……それは褒めているのか? よくわからん。

とりあえず、向こうは名乗ってくれたのだしこちらからも名乗っておこう。

「アルフリート=スロウレットです。カグラまでの七日間よろしくお願いします」

俺が改めて挨拶をすると、ダグラスとアーバインは顔を合わせて笑った。何がおかしいと言うのかね? 常識じゃないか。

それからダグラスは俺の肩に大きな手を勢いよく乗せて。

「おう! 任せろ!」

肩が外れるかと思った。