軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

働き方

あっという間に一年が過ぎ、中等部2年になってしまった。

陰陽師学園での生活にも慣れ、もはや日常と化している。

そんな変わり映えのない日常に、大きなイベントが放り込まれた。

「なぁなぁOFUDA使ってみたか?」

「まだ。なんか難しそうじゃん」

「俺、任務一個やったけど簡単だったよ。報酬で食堂無料券貰った」

「「マジで?!」」

終業式で告知された新しい制度は、徐々に生徒たちの間で受け入れられつつあった。

それもそのはず。

アプリを開発した人はとても優秀なようで、学園生達が任務を受けたくなる要素が詰まっている。

まず、一般用のアプリと別に学園生用のアプリが用意されており、UIがわかりやすい。子供達がとっつきやすい作りをしている。

さらに学園生限定で、任務を達成するごとに特別報酬が支給される。

「達成報酬10回目の宝箱ってなんだろ」

「VRゲームのお店で遊べるって聞いた」

「俺は好きな素材ひとつ買ってくれるって聞いたけど」

子供でもできる簡単な依頼が多いせいで、金銭報酬はしょっぱい。そこに追加で、子供達が喜びそうなものを達成報酬として用意してあるのだ。

1回達成で食堂無料券。

2回達成で学園カフェの新作ドリンクチケット。

10回達成したら豪華報酬が!

なお、これらはすべて陰陽財閥の系列店で用意されている。

これにより、生徒達はお金以外の目標ができる。

これだけではない。

「あっ、俺の名前出てきた!」

「達成回数2回すげー!」

「討伐依頼達成した奴がいるぞ」

さらに、功績アナウンスによって生徒の競争心を煽る。

アプリのホーム画面に任務を達成した者の功績が表示されるのだ。

友達に自慢したい承認欲求強めな子供は、危険で面倒な実戦に飛び込む。

そして、知り合いが任務達成してることを知った子供も負けじと依頼を受ける。

ログインボーナスを受け取るために毎日アプリを開くので、嫌でも他人の功績が目に付く。

ムーブメントさえできれば、置いていかれまいと次々任務に飛び込むのが日本人の性である。

「終焉之時対策とはいえ、子供も駆り出される世の中は嫌ですね」

「その筆頭が何を言っているのですか」

源さんにツッコみを受けながら、俺達は学園から街へ向かう。

阿部家からお願いされた依頼を片付けに行くのだ。

「初日の依頼は2件です。途中で妖怪が出たらそちらも討伐します」

「わかりました」

好奇心旺盛な子供はOFUDAを使っているが、まだムーブメントには至っていない。

それを牽引するのが精鋭クラスである。

特に討伐依頼の受注を許可されている生徒は少ない。

『討伐依頼をこなすのは普通だよね』という風潮を作るため、俺には脅威度高めな妖怪が割り振られている。

学園生が受けられるのは最高でも脅威度3なので、俺にとっては敵じゃない。

「こんにちは。依頼で来ました。峡部と源です」

「本当に子供が来た。もうこの際子供でもいいから、早く退治してくれよ」

「分かりました。お邪魔しますね」

依頼者はずいぶんテンパっているらしく、後ろで控えていた陰陽庁の職員さんが目に入っていない。

依頼主には霊感があるらしいから、自宅に妖怪が現れて気が動転するのも仕方ないか。

挨拶もそこそこに家へ入り、妖怪がいるというトイレへ向かった。

源さんに視線で合図を送り、手印と詠唱の終わりと共にドアを小さく開けてもらう。

「燃やし尽くせ──焔之札」

ギャォァァァァア!

スルリと中へ飛ばし、妖怪に直撃させる。

この距離は俺の感知範囲内なので、目視するまでもなく妖怪の位置は特定していた。

「倒しました。もう大丈夫です」

今回用意したのは、中等部一年で教わった霊体特化の焔之札である。

室内に影響を与えることなく、妖怪だけを燃やし尽くした。

霊素も節約できたし、他家の札を習っておいてよかった。

「ほ、本当に、あの不気味な奴はいなくなったのか?」

「退治したので、二度と出てきませんよ。ただ、災害型っぽいので、一応陰気濃度を計測した方がいいと思います。オプションになりますけど、やりますか?」

「なんでもいいから安全になるならやってくれ!」

「承りました。職員さん、手続きお願いします」

俺はリュックに入れておいた陰気濃度測定器を取り出す。

すると、警戒を解いた源さんが声を潜めて問うてくる。

「峡部さんがそこまですることはないのでは?」

「どういうことですか?」

「依頼内容に含まれませんし、峡部さんの時間を取ってまでする仕事ではないということです」

脅威度6弱を倒せる陰陽師が、誰でもできる仕事に時間を使うのは勿体無い。そう言いたいのだろう。

実際、陰陽庁の職員さんに任せることもできる。

だがそれでは、俺の理想とする陰陽師のプロフェッショナルとはいえない。

「今回の依頼は妖怪の討伐ですが、要するに安全の確保を求めているわけです。陰気で呪われたトイレじゃあ、安心できませんよ」

源家のような大組織なら、役割分担をするのもありだろう。

だがしかし、峡部家は少数精鋭である。

一人で全てこなしてこそ、一人前の陰陽師だと思う。

「それに、他人に任せて何か危険なサインを見逃してしまったら、完璧な仕事とはいえないでしょう。最後まで責任を持ってやりたいです。もちろん、時間がない時はその限りじゃないですけど」

「なるほど……そういう考え方もあるのですね」

考え方というか、単なる俺のこだわりだけどね。

中途半端にやって後からミスが発覚したら、峡部の名に傷がついてしまう。

有名になり始めた今が大切なのだ。

「6.8。陰に傾きかけてますけど、ほぼ平衡ですね。早期退治できたのが功を奏しました。普段通り使って大丈夫ですよ」

「そ、そうか。よかったぁ……。えっ、印鑑いるのか。シャチハタでもいい?」

職員さんが依頼完了の書類を片付けてくれた。

ここまでサポートしてくれるのは助かる。

子供に仕事をさせるだけあって、この辺りは手厚い。

「任務完了。次へ行きましょうか」

「はい」

本日2件目の依頼も似たようなものだった。

サクッと倒して任務完了。

あとは帰るだけなのだが、依頼主のお婆さんが不安そうにしていた。

「本当に大丈夫なのかしら。孫が怯えていて。『もうお婆ちゃんの家に行きたくない』と泣き叫んでいたんです」

「大丈夫ですよ。僕が保証します」

「本当に、妖怪は出てこないのね」

「はい。出てきません」

お孫さんの発言がよほどショックだったのだろう。くどいくらい聞いてくる。

俺はそれに付き合い、そろそろ10分経とうとしている。

正直もう帰りたい。

「後から出てきたりしないかしら?」

「あの妖怪は消滅したので、復活はしません。陰気濃度も平衡だったので、あれは他所から流れてきたのでしょう」

「大丈夫なのね」

「はい」

「あの」

俺の横で静観していた源さんが口を開いた。

次の言葉は予想がつく。

「先ほどから同じ質問──「源さんストップ!」──なぜ止めるのですか?」

俺は慌てて源さんに耳打ちする。

「これは大人の確認作業なんです。素人ゆえに何か見落としていないか心配で、いろんな角度からプロに質問してるんですよ」

「それにしては同じ質問ばかりですが?」

「繰り返し質問することで、念を押してるんです。お孫さんのことがよほど心配なんですよ」

「認知症の可能性は……」

「陰陽庁に依頼を出せている時点で、認知症の可能性はありません」

あの手続き、大変だからなぁ。

このお婆さんは高齢だけど、しっかりしている。

「これも依頼者を安心させる為に必要な作業だと思ってください。今日の任務は終わりましたし、退屈なら先に帰ってもいいですよ」

源さんには理解できないだろうけど、大人は同じ内容を繰り返すものなんだよ。

若い頃に確認不足で痛い目を見た人ほど慎重になるの!

「いえ、私の任務でもあります。最後まで同行させてください」

「分かりました。もう少し付き合ってください」

この依頼は俺と源さん2人の班として受注している。

責任感の強い源さんが1人で先に帰るはずもないか。

それからもお婆さんのお話は続いた。

「うちの孫は本当にいい子なのよ。でも、妖怪が見えたっていうから心配でね」

「その子には霊感があるようですね。陰陽師学園に入学できれば、自分の身を守れるようになりますよ」

「あなたも通っている、最近できた学校ね。お友達がお祭りに行ったって聞いたわ。あなたみたいにしっかりした生徒さんがいるなら安心ね。どうすれば入学できるの?」

あっ、源さんがそろそろ限界だ。

いくらなんでも話が長引きすぎた。

ここらで切り上げるとしよう。

「陰陽庁の方から案内が送られてきますよ。すみません、次の予定があるので、そろそろ失礼します」

「今日は本当にありがとうね」

こうして、OFUDAを介した任務は完了となる。

俺達の任務達成記録もアプリに表示されることだろう。

俺がアプリを眺めていると、帰りの車中で源さんが呟く。

「非効率に思えましたが、依頼者の方は安堵していました。峡部さんの言う通りでしたね」

「まぁ、ケースバイケースですけどね。余裕がある時は、丁寧に仕事をするのもアリですよ」

「勉強になりました」

勉強ってほどじゃないだろ。

もう少し気楽に生きてもいいと思うんだけど、この子は昔から変わらないからなぁ。

柔軟な生き方ができるようになるといいね。

お婆さんと話したせいか、孫の成長を心配する爺さんの気分になるのだった。