軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話.モブの班行動③

「さて、まだまだ時間はあるけど……どうする?」

「僕としては、まだ色んなダンジョンを周ってみたい、かな? 榊君のおかげで勘違いしそうになるけど、普通はこんなに簡単に攻略できるものじゃないし……今のうちに多くクリアしておいて、ポイントを稼いでおくのも手だと思うんだ。他の皆はまだ、午前の『嘆きの洞窟』に挑んでいる時間だし」

「俺も、異存、ない、です」

「……リーシャさんはどう思う?」

「そうね……どの道今日の午後は班行動と決めたのだし、やれるだけやるのも良いかもしれないわね」

「そっか。なら、そうしよう。アインさんと水無……」

「榊君。僕の事は普段も呼び捨てで良いよ」

「あ、俺、も、剛毅、で。苗字、俺、似合ってなくて、あんまり、好きじゃ、なくて……」

「そ、そう? 分かったよアイン。それに剛毅も。……俺は、水無瀬って苗字良いと思うけどね。なんか綺麗な苗字じゃない? 剛毅は装備を綺麗に扱ってるよね? 新品みたいに見えるけど、ところどころ痛んでるのは長く愛用してるんでしょ? その丁寧な所、苗字がとても似合ってると思う」

「!!」

「「……」」

あれ、なんか皆黙ってしまった。

おかしな事を言ってしまっただろうか……。

「そんな、事を、言って……くれた、の、榊殿、だけ、です。ありが、とう……」

「いやいや、お礼を言われるような事じゃないよ!? 装備を丁寧に扱うのは、戦士として大事だよね。命を預ける相棒だもんね!」

「そうよ榊君。だから私もこの剣、すごく大事にしてるんだから。藤堂先生から借りてる剣じゃなくて、私の愛剣、 大通連(ダイトウレン) よ」

「うん。見ただけで分かる。凄く研ぎ澄まされた剣だよね。手入れも毎日してるんでしょ? 刃毀(はこぼ) れ一つない。それに美しい刀身だよね。大切にしてるのが伝わってくるよ……!」

「そ、そう……?」

「あははっ……! 榊君さぁ……」

「はは……!」

あれ、何故か二人に笑われてしまった。

「そ、それじゃ次のダンジョンへ行きましょうか……! ここから近いのはどこかしら!?」

「あっと、そうだね……ここからだと……」

そんなわけで、今日は様々な低ランク人工ダンジョンを制覇して回った。

全部一位を独占状態で、翌日騒ぎになる事をこの時の俺達は知らない。

夕方になり、班は解散。

リーシャさんは俺の護衛という事で、家まで送ってくれる事に。

帰り道に今日の出来事を話し合い、和気あいあいとした雰囲気だったのだが……

「……」

「「!!」」

普段の変わり映えのない通り道。

そこが、別空間になった。

魔族が扱う特別な力の一つ、『虚数空間』に入り込んだ。

いや、領域を展開して強制的に入れたが正しいか。

「下がって、榊君」

「うん、気を付けてリーシャさん」

二人で目の前に居る男、いや女か?

どちらか判別がつかない、中性的な魔族を見る。

その手には大きな鎌を持っている。まるで死神が持っているかのように、歪な魔力が視える。

「テメェが榊、玲央で。テメェがリーシャ、エーデルハイトだナァ? お初にお目にかかるぜぇ。オレの名はツヴァイ……ツヴァイ・クトゥルフっつーんだ、お見知りおきをってナァ……クハハッ!」

「「!!」」

クトゥルフ、だって!?

それはアインと同じ……!

「ケケッ……! なンかよぉ、アインがテメェらに絆されそうだからサァ……さっさとその"魔眼"、くり抜いて魔界に持ち帰らせてもらうゼェ!?」

「!!」

「させるわけないでしょう」

リーシャさんが前に出て、剣を構える。

しかしツヴァイと名乗った魔族は、動かない。

「グァ……テメェ、邪魔すンじゃねぇ、アイン……!」

「「!?」」

「(駄目だツヴァイ! 僕は榊君を傷つけたくないっ! 体を返すんだっ!)」

「(指令を忘れたかアインッ! やらなキャ、やられンだゼ!? またあの人体実験の日々に戻っても、良いってのかヨォ!?)」

「(そうじゃないツヴァイ。……榊君なら、僕達の事情を話せば、手を貸してくれると思わないかい?)」

「(あぁン!? 何を寝ぼけたコトを! 人間なんざ魔族以上に信じられねぇダロウがヨ! オレ達が受けてきた痛み、ドライを失った悲しみを、忘れたとは言わせねぇゾ!?)」

何故かかたまり、動かなくなったツヴァイ。

アインと、そう言った。

これは俺の予測でしかないけど……アイン・クトゥルフの中には別の人格が居て、体の所有権を争っている、のだろうか。

「どうする、榊君。藤堂先生からの第一指令は榊君を守る事。私は、このまま殺しても良いと思ってるけれど」

油断なく剣を構えたリーシャさんの眼は、本気だ。

魔族に対する憎しみ、それが伝わってくる。

だけど……

「ううん、待って欲しいリーシャさん。藤堂先生は、懐柔しても良いって言ってくれた。だから……俺に、話をさせて欲しい」

「……。……分かったわ、榊君がそう言うなら。でも、少しでも危なくなったら、私は容赦しないわ」

「うん、ありがとうリーシャさん」

俺を守る事を第一に考えてくれているリーシャさんの、精一杯の譲歩だと思う。

さて……ここからはゲームに無かった展開だ。

俺は主人公じゃないし、うまく説得できる確率は低いかもしれない。

だけど……今日一日、一緒に過ごしたアインは、信じられる。

その直感を、俺は信じる。

「アイン、聞いて欲しい。俺は、魔族だからって全てが敵だとは思ってない」

「「!?」」

「人間だって、悪い奴はいる。それと同じ、いや割合が違うとは思うけど。そして……今日一日だけど、一緒に過ごして。アインは、悪い奴じゃないって感じたんだ。何か理由があるんでしょ? だったら、俺に話してほしい。もしかしたら力になれるかもしれない。俺には無理だとしても、俺より凄い人達が、俺の周りには沢山いるんだ。俺は遠慮なくその人達を頼る!」

「……ぅ……榊、君……」

「「!!」」

中性的な魔族の姿が、元のアインの姿に戻っていく。

「ありが、とう。こんな僕を、信じてくれて。話すよ、僕の目的と……どうしてヴァルハラに潜入したのかを」

『虚数空間』が解除されたのか、元の道に戻った。

夕暮れの風を感じ、晩ご飯の匂いが漂ってくる、いつもの雰囲気だ。

「とりあえず、俺の家に行こう。リーシャさん、それで良いかな?」

「ちょっと待って。アイン君は大丈夫かもしれないけれど、他の危険がないとは言い切れない。一度ヴァルハラに戻りましょ。藤堂先生をはじめ、強力な力を持つ先生達がいてくれるし、安心だわ」

「そうだね。ヴァルハラには対魔大結界もあるし、僕が言うのもなんだけど、それが良いと思うよ榊君」

「そっか……了解。それじゃ、ヴァルハラに戻ろう」

そうして俺達は、もう一度ヴァルハラへと足を運ぶ。

そこで俺は、思いもよらぬ真実を知る事となる。