軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

内気訓練6

夏休みもそろそろ終わりが見えてきた。

にもかかわらず、未だに内気の“な”の字も見えてこない。

御剣家直系の血筋を除き、普通の人は年単位で修行する必要があるとは聞いていた。

それでも、あわよくば1ヵ月で習得できないかなと期待する自分がいたのも事実。

霊力の方が順調だから調子に乗っていた。

そんなある日の食卓にて、幸子さんが問いかけてくる。

「明後日、子供達は訓練合宿をするのだけど、聖君も参加するわよね」

問いというより確認だった。

合宿って、現状でも既に合宿しているようなものですが……。

「何をするんですか?」

「「テントでお泊まりするんだぜ!」」

「火起こしも!」

「カレー作って、花火もする」

低学年組が教えてくれた。

合宿というより、幼稚園のお泊まり会だな。

訓練はいつも通りするとして、子供達に楽しんでもらうための夏の恒例行事だろうか。

夏休みの間ほぼ毎日訓練を頑張っていたし、ご褒美があっても良いと思う。

俺は夏休みが終わる直前まで御剣家に滞在すると決めているので、答えは最初から決まっていた。

「はい、参加します」

こうして、小学1年生の夏休み、最後のイベントが決まった。

家へ帰るまでに、内気の手掛かりくらい掴みたいなぁ。

~~~

「肝試ししようぜ」

夕食後のゲーム大会中、縁侍君が悪戯っぽい笑みを浮かべながら提案した。

なんだろう、嫌な予感がする。

「それって、合宿の夜に?」

「もちろん」

「子供だけで?」

「大人がいたらつまらないだろ」

はい、アウトー。

親父たちが緊急出動したあの日『夜は母屋の敷地から出てはいけません』と幸子さんに言われている。

理由なんていくらでも思いつくが、一番の理由はあれだろう。

「妖怪が出るんじゃないですか?」

「大丈夫だって。ここにいる奴は初歩の内気を使えるから、逃げるだけなら問題ない」

俺は使えないのですが?

「「秘密の肝試し!」」

「お前たちは去年みたいにおもらしするなよ」

あっ、肝試しも含めて恒例行事なのか。

ということは、大人達も知っているに違いない。

子供の秘密は往々にして大人にバレているものだ。

だがしかし、まぁ大丈夫だろうと見過ごして、後から大問題になるケースもある。

子供達のやんちゃを止めることは出来そうにないし、万全を期すためにも行動するべきだろう。

「ちょっとトイレ行ってくるね」

「いってらっしゃい」

適当な理由をつけて部屋を出た。

大人を探してキッチンへ行くと、予想通り洗い物をしている幸子さんがいた。

大量の洗い物を手早く片付けていく姿には感謝の念が絶えない。

ここで手伝いますと言っても、受け入れてはもらえないだろう。

自分が働いている間、子供達には楽しい思い出を作っていてほしいと願うのが大人である。

ここはありがたく、自由な時間を楽しませてもらうとしよう。

そのお礼と言っては何ですが、耳寄りな情報がありますよ。

「幸子さん、ちょっといいですか?」

「あら、聖君。どうかしたの? 縁侍達と遊んでると思ってたけど。もしかして、お父さんが恋しくなっちゃった?」

ぐはっ!

その言い訳を悪用した俺が悪いのだけど、いい歳こいた大人にそれはキツい。

「いえ、お願いがあってきました」

何かしら、と優しく尋ねてくれる幸子さんに、俺は縁侍君の計画をリークした。

山奥で、夜に、子供だけ、そんなワードが集まったら事件が起こるに決まっている。大人に知らせないという選択肢は絶対にありえない。

しかし同時に、男の子のロマンも理解できてしまう俺は、こうお願いする。

「後ろからこっそり見守っててもらえませんか?」

これぞ、子供達の夏の思い出を邪魔しない、かつ安全性を考慮した肝試しである。

子供達に気づかれさえしなければ、大人はいないのと同じ。

子供達の思い出のため、大人には黒服に徹してもらおう。

「うふふ、教えてくれてありがとう。分かったわ。私からあの人にお願いしておくわね」

「よろしくお願いします」

ふぅ、これで何かあっても安心だ。

大人の義務は果たしたといっていいだろう。

俺がお願いするまでもなく誰かが見守ってくれるだろうけど、念には念を入れよとも言うし、これでいい。

俺は一仕事終えた気持ちで縁侍君たちの下へ戻るのだった。

~~~

都心から少し外れたアングラな地域。

その中心には、長い年月を耐え忍んできた巨大なビルがある。

敷地を区切る高い壁により、周辺住民でさえも何に使われているのか知る者は少ない。

「刑務所じゃないのか?」

などと言われる始末。

しかし、一部の関係者たちは知っている。そここそが日本を陰から守る、陰陽師達の中枢機関であることを。

ビルの銘板にはこう書かれている。

「陰陽庁」

そんなビルの最奥にて、誰もが眠りにつく時間であるにもかかわらず、一心不乱に儀式を執り行う陰陽師がいた。

和室の床に敷かれているのは10畳の面積を埋めるほど巨大な紙。そこには緻密な線が縦横無尽に引かれており、よくよく見れば描かれているのは地図であると分かる。

そんな地図の上に立つ陰陽師が占いの結果を告げた。

「妖怪が発生しました」

予言ではなく、事実。

次に告げられる言葉は妖怪の発生地点である。

占いを見守っていた記録官が筆を墨につけ、一言一句聞き漏らさないよう、耳に意識を集中させる。

妖怪が発生した地域の陰陽師へ、迅速に、正確な情報を伝えなければならない。

都市部に現れでもすれば、大災害が起きてしまう。

陰陽師が閉ざした瞳をゆっくりと開き、告げた名は――

「 御剣護山(みつるぎござん) です」