軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学力無双(笑)

厳しい寒さが記憶から薄れ始め、新しい生活にも慣れてきた今日この頃。

俺たちは集団登校の集合場所へと向かっていた。

「お手て、はなしちゃメッなんだよ」

「はいはい、離さないよ」

集団登校の際に上級生から教わった言葉を得意げに語る加奈ちゃん。

自分よりも少しだけ大人な女の子、というところが加奈ちゃんの琴線に触れたらしく、ことあるごとにその人のセリフを真似するようになった。

パシャ パシャ

付き添いのお母様と裕子さんがスマホのカメラで撮影しているのだろう。

小学一年生の男女が仲睦まじく手を繋ぎながら登校する風景……そりゃあ残したくなる。

もうすぐこんな光景見られなくなるんだから。

「「おはようございます」」

「おはよう。2人とも仲いいね。峡部さんと殿部さんもおはようございます」

集団登校の班長を務める保護者に挨拶をし、お母様たちとはここでお別れする。

保護者間の交流も問題なさそうだし、一安心である。

俺達は俺達で子供たちの列に加わった。

俺達の通う学校には、新一年生が入学してから半月の間は集団登校をする決まりがある。

交通事故や誘拐の防止は当然として、通学路の記憶や学生間で顔見知りになるためだろう。

この半月で近所に住む小学生の顔ぶれは覚えたし、学校側の狙い通りといえる。

列の最後尾で俺達を待っていたのは、集団登校の班長の娘である6年生の女の子。

「今日は最後の集団登校だから、ちゃんとルールを覚えてね」

「はい! まずは手を繋ぐこと!」

そう言って指導してくる彼女こそ、加奈ちゃんの憧れのお姉さんである。

加奈ちゃんは離すなと言った俺の手をあっさり離し、そのお姉さんの手を取った。

なんだろう、この寂寥感は。

集団登校中、1年生は上級生と手を繋ぐ決まりがあるので、俺は前にいた女の子と手を繋いでもらうことにした。

「香澄お姉さん、手を繋いでもらってもいいですか?」

「あっ、聖君。いいよ~。はい」

こうして俺は、毎朝違う女の子と手を繋いで登校している。

俺が子供の頃だったら異性相手に恥ずかしがったかもしれないが、そんな羞恥心は前世に捨ててきた。

野郎と手を繋ぐよりも女の子と手を繋ぐ方が良いにきまっている。

それに、今のうちに異性との交流に慣れておかなければならない。

大人になったら異性と手を繋ぐどころか、会話すらできなくなるからな。

集合時間を5分過ぎたところで全員集合。列を維持しながら移動を開始する。

横断歩道は右左右を確認し、手を挙げながら渡る。

歩道がない道は端に寄り、自転車や車の往来に気を付ける。

信号が点滅していたら、走って渡らずに次を待つ。

町内の人には挨拶する。

知らない人に話しかけられても返事をしない。

などなど、通学時のルールをおさらいしつつ、今年度最後の集団登校が終わった。

「ありがとうございました」

「またね、聖君」

昇降口前で先輩とお別れした俺は、早速自分の教室へと向かう。

1年3組の扉を開ければ、子供達の賑やかな声が耳に飛び込む。

子供の適応力は高く、この2週間ですっかり教室の空気に慣れたらしい。

俺は自分の席へ移動するまでに、すれ違う子供達全員へ挨拶した。入学式で掲げた目標を実行するお手軽な手段である。

お手軽とはいえ、人見知りしがちだった前世の俺には真似できない陽キャスキル――教室内拡散型無差別挨拶は、相手が返してくれなかったらただの痛い奴になりかねない。クラスの中でもコミュニケーション能力と人気が一定値以上の人間のみ使える大技である。

「おはよう」

「お は よ!」

全員ちゃんと挨拶を返してくれる。

皆んな育ちがいいというか、親の教育が行き届いているというか。

よく考えずとも、由緒正しい家が立ち並ぶ住宅街には金持ちが多い。

我が家だって外観こそボロいものの、あの広い敷地を数百年守り続けてきた名家なのだ。

収入がなくなったら没落、結婚できなかったら断絶、子供に恵まれなくても断絶する。

長く家を守り続けるということは、それだけで凄いことである。

俺なんて、彼女すら作ることもできずあっさり血を絶やしたからな。

ご先祖様に顔向けできない。

しばらくするとチャイムが鳴り、始めから教室にいた先生が教壇に立つ。

ついさっきまで、教室を走り回って転び、わんわん泣きじゃくる子をあやしていたのだ。

朝の会の後、そのまますぐに授業が始まる。

中学以降は担当科目毎に先生が分かれているが、小学校の先生は全科目ワンマンで授業を行う。

自業自得な子供をなだめ、全科目の授業の準備をする……よほどの熱意がないと続けられない職業だ。

今日の1時間目は“こくご”。

「皆んな、ひらがな練習帳を開いてね。今日は『や』『ゆ』『よ』の練習をします」

先生の指示を受け、皆んな一斉にページを捲る。

ふむ、すごく馴染みのある体裁だ。

つい 最近(3年前) までお世話になっていたそれを、俺はすらすら埋めていく。

「聖君、綺麗な字を書けてすごい! 皆んなも頑張って書いてるから、もう少し待っててね」

「はい」

速攻で課題を終えた優等生な俺は、先生の言いつけを守り静かに待つ。

「ヒナタちゃん、止めが上手にできてるね」

「コウタくん字のバランスがいいよ」

「リョウタくん、かっこいい絵を描いてるね。こっちの文字はなぞれるかな?」

我らが担任の先生は長年教員を務めている女性で、的確に生徒を指導している。

まだどこか幼稚園気分を抜け出せていない子供を導き、少しずつ小学生の自覚を促す。

幼稚園の先生も凄かったが、小学校の先生も凄い職業なのだなと、改めて気がついた。

先ほどから聞こえてくる褒め言葉なんて、プロと呼ぶに相応しいワードチョイスである。

前世の俺もこれくらい褒め上手だったら、職場の後輩たちにもっと慕われていたのだろうか。

1時間目の授業が終わり、2時間目の“さんすう”が始まる。

そこでも優等生な俺は速攻で問題を解き終える。

足し算引き算など秒で終わってしまうので、数字を綺麗に書いてみた。1分もかからなかったが。

俺の横を通りがかった先生がすかさず声を掛けてくる。

「聖君はよく勉強しているね。先生驚いちゃった」

「ありがとうございます」

先生の褒めテクは尊敬するが、小学1年生の内容を褒められても、俺にとっては新手の羞恥プレイでしかない。

仮にも前世で大学卒業した人間だぞ。

解けない方がまずいだろ。

とはいえ、俺の中身が元老人だなんて知る由もなく。

先生は優秀な生徒を直球で褒めてくる。

子供たちも何となく空気で察しているのか、俺は勉強をできる奴だと認知され始めていた。

うん、恥ずかしいから尊敬の眼差しを向けないで。

そこはかとなく湧き上がる羞恥心を務めて無視し、一人静かに霊力の精錬を始める。

人生2度目の授業風景は、そんな感じで過ぎて行った。