軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

OFUDA

学園に用意してもらった家の、早朝の中庭。

積雪でランニングができない季節ゆえ、今は新しい陰陽術の練習時間に充てている。

ここ数日は新たな切り札の開発に着手していた。

「…………」

芝生の上で、俺は一人瞑想する。

吹き抜ける冷たい風が髪を揺らした。

だが、精神統一している今の俺にとっては些事……。

ヒュゥ〜ルルル

些事……。

ビュゥ〜ゴォォォ〜

「……さっむ」

無理だこれ。

御剣家で滝行をした時もそうだが、俺に精神統一する適性はなさそうである。

どれだけ頑張っても邪念が消えない。

やはり、汚い大人の世界に染まってしまったのがいけなかったのだろう。

前座はうまく行かなくとも、本命の練習はできるのだからそれでも問題ない。

「──身体強化」

声に出すことで意識を集中する。

むむむ。

むむむむむ。

むむむむむむむむ!

「峡部様、朝食ができました。あら、お邪魔してしまい申し訳ありません」

「っ……はぁ〜。もうそんな時間か。いえ、大丈夫です。食べます」

今日も新たな切り札習得には至らず。

とっかかりはあるわけだし、もう少しでいけそうな気もするんだけどなぁ。

まぁ、地道に試すとしよう。

第漆精錬みたいに、いつか壁を突破できるに違いない。

〜〜〜

校舎へ入ると、何やら浮ついた空気を感じた。

そんな俺の疑問へ答えるように、源さんが呟く。

「結果が張り出されたのでしょう」

「期末試験の結果発表って今日でしたっけ」

言われてみればそうだった。

廊下を進んだ先では、掲示板の前に人が集まっている。

「見ないんですか?」

これまでと異なりスルーした俺に、源さんが問う。

あぁ、うん。

「ある程度予想がついているんで、いいかなと」

「そうですね。個別通知を見れば十分でしょう」

もともと源さんは興味がなかったようだ。

全問正解だから見るまでもないという理由だろう。

俺は逆だ。ペーパーテストで5問間違えたからランキング入りしていないと確信している。だから見たくないのだ。

大卒の俺ですら分からない問題が出るとかおかしいだろ。満点の生徒が多すぎるから難易度調整してきたものと思われる。

逆に陰陽術の実技では一位の自信があった。

隣の掲示板に群がる生徒達から声が聞こえてくる。

「また峡部が1位か」

「いや、あれは先生でも真似できないって言ってたし、仕方なくね」

「名家の生まれはずるいよな」

彼らの中では、うちがいつの間にか名家になっているらしい。

歴史だけはあるけど、長らく無名だったのに。

「他の精鋭クラスの試験をたまたま見たんだけどさ、峡部よりは普通だった」

「やっぱあいつだけおかしいって」

「俺達の学年は絶対一位取れないのか……」

彼らが一人前の陰陽師になった時、その認識が広まることによって俺の名声は高まるだろう。

そうすればきっと、峡部 聖の名前を多くの人が覚えてくれるはず。

学園には秘術を習う為に来たけれど、人生の目標達成にも近づけそうだ。

僥倖(ぎょうこう) 、僥倖。

掲示板を通り過ぎ、教室へ向かう途中で、源さんが話を振ってきた。

「峡部さんは“おふだ”について聞きましたか?」

「お札? その感じだと、一般名詞じゃなさそうですね」

源さんは首を縦に振り、新しい制度の名前であると教えてくれた。

「OFUDAは、陰陽庁に集まった依頼のうち、未成年でも対処可能と判断されたものを遠隔で受諾できる新しい制度です。正確にはアプリの名前なのですが、一般人が理解しやすいように通称が同じものになっています」

任務を依頼すると、陰陽学園の子供が飛んでやってくるから、OFUDAらしい。

どこが主導しているかと言ったら、当然阿部家である。

「子供に仕事をさせるとか、危なっかしいですね。その目的はなんとなく想像はつきますが……」

「峡部さんがそれを言いますか?」

いや、俺は実質大人みたいなものだから。

たしかに幼稚園時代から仕事してるけどさ。

「詳細については、終業式で説明されるはずです」

終業式で全校生徒へ通達した後、世間にもOFUDAについて大々的に喧伝するらしい。

その前に、精鋭クラスの生徒には事前告知するという話も聞こえてきた。

そしてなぜか、俺には阿部家当主から直々にご説明があるとのこと。

昨日の今日で総務の人に案内され、理事長室へ向かうことになった。

〜〜〜

阿部家当主 阿部 黎は、相も変わらずカリスマ性の輝きを纏っていた。

来客用のソファーを勧められ、定型的な挨拶を交わす。

「突然呼び出してすみませんね」

「いえ、放課後は予定もなかったのでお気になさらず。今日は学園にいらっしゃったんですね。お忙しいでしょうに」

OFUDAの件に限らず、この人はありとあらゆる計画に携わっている。

日本に変革をもたらしたのは伊達じゃない。

終焉之時に備える為と聞いているが、常人なら志半ばでぶっ倒れるような業務量である。

そんな人がわざわざ時間をとって呼び寄せたということは、それなりの理由があるということで。

「君にお願いがあります。OFUDAが正式リリースした際に、いくつか依頼を受けていただきたいのです」

精鋭クラス全員にも同様のお願いをするが、俺には難度高めな依頼を回したいらしい。

上が積極的に依頼をこなす姿を見せることで、陰陽師科の生徒に参加してもらいたいのだとか。

俺としては何も問題ないが、この機会にいろいろ聞いておきたい。

「いくつか質問よろしいでしょうか」

「どうぞ」

「未成年に仕事は早くないですか? トラブルに巻き込まれたりとか」

依頼者に難癖をつけられたとき、子供じゃ対処できないだろう。

その他にも問題はたくさんある。

国の制度として決まったのだから、対策は考えてあるのだろうが……。

「君からその言葉を聞くことになるとは思いませんでした。国会でも同様の質問をされましたが、対策は万全です。任務中はスマホで録音し、AIによるサポートを行います。人間のサポートが必要か否かの判断もこのシステムによって可能です」

いつの間にAIってそんなに進化したの?

あっ、陰陽財閥が独自に開発したと、なるほど。

「目的はご想像の通りです。陰陽師は妖怪と戦う時にこそ成長します。来る終焉之時に備えて、必要な処置です」

その他にも理由はあった。

ここ数年で妖怪の脅威度が上昇しており、各地の陰陽師がキャパオーバーを起こしているらしい。

猫の手も借りたいということで、低難易度の任務は見習い達に任せたいのだという。

少し前まで仕事が少ないと嘆いていたのに、未来はわからないものである。

「だとしても、討伐任務は危険じゃないですか? 陰陽庁の審査があるとはいえ……」

「討伐任務のみ、大人が同行します。陰陽師ではありませんが、霊感のある陰陽庁の人員です。最悪生徒を連れて逃げることはできます」

めちゃくちゃ人員が必要になりそうな施作だが、そこは技術によってカバーできたらしい。

「ある程度数を揃えたレンズで、霊感のない者でも妖怪の姿を捉えることができるようになりました。これにより、任務の事前調査が格段に早くなります。また、陰陽庁の人員も手が空きました」

陰陽財閥の財力を惜しみなく使い、制度の実現に向けて動いていたようだ。

そして、学園自体がその制度の為に既に動いていたらしい。

「期末試験の結果をもとに、ランク付けをします。学園生活を通して各個人の適性も見て、受けられる依頼を決めています」

なんか異世界の冒険者ギルドみたいな制度だったらしい。

本当に、世の中が激変していくなぁ。

俺がそんな感慨を抱いていると、理事長は苦笑しながら言う。

「先ほどからの質問。まるで、大人のような視点ですね」

ギクッ。

いやいや、バレるはずがない。

源さんみたいなナチュラル天才もいるわけだし、ただの賢しい子供ってことで誤魔化せるだろ。

一通り疑問を解消したところで、俺は承諾の返事をするのだった。