軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎の実力者ムーブ

OFUDAの任務をこなした帰り。

夕暮れ時の送迎車に、耳障りな音が響き渡る。

ビービービー!

ここ最近、妖怪の発生頻度が高い。

それは陰陽新聞などでずっと言われてきたことだけど、体感としてここまで顕著に感じられるようになったのは最近のことだ。

「源さん、ちょっと寄り道しましょう」

「脅威度4。連日発生するのは異常ですね」

本来発生頻度が低いはずなのに、俺が任務で街へ出る度に妖怪が現れている。

実際は日本全国で脅威度4の発生頻度が高まっているらしいのだが、その中でも京都は特に高い。

阿部家の依頼で街に出ることが増えたせいか、ちょくちょく近場に発生し、俺が討伐することになっている。

報酬を貰えるから何も問題はないが、不穏な空気を感じる。

大きな事件の前触れのような……。

「敵を燃やし尽くせ──焔之札」

鹿に似た妖怪が燃え尽き、塵へと還っていく。

「いつもながら鮮やかなお手並みで」

「どうも」

現場に急行した俺はサクッと討伐した。

鹿型の妖怪は素早さが特徴らしいのだが、俺の鍛え上げた札飛ばしの前には止まっているも同然。

200m先にいるのを視認したと同時、札一枚で瞬殺である。

同行している陰陽庁の職員さんは驚いているが、いつも同行している源さんは見慣れてしまったようだ。

頑張って磨いた技術なんだから、もう少しチヤホヤしてくれてもいいと思う。

次の九尾之狐の欠片討伐では、みんなに驚いてもらうとしよう。

「これで終わりですね。2人ともありがとうございました。改めて帰──」

ビービービー!

「──れそうにありませんね」

今夜は脅威度4の大盤振る舞いらしい。

もうそろそろ日が沈みきるぞ。京都はどれだけ陰気を抱え込んでるのやら。

内心で嘆息していると、源さんがスマホの画面を見せてくる。

「峡部さん、4ではありません」

「5弱の殺人型か……」

迅速に討伐しないと被害が広がってしまう。

5弱だろうが6弱だろうが瞬殺できる俺の出番だ。

「場所は……遠いな。誰か足止めしててくれると助かるんだけど」

「急ぎましょう。峡部さんは戦闘の準備を」

送迎車の運転手を急かし、現場へ急行する。

陰陽庁の職員さんがどこかへ電話した直後から信号がずっと青だ。

もしかして、交通網操作してる?

そんなサポートの甲斐あって、俺たちは最短時間で現場に到着した。

「誰か戦ってますね」

妖怪が現れたのは、京都市の街中にある大きな公園だった。

既に太陽は沈みきり、公園の街灯だけが辺りを照らしている。

暗闇に沈む戦場を支配するのは、ライオンのような姿をした巨躯の妖怪である。

「晴空! 避けてください!」

「こいつ、なんてタフなんだ」

対するは陰陽師界の王子様とその仲間たち、計6人である。

晴空君がメインアタッカー、神楽君と錦戸の倅が補助でヘイト管理、女の子が結界を構築している。残り2人は俺もよく知っている相手だ。

「御剣家の2人がいるなら、戦線が崩されることはなさそうです」

「知り合いですか?」

「ええ」

健太と仁、一つ年上の武家二人組がなぜか晴空君たちの班に加わっていた。

いや、関東を代表する武家の門弟が安倍家次期当主の護衛をするのは普通か。

「どうしたものやら」

「攻撃しないのですか?」

いつもであれば、この距離から札を飛ばして一撃で退治している。

源さんは俺が一向に札を取り出さないから疑問に思ったのだろう。

「横取りを躊躇っているのですか?」

「いえ、そうではなく」

妖怪なんてさっさと倒すに限る。

最悪報酬分配で揉めても、人命には代えられないのだから。

ただ、なぁ……。

「彼らの成長に必要な戦いに見えるというか……。ギリギリ勝てそうなんで、見守ってあげましょう」

明らかに不利なら手を出したのだが、今の流れなら多分勝てる。

彼らの戦闘経験を奪ってはいけない。

大人は子供を守るべきだが、過保護にするのは違うと思う。

しかも晴空君は救世主候補の1人なんだし、もっと強くなってもらわないと。

「よし! 今のは効いた! みんな、この調子で行くぞ!」

「「「おう!」」」

晴空君の札が妖怪の目に傷を付けた。

怒り狂う妖怪を武士コンビが抑え、神楽君たちが札で追撃している。

結界もようやく完成したようで、後は安全に攻撃できそうだ。

「分かりました。介入する基準は?」

「俺が簡易結界を使う場面になったら、手を貸しましょう」

晴空君達の頭上に簡易結界の札を飛ばしておいた。

いざとなれば守れるし、死にはしないだろう。

結界さえできれば攻撃に専念できるし、10分程度で終わるかなと予想していたのに、あっという間に15分が経過している。

「思ったより苦戦するなぁ」

「むしろ善戦している方だと思います。札一枚で倒す峡部さんが異常なのです」

いかんいかん、つい自分基準で考えてしまった。

いくら安倍家の嫡男で同じ精鋭クラスだとしても、高校一年生の子供が戦い慣れてるなんてありえない。

しかも相手は脅威度5弱──地域の陰陽師が総出で当たらなければならない災害クラスの妖怪だ。

子供が善戦している時点で賞賛に値する。

「あっ」

「結界が壊されましたね」

武士コンビが強引に蹴散らされ、妖怪が三度目の攻撃を加えた結果、結界が限界を迎えた。

殺人型の攻撃に三度も耐えるとは、少女もなかなかに才能がありそうだ。

まぁ、俺なら簡易結界でも罅一つ入らないけどね。精錬霊素最高!

「ピンチですね」

源さんが「簡易結界を使わないのか」と言外に問いかけてくる。

結界の消滅と共に晴空君達が妖怪の眼前に晒された。

あの至近距離では、内気を使えない人間は陰気の影響を受けてしまう。

「うーん。ちょっと荷が勝ちすぎたか?」

実際、陰陽師4人は膝をついて苦しそうにしている。

脅威度4以下の災害型が放つ陰気とは比べ物にならない、強烈なバッドステータスに襲われていることだろう。

そうでなくとも、15分も命の奪い合いをしていたら、心身ともに疲弊しているに違いない。

女の子は結界を再構築する余裕もなさそうで、戦線離脱するようだ。

妖怪が爪で襲いかかる直前、武士コンビが戻ってきた。

「わりぃ、油断した。一旦引き剥がす」

「えいやっ」

なんとか妖怪との距離を確保したようだけど、どうなることやら。

ただ、晴空君の顔に悲壮感はない。

もう少し様子を見るか。

「ラッシー、宝、妖怪の注意を逸らしてくれ。俺が切り札を使う」

「「はい」」

満身創痍な2人が駆け出し、晴空君と反対側から攻撃を始めた。

また妖怪が武士コンビを蹴散らせば、彼らは直接攻撃を喰らってしまう。

そんなリスクを背負いながらも、晴空君の指示に従っている。

3分ほどだろうか。

側から見ている俺にとってもそこそこ長い時間、彼らはライオン型妖怪の猛攻を耐え忍んだ。

そしてついに、晴空君が叫ぶ。

「呑み込め──炎蛇之陣! みんな離れろ!」

晴空君が使ったのは、陰陽師学園で教えられている秘術の一つである。

蛇の形をした炎が妖怪に向かって襲い掛かり、素早く絡みついた。

その身を構築するのは、現世に強く影響する炎であり、敏捷性の高い獣型の妖怪でも逃れることはできない。

講師による実演で見せられたのは赤い炎の蛇だったのだが、晴空君のはオレンジ色をしている。

同じ陣なのに、威力が上がっている?

ガァァァァァアアア!

妖怪は炎の蛇から逃れようと暴れるも、しっかり巻き付いて離れない。

皮膚が炭化し、立派なタテガミが焼けこげていく。

それは俺の知っている陣よりも威力が増大している。

やがてライオン型妖怪の頭を燃やし尽くし、戦闘は終わりを告げた。

「「「やったぁ!」」」

俺たちの視線の先で、少年少女が勝鬨を上げる。

あれ? 俺の知る戦闘終了後と違う。

あんな風に仲間と喜び合うなんてしたことない。

東北地方では喜んでもらえたけど、一撃で倒したから共闘したわけじゃないし。

なんだろう、あの光景こそが少年のあるべき姿に見える。

いや、俺ジジイだけどさ。

「峡部さんの言う通り、勝てましたね」

「それじゃあ俺たちは帰りましょうか」

「挨拶しないのですか?」

「あの空気に水を差したくなくて」

子供の冒険に大人は出しゃばらない方がいいに決まっている。

無駄足になったけど、怪我人も出なくてなにより。

「それじゃあ帰──」

ビービービー!

おいおい、今日はどうしちゃったんだ。

こんなに妖怪が大量発生するなんて、何か異常が起こってるんじゃないか?

「峡部さん、妖怪が、そこに」

源さんはスマホを見ていなかった。

彼女の指差す先、晴空君達のすぐそばに妖怪は現れたから。

「今度は災害型ですか。あっ、もう限界みたいですね。助けます」

満身創痍な晴空君達は妖怪の陰気に当てられて次々と倒れ伏していった。

監督役の職員さんや武士コンビも例外ではなく、最後まで立っているのは晴空君だけである。

「くそ……みんなだけでも逃さない……と……」

ヴゥーーーー!

パッと見鈍臭そうなその妖怪は、タヌキに似ていた。

歩みはゆっくりだが、巨大な体躯の一歩は十分過ぎるほど大きい。

数歩進んだだけで晴空君達との距離を詰めてしまう。

威嚇と共に放たれた濃厚な陰気は、晴空君を呑み込んで──。

「急急如律令」

簡易結界で晴空君達を全員保護し、もう一枚の札は狸妖怪に貼り付けた。

放たれた陰気から、推定脅威度5弱。

保護対象もいることだし、第肆精錬──融合霊素を使って確実に倒すことにしよう。

第肆精錬のいいところは、威力を調整できるところだ。

晴空君や公園の設備に被害を出さない程度の火力に調整しておいた。

「燃やし尽くせ──焔之札」

夜闇を祓う青い炎が辺りを照らす。

狸妖怪は発生から2分と経たずに排除された。

これにて一件落着。

「なんか、不穏な感じですね。百鬼夜行とか近いのかな」

「そういうお話はまだ聞いていませんが……。峡部さん、また一層強くなりましたか」

秘術で精錬霊素を節約できるようになったから、さっくり倒せるんですよ。とは言えない。

俺は適当にはぐらかすことにした。

「職員さんが救助を呼んでくれてるみたいですし、晴空君たちを引き渡すまで待機しましょうか」

「戦闘は峡部さんの独壇場だったので、警戒は任せてください」

お言葉に甘えて公園のベンチで休むことにする。

ちょうど夕飯の時間だからか、お腹が空いてきたな。

そういえば、この前デート用に調べていた店が近くにある。

源さんも職員さんもお腹空かせてるだろうし、テイクアウトしてくるとしよう。

こうして、不穏な夜は過ぎていった。