軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EX20-6 ネクスト・ジェネレーション! その6

放課後――メルク、シエラ、フェリシア、マリアの四人はいつものように、並んで駄弁りながら校舎を出た。

彼女たちの通う学校は中央区と呼ばれる地域に存在しており、富裕層が通う学校だ。

そのためか、下校時間になると敷地の外には送迎用の魔導車がずらりと並ぶことになる。

そんな送迎車の隙間を縫うように、赤髪の小さな女の子が外から校門へと近づいてきた。

そして少女は今まさに校門を出ようとしていたメルクたちの前に立つと、ビシッと切れのある動きで敬礼をした。

「アンネリーゼ・バッセンハイム、みなさんが出てくるのを首を長くしてお待ちしていたでありますっ!」

メルク、シエラ、フェリシアの視線がマリアの方を向く。

当のマリアは困り顔であった。

「出ましたわね、アンネリーゼ……」

アンネリーゼは初等部に通う十歳の少女で、将軍アンリエットと、その秘書であるオティーリエの子供である。

その特徴的な口調は、幼少期から軍人ばかりに囲まれて育ってきた影響らしい。

初等部は少し離れた場所にあるのだが、最近は下校時間になるとこうしてマリアを待ち受けているのであった。

以前から顔見知りであるメルクは、アンネリーゼの前にしゃがむとその頭をわしゃわしゃと撫でた。

「今日もマリアを待っててくれたんだ。アンは熱心だね」

「マリアお姉さんを口説くためなら、毎日でも通うと決めたであります!」

この生真面目そうな見た目には反して、アンネリーゼは恋愛に積極的であった。

マリアを待ち受けているのも、彼女に一目惚れしたからである。

フェリシアとシエラはマリアの方を見てニヤニヤと笑った。

「だそうだぞ。マリアも応えてやったらどうだ」

「マリアさんは小さい女の子が好みなんですよね」

マリアは大きくため息をつくと、やれやれと言わんばかりに首を大きく横に振った。

「わかっていませんわね。わたくしは片っ端から幼い少女を手籠めにしたいと考えるような見境のない獣ではありませんことよ? 好みの、幼なさが、あるのですッ!」

それは学校の入口で熱弁するにはあまりに危険な言葉であったが、マリアに躊躇はなかった。

何なら彼女は誇りすら持っていたからだ。

「すごいこと熱弁してる……アン、本当にアレが好きなの?」

「甘いでありますよ、メルクお姉さん。他人に何を言われようと自分の意思を曲げないその強さ……そこが素敵なのであります!」

ぐっと親指を立てるアンネリーゼに、メルクは苦笑いする。

フェリシアは腕を組み、呆れ顔でその様子を見ていた。

「アンネリーゼもアンネリーゼでおかしいんだよな」

「変人は惹かれ合うんですね」

「シエラ、わたしを巻き込むな」

フェリシアは変人扱いされるのを嫌がるが、前庭でこれだけ堂々と変人トークを繰り広げておいて、仲間扱いされないはずがなかった。

一方でマリアは、アンネリーゼの熱烈なアプローチを堂々と拒む。

「何百回も言っていますが、わたくしにはツァール様という本命がいるのです」

「ツァールお姉さんは十六歳。十四歳のマリアお姉さんより年上であります。一方で本官は十歳、本物の幼さがあるのであります!」

「そこが浅いと言っているのですわ!」

マリアのボルテージが上がる。

こうなった彼女はもう止められないので、メルクたち三人はそっと距離を置いて遠巻きに見守ることにした。

「いいかしら、幼さとは必ずしも年齢と連動するものではないのです。そう、ネイガスお母様が今でもセーラお母様を溺愛しているように! あの溺愛っぷりは単純に目に毒!」

「では本官には何が足りないのでありますか!」

「それは……」

「それは?」

問われ、考え込むマリア。

アンネリーゼの真っ直ぐな瞳が彼女の逃げ場を塞ぐ。

追い詰められた末に、マリアが出した答えは――

「……穢しがいのある純真無垢さ?」

むき出しの欲望だった。

フェリシアが「遺伝って怖いな」としみじみとつぶやく。

それを聞いたシエラは他人事のように頷き、メルクは気まずそうに目をそらした。

「本官にはわからない概念であります……ですが、それを理解できない無垢さこそマリアお姉さんの好む純真さだと本官は思うでありますっ!」

「それじゃあダメなのよ……」

「なぜでありますかっ!」

「それが純真さだと理解できてしまう時点で、真の純真さは失われてしまうのッ!」

「……なんと!?」

およそ真っ当な理屈ではないのだが、アンネリーゼはマリアの勢いに押されていた。

マリアはこれでとどめと言わんばかりに畳み掛ける。

「つまりわたくしが求める幼さは時の流れで得られるものでなければ、失われるものでもないのです。むしろ年を経ても変わらぬ幼さこそが、真の幼さと呼べるのではないでしょうか!」

「本官には理解できない領域であります……マリアお姉さんはやっぱりすごいであります! ますます惚れたであります!」

「諦めてください、わたくしにはツァール様しかいないのです!」

「こんなに魅力的な女性を諦められるはずがないでありますッ!」

これで本人たちは大真面目なのだから、余計に手に負えない。

フェリシアは呆れを通り越して、恐怖を抱きつつあった。

「考えてみればアンネリーゼは将軍の娘なんだよな。もしこのやり取りが親に見られたら、わたしたちはどんな罪に問われるんだろうな」

「死刑じゃない」

メルクの答えに、フェリシアは「妥当だな」と遠い目をして相槌を打つ。

しかしシエラはそれを否定した。

「大丈夫だと思いますよ。アンちゃんの熱烈なアプローチは親譲り――オティーリエさんから伝授されたものと聞いていますから」

オティーリエ・フォーケルピーは今でこそ落ち着いた貞淑な妻というイメージだが、オリジンとの戦いが行われていた当時はかなり荒っぽい人間だったという。

その荒ぶりっぷりは、フラムですら当時のことを思い出すと体がぶるりと震えるほどだという。

アンネリーゼはその血を継いでいるのだ、その時点で只者ではない。

「遺伝って怖いなぁ」

何度断られても諦めないアンネリーゼを見て、フェリシアは再度しみじみと呟く。

一方でその横でシエラはメルクの腕をぎゅっと抱きしめると、熱のこもった瞳で妹を見つめているのだった。

◇◇◇

下校中も、アンネリーゼはマリアにへばりついて口説くのをやめない。

「ですからー、わたくしはツァール様以外に心も体も許すつもりはないのです!」

「それでも必ず振り向かせてみせるであります! 差し当たっては週末に本官とデートをするであります!」

そのとき、マリアは前方に何かを見つける。

「はっ!? あれはまさか――」

人混みの向こうにいるのは、制服姿の小さな少女。

白く美しい髪は耳にかかる程度の短さで切り揃えられ、表情にはどこかやんちゃさがある。

どうやら少女もマリアの存在に気づいたらしく、彼女を見た瞬間――げっ、という顔をした。

「げっ」

そのまま言葉にもした。

目が合った途端に、マリアはアンネリーゼを振り払って全力疾走で少女に迫る。

「ツァールさまあぁぁぁぁ~~~っ!」

「何でいっつも下校時間が被るんだよぉーッ!」

ツァールは逃げようとしたが、マリアは風を纏って急加速すると前に回り込む。

「いつもいつも、そう簡単にこのツァールが捕まると思うなよッ!」

「ふふふ……ツァール様のことはすべてお見通し。逃げようとしても必ず捕まえてみせますわぁ!」

意識を集中させ、立ちはだかるマリアの様子を観察するツァール。

ツァールより30cm以上身長の高いマリアは、両手を広げて相手の逃げ場を完全に塞いでいる。

(この大きさの差を、逆に利用する――ッ!)

ツァールは姿勢を落とすと、四つ足の獣のような姿勢でマリアの左脇の下へと突っ込んだ。

「もらった、ここが死角ッ!」

瞬間、マリアはほくそ笑む。

「計算通り、ですわ」

脇を抜けて突破するかと思われたツァール。

だが彼女は気づく。

マリアの真横に差し掛かった瞬間、柔らかく温かな感触が自分の顔に触れたことを。

「まさか、罠――」

そう、そこには見えない空気の網が設置されていたのだ。

マリアは最初からツァールがそこに来ることを読んでいたのである。

「ツァール様の考えることはすべて理解していますわぁ」

「く、くそぉ~~~ッ!」

ツァールの体は風の網に包みこまれて、ふわりと浮かぶ。

そしてマリアの前にやってくると、小さな体は彼女の両腕にぽすっと収まり抱えられた。

「んふふふふふふぅ~っ、ツァール様ったら今日も小さくてかわいいですわぁ~~~~っ!」

「やめろぉーっ! ツァールは次期魔王だぞっ、えらいんだぞーっ! 大衆の面前でこんな恥ずかしい姿を見せたくないーっ!」

「はぁ、はぁ、抵抗するツァール様もおかわいい。暴れれば暴れるほど……すぅぅぅぅっ、あぁっ、幼さの混じった甘いフレイヴァーが広がって、わたくしトランスしてしまいますわぁ~っ!」

「へっ、変態だーーーっ!」

「今日のこの出会いは偶然。そう、偶然にも何日も連続で出会えるということは、わたくしとツァール様はやはり運命の赤い糸で結ばれているのですわぁ! いかがでしょう、運命力が高まっている今のうちに婚姻届にサインするというのはっ!」

「するかっ! ツァールとお前は付き合ってもないんだ!」

「えっ……」

瞬間、マリアの表情から笑顔が消えた。

まるで本心から裏切られたかのような悲しみがにじみ出る。

ひょっとすると、この場でのじゃれ合いは彼女なりのコミュニケーションだったのかもしれない。

ただのおふざけで、実際は本当の意味で二人は――

「いや私たち付き合ってましたよねみたいな雰囲気を出すんじゃないっ! あいつらも信じそうになってるじゃないか!」

マリアは「てへっ☆」って笑った。

その女はあまりに邪悪であった。

ツァールは〝あいつら〟に助けを求める。

「おいシエラ、メルク、ツァールを助けろ! 小さい頃から面倒を見てやったお姉さんのピンチだぞ、こいつお前らの友達なんだろ!?」

「なんだかんだで、まんざらでもなさそうな顔をしていますよ、ツァールさん」

「どこがだよぉっ!」

「何なら、実は裏ではやることやってるのかなって思うぐらいの仲のよさだなと」

「やるかぁーっ! ツァールは変態ロリコン女に付きまとわれてる被害者だぞ!?」

被害者アピールをするツァール。

そのとき、フェリシアが言った。

「でもこの前の休日、二人でお出かけしたってマリアから聞いたぞ」

固まるツァール。

うんうんと頷くシエラとメルク。

そしてマリアがにまぁっ……とねっとりとした満面の笑みを浮かべた。

「う……」

「ええ、とぉっても楽しかったですわ! ツァール様もそうおっしゃってましたわよね?」

「あっ、あれはあのときの感情で言った言葉というか……」

「つまりあのデートはとぉっても楽しかったということですわよね?」

「で、デートじゃない……デートじゃないもんっ……」

しかし楽しかったのは事実だが、どんどんツァールの声のボリュームが落ちていく。

シエラとメルクはその様子を微笑ましく見ていた。

「やはり、まんざらでもなさそうな顔をしていますね」

「うん、まんざらでもなさそう」

「まんざらまんざら言うなっ! ああ認めるよ、この前は楽しかった! なぜならマリアがまともだったからなぁッ! だが色恋沙汰に発展することは断じてないッ! ツァールは次期魔王だ、偉い魔族の結婚相手というのはなあ、その、ちゃんとした相手じゃないとダメなんだよ!」

「セーラさんとネイガスさんの娘は血筋としても問題ないと思うぞ」

フェリシアの指摘に「うっ……」と言葉に詰まるツァール。

ツァールは正論に弱かった。

しかし往生際が悪いので、まだ敗北を認めない。

気づけばマリアにお姫様抱っこされている状況を受け入れている自身にも気づかずに。

「い、いや、血筋の問題じゃない、こいつはちゃんとしてないんだ! なにせマリアがツァールに抱く感情は、別に恋とか愛とかそういう綺麗なもんじゃないからなッ!」

「では何でありますか?」

ここまで黙ってツァールを観察していたアンネリーゼが、初めて口を開く。

「ツァールが母様に似て小さいからだっ!」

「ええ、ツァール様のおっしゃる通りでしてよ」

「おいマリア、胸を張るな! 認めるなー!」

「わたくしはツァール様に理想の幼さがあると感じ、恋慕いたしました。しかし理由はどうであれ、この感情は紛れもなく愛ッ! この言葉以外で表すことのできないときめきなのです!」

またしてもマリアの演説が始まる。

こうなるとツァールが何を言ったところでもう彼女は止まらない。

「わたくしはこの命果てるまで、幼さを愛し続けることでしょう。そして魔族であるツァール様は老いることなく、その姿のまま人生を終える。すなわち、わたくしは永遠にツァール様を愛し続けることができるのですッ!」

オーディエンスはどこか諦めたような顔をしながら、『よくもまあそこまですらすらと詭弁が思いつくものだな』と感心している。

「尽きぬことが保証された愛ッ! これほどまでに婚姻に向いた感情が他にあるでしょうか!」

そして演説を終えてやりきった顔をしているマリアに、ツァールは言った。

「小さい女の子が好きなのはどうあがいても変態だろ」

「ぐふぅっ」

マリアも正論に弱かった。

「マリアお姉さんが負けたであります!?」

「言葉は時に凶器になりますから……」

「正論が効きすぎたんだね、マリアって常識がないわけではないから」

「ツァールと同類だな」

「勝手にツァールとマリアを同類認定するなーっ!」

抗議するツァールを、「ふっ」と鼻で笑って受け流すフェリシア。

ツァールは年上だが割と舐められていた。

彼女はそんな現状を憂い、ため息をつく。

「はぁ……どいつもこいつも。ツァールはな、お前が奇行さえしなければ邪険にはしないんだからな」

ツァールにそう注意されると、マリアは聖母のような笑みを浮かべて答えた。

「愛とは暴走するものですもの」

「わかります」

即座にシエラが共感する。

ツァールは姉をどうにかしろと言わんばかりにメルクを見たが、彼女はそっと目をそらした。

メルクの横顔は語る――

どうにかできるならとっくにどうにかしている。

諦めた方がいい、と。

◇◇◇

なんだかんだでツァールも巻き込まれ、六人で通りを歩く。

しかしツァールが帰るのは魔王城。

メルクたちとは方向が違った。

ちょうど分かれ道に差し掛かると、マリアが足を止める。

「ではわたくしたちはあちらへ」

「何で普通にツァールについてこようとしてるんだ? マリアの家はこっちじゃないだろう!?」

「今日もお義母様とお義父様にご挨拶をと思いまして」

「やめろ、これ以上パパとママに取り入るな!」

「ふふふ、今度お義母様といっしょにお買い物に行こうという話をしているんですよ」

「ツァールの外堀が埋められていくーーーっ!」

ツァールは頭を抱えながら、魔王城方面へと進んでいく。

すると、フェリシアの隣にいたアンネリーゼが駆け出した。

彼女はツァールの前に回り込むと、両手を広げて道を塞ぐ。

「待つでありますっ!」

ツァールは「ん?」と足を止めて彼女を見た。

するとアンネリーゼはツァールを指さし、語気を強めて宣言した。

「本官はアンネリーゼ・バッセンハイム。マリアお姉さんの将来の伴侶であります!」

一瞬、目を見開いて驚くツァール。

そして一旦マリアを見る。

彼女は「まったく」と軽く呆れていた。

そしてアンネリーゼの方に向き直ると、笑顔で答える。

「そうか、もらってやってくれ」

「ツァール様!?」

戸惑うマリアだが、どうやら夫婦漫才はアンネリーゼの耳に届いていないようだった。

「ツァールお姉さん、本官はあなたをライバルとして認定したであります!」

「いや、あげるって」

「先にマリアお姉さんを口説き落とした方が勝ちであります! これはあなたに対する宣戦布告であります!」

「ツァールの話を聞いてくれ……」

「覚悟するであります。明日から全力の攻勢でマリアお姉さんを落としてみせるであります! せいぜい奪われないようにがんばるであります!」

「だからツァールはマリアのことはなんとも思ってないんだーっ!」

叫ぶツァール。

するとマリアが悲しそうな表情で彼女を見つめ、声を震わせた。

「思ってませんの……?」

「うっ……」

またしても言葉に詰まるツァール。

どうやら言い過ぎた、という自覚はあったらしい。

「友達ぐらいには、思ってるけど……」

「ふふふっ、ですわよね。そういうわけですから、わたくしはツァール様のお嫁さんです。早く諦めてくださいね、アンネリーゼっ」

「いや友達なんだが!?」

「絶対に負けないであります、ツァール!」

「だからただの友達なんだがーっ!」

ツァールはそのまま「何でわかってくれないんだぁぁぁぁーっ!」と叫びながら、頭を抱えて走り去っていく。

マリアは「待ってー、お嫁さんを置いていかないでくださいませー」と、ゆったりしたフォームの割にやたら速い駆け足でその後を追った。

歩幅の差は残酷であった。

「魔王の娘って大変なんだねー」

「そうだな、がんばってほしいな」

「私たちは遠くから見守りましょう」

メルク、フェリシア、シエラの三人は他人事のようにその姿を見送った。

まあ、実際他人事である。

友人たちが不幸にならなければそれでいい。

宣戦布告を終えて満足したアンネリーゼは、やりきった顔でメルクたちの元へと帰ってくる。

そして四人はツァールが向かったのとは別方向に歩きだした。

「しっかし、なんでアンはそんなにマリアのことが好きなの?」

メルクは何気なくアンネリーゼに問いかけた。

「見た目であります! 背が高くて胸が大きい女性が好みであります!」

彼女は淀みなくそう言い切った。

メルクは無言でフェリシアを見つめる。

「……困ったからってわたしの方を見るな」

「メルク、世の中には色んな愛の形があるんですよ」

「シエラが言うと説得力あるなあ」

と、メルクは苦笑する。

一方でアンネリーゼは、なぜ三人がそんな反応をしているのかわかっていないようだ。

それこそが純朴さ、というやつなのだろう。

「本官がマリアお姉さんを好いていることは母様たちにも報告済みであります。特にオティーリエ母様からは、もっとぐいぐい行くべきだとアドバイスをもらっているであります! 本官は必ずマリアお姉さんを口説き落とすという任務をやり遂げてみるであります!」

「ま、どうなるかわかんないけど、応援はしてるよ」

「ありがとうでありますメルクお姉さん! 騎士剣術(キャバリエアーツ) の方もおろそかにするつもりはないでありますから、安心してほしいであります!」

「あはは、そこは心配してないよ。アンは剣術に対しては真面目だから」

実はメルクとアンネリーゼは、同じ騎士剣術の道場に通っていた。

ハロム・ヤンドーラが師匠であるという点も同じである。

するとフェリシアが、そんなアンネリーゼに尋ねた。

「そういえば、アンネリーゼはなぜ騎士剣術の道場に通っているんだ? 両親は 虐殺規則(ジェノサイドアーツ) という剣術を習得していると聞いたぞ」

「虐殺規則と騎士剣術は組み合わせて使うこともできるであります。選択肢を広げるためにも、とアンリエット母様が通わせてくれているのであります」

「では、アンちゃんは虐殺規則は習わないんですか?」

「心配無用でありますシエラお姉さん。ちゃーんと習ってるでありますよ! でも、母様たちは忙しいでありますから、毎日習うというわけにはいかないのであります」

「理解したぞ。その隙間を道場で埋めているわけか」

フェリシアがそう言うと、アンネリーゼはぶんぶんと勢いよく首肯した。

つまりアンネリーゼは披露こそしないものの、実際は虐殺規則も習得しているということだ。

メルクはその優れた才能に感心する。

「両立してるとは思えないぐらいの腕だよね、しかもアンってまだ十歳でしょ」

「やはりご両親が剣士だったというのも影響しているのではないでしょうか」

「これも遺伝か。末恐ろしいな」

「母様たちは目標でありますから、似ていると言われるのは嬉しいであります!」

年相応の、キラキラと輝いた無邪気な笑みを見せるアンネリーゼ。

こういうときは素直でかわいい子供なんだよなあ……と感じるメルクたちであった。