軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

御剣護山の洗礼

そして、あっという間にやって来た訓練合宿の日。

聞いていた通り、朝にテントを設置して午前中の訓練に繰り出し、お昼は少し早めに戻ってみんなでホットサンドを作った。

午後の訓練も普段よりあっさり終わり、夕食のカレー作りが始まる。

「あっ、火が消えてる」

「じゃあ火起こし競争2回戦だ!」

合宿中に使う火種は自力で生み出す決まりだそうだ。

サバイバル経験はなくとも力だけは人並み以上にあるので、午前中同様、手もみ式で火を起こす。

焔之札を使うような野暮な真似はしない。

「ふー、ふー、ふーー、ふーー、ふーーーーーーーっ。やった」

「聖もう火ついたのか。覚えがいいな」

1回目でコツを教えてもらったのだから当然です。縁侍君はもう既に自分の分の火をつけて、妹たちの面倒を見ているくらいだし。

バラエティー番組を見て面白そうと思っていた火起こしを、まさか転生してから体験することになるとは。

しかも、トライを断念した理由の手の痛みも、身体強化で全く感じない。

自力で起こした火種が大きな炎になっていく様は少年の心をくすぐられる。ちょっと感動した。

「俺1番~」

「聖に負けた~」

「お前ら火で遊ぶなよ。ほら、かまどに火を入れたら追加の薪を準備するぞ」

「私たちは食材の準備しましょ」

夕食作りは終始こんな調子で進み、皆で協力して作ったカレーライスを堪能した。

汚れの酷いお皿は雑草で拭い、皿洗いで使う水を節約する。

子供だけでテントを設営させたり、火起こしから食事を用意させたり、予想以上に本格的な合宿である。ここまでくればこの合宿の狙いにも気が付く。

「野営の実地訓練を兼ねてるのか。任務によってはサバイバル生活することになるのかな?」

そんなことを考えていると、花火片手にこちらへ近づく影が。

夕食後は子供達お楽しみの花火の時間である。

「聖も一緒にクロス花火しようぜ!」

「3人でやったらスーパークロスだ」

いや、*になるんじゃないかな。カラフルな花火をクロスさせてXを作っている2人からお誘いを受けた。

子供達は合宿の狙いなんか考えず、純粋に楽しんでいる。

せっかくの花火、楽しまなきゃ損だな。

大きな花火パックを10個も用意したら結構な金額になる。縁側から俺達の様子を眺めている出資者の期待に応えるためにも、余計なことは忘れるとしよう。

手持ち花火を振り回したり、ねずみ花火にはしゃいだり、皆で小さな打ち上げ花火を見上げたり、童心に帰って楽しんだ。

ノリの良い大人が一時参戦したときは盛り上がった。

最後に興じるはもちろん線香花火。大人達が帰った後、全員で輪を作って手元の花火に集中する。

飛び散る火花が次第に弱まっていく光景に、夏休みの終わりが連想された。

思えば、御剣家を見学するだけのはずが、翌日には内気の訓練に参加することとなり、野営のお試し訓練まですることになるなんて。

御剣家の関係者たちと知り合って世界が広がったし、初めての経験をたくさんできたなぁ。

濃厚な夏の思い出と共に寂寥感を覚え――

「誰が一番最後まで残るか勝負だ!」

「いいよ!」

この子たちはずっとこの調子だ。この歳頃は本当に勝負事が好きだなぁ。

変に寂しさを覚えるよりも、彼らの方が理想的な生き方かもしれない。

俺としてはこれだけで十分夏を満喫したのだが、もう1つイベントが残っている。

「母さん達の部屋の電気が消えたな。皆、出てきていいぞ」

縁侍君が各テントへ声を掛け、暗い庭に集合する。

気分はまさに悪戯をたくらむ悪ガキである。

恒例行事ということだから、悪さではないのだろうが。

「それじゃあ、肝試しを始めるか」

縁侍君が音頭を取り、肝試しの準備が進んでいく。

「肝試しかぁ」

「聖怖いのかよ。俺は怖くないぜ」

「俺も怖くない」

「妖怪が出るかもしれないよ。幽霊だって出てくるかも」

「「出てきても倒してやる!」」

低学年男子が威勢よく答える。低級妖怪に限っては俺も賛成である。

しかし、幽霊に関しては同意しかねる。

陰陽師の才の1つ、霊感。

転生してから手に入れたこの能力は、俺に新しい常識を植え付けた。

「幽霊ならそこらへんにいるんだけどなぁ」

「聖、なんか言った?」

「ううん、何も」

天橋陣で初めて死者の区別がついたあの日から、俺は身の回りに幽霊がいる日常が当たり前となった。

死者の大半は自力で成仏できるので、そこらじゅうにいるわけではない。

ただ、道端でしゃがみ込んでいる人を心配して駆け寄ったら、幽霊だったなんてことがたまにある。

霊感は人によって千差万別だが、俺の場合は視覚に強く現れたようだ。

幽霊というと、一般人は悪霊を連想しがちである。

前世の俺も「幽霊なんているわけない」と嘯きながら、怪談を聞いて肝を冷やしていた。

しかし実際のところ、脅威度1の彼らに何ができるはずもなく、ただただそこら辺を彷徨うだけの無害な存在であった。

悪霊と呼ばれているものの正体は、脅威度2〜3の妖怪である。

見慣れた幽霊が怖いはずもなく、俺にとって肝試しは、ただのナイトウォーキングと化している。

「ゆうれい出たらどうしよう」

「ゆうれいなんて怖くないし」

双子揃って幽霊が怖いらしい。

脅威度1の希薄な存在は視覚特化の霊感持ちでないと見えないことが多く、生前の姿そのままだったり、人型の靄に見えたり、ただの光の球に見えたり、人によって見え方が異なる。

陰陽師ほど霊感の強くない武家の子供達にとって、幽霊とは未知の存在なのだ。人の恐怖の8割は未知によるものであり、彼らにはこの肝試しがちゃんと楽しめるものとなっていた。

「それじゃ、くじでペアを決めるぞ」

割り箸の先に書かれた数字でペアを決めるらしい。

古典的なやり方だな。いったい何年前から続けているのか、割りばしは結構年季が入っている。

俺が引いたのは最後に残った4番。

あれ、縁侍君の割り箸は?

全員で9人だから、もともと1人余る計算だが……。

「俺は純恋と聖のとこに入るわ。それじゃ、あとは順番に出発だ」

俺たちのペアだけ、低学年2人となっている。縁侍君はこうなることを考えて、自分がフォローできるようにしていた、だと……なんとも言えない敗北感。

割り箸を選ぶ順番譲っただけで大人ぶっていた自分が恥っずかしい!

「5分経ったな。俺たちも行くぞ」

「うん」「はーい!」

肝試しの舞台は母家の隣山。

山を登って頂上にある祠でバッジを回収し、登りとは反対側の階段から下山して母屋に戻る。

子供の遊びとは思えない運動量、さすがは日々訓練を欠かさない武士の卵だ。

山道は比較的なだらかな登りとなっており、切り拓かれた道は丸太で階段が造られている。

階段の途中には大きな広場もあって、団体でピクニックすることも出来そうだ。

思っていたよりは歩きやすい。

「全然怖くないな」

「お兄ちゃん、妖怪いない?」

「いないって。いたらすぐに分かる」

「ゆうれいも?」

「大丈夫だって」

強がっているのか、本当に怖くないのか、縁侍君はすいすい山を登っていく。

一方で、まだ幼い純恋ちゃんはどこにもいない幽霊と妖怪の姿を探して怯え、兄の上着の裾を掴んでいる。

これが兄妹ではなく幼馴染だったらラブコメになるのだろうが、縁侍君は特に残念そうな顔も見せず、山を登っていく。

「なんか、思ってたのと違うな。昔はもっと面白かったんだけど。来年はおばけ役を決めようか」

縁侍君の場合、何が出てきても対処できるという自信があるから、肝試しの肝を試す所が意味を成していないだけだと思う。

「あっ」

「きゃーー!」

縁侍君がいきなり声を上げて立ち止まったせいで、傍にいた純恋ちゃんが悲鳴を上げる。

その原因となった彼は妹の頭をポンポン叩きつつ、振り返って俺に話しかけてきた。

「聖なら、札飛ばしだっけ? いろいろできるよな。来年、おばけ役やってくれない?」

「できるけど……」

それはつまり、来年も御剣家にお邪魔するということで。

俺が一緒に居るのが当然と縁侍君が考えてくれて、武士のコミュニティに受け入れてもらえたという証でもある。

おぉ、感慨深いなぁ。

夏休みを投資した甲斐があったというものだ。

「うん、いいよ。来年は皆を驚かせてあげる」

「怖いのやだ!」

純恋ちゃんには不評なようだ。

この子はすごく純真で、とても庇護欲を掻き立てられる。

純恋ちゃんの時だけ手を抜いてあげよう。

その後も順調に山を登り、問題なく祠にたどり着いた。

あらかじめ置かれていたバッジを回収し、行きと反対側にある階段を降りていく。

縁侍君は既に消化モード、俺は夜のお散歩、唯一肝試しを楽しめているのは純恋ちゃんだけだった。

「いっそ妖怪でも出ないかな」

「そのために刀を持ってるんですか?」

「そりゃあもちろん」

いつも持っている木刀ではなく、あの夜に見た真剣を腰にぶら下げているのはそのためだったか。

肝試しというのは、本当に妖怪がいる場所へ赴くのではなく、暗くて不気味な場所でちょっとしたスリルを楽しむもの。

決してvs妖怪を期待して行うものではない。

しかし、言霊というものは存在するようだ。

ゾワリ

「お兄ちゃん、あれ、なに?」

夏の湿気よりも気味の悪い、ぬるりとした空気が頬を撫でる。

階段の先、広場の中央に闇が浮かんでいた。

そいつは俺の知っているそれとは違うが、どんな存在か一目見て分かった。

「妖怪だ」

ビー、ビー、ビー

縁侍君の答えによって、信じたくない予想が確信に近づいてしまった。

さらにその答えを後押しするように、ポケットのスマホから警報が鳴り響くのだった。