軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園祭二日目

学園祭2日目。

今日は学園部外者も参加することができる。

いまだに『陰陽師とはなんぞや』と疑問を抱く一般人がこぞって参加するようだ。

特に、近所に謎の巨大施設が作られた京都の人々は大半が集まり、交通網に影響を与えていると、ニュースで言っていた。

この機に乗じて、スパイやよからぬことを企む輩も紛れ込んでいそうだが、その対策をするのは学園側の役目である。

時折正門の方向からパトカーの音が聞こえてくる。日本もずいぶんと物騒になったものだな。

もちろん、学園祭に参加するのは一般人だけではない。

学園生の親たちが、初めての寮生活を送っている子供と会うために、軒並み京都へ集まっているようだ。

その中にはもちろん、俺の家族も含まれる。

『Hey BOSS!』

「お前が先陣切るのかよ」

思わずそんな感想が漏れてしまったが、彼も立派な峡部家の仲間である。これまでずっと実家の周りで妖怪を退治してくれていた。

頼もしい仲間である。

ステージ裏で準備しているとメッセージしたところ、ここまできてくれたようだ。

「聖、元気にしていましたか?」

「先々週帰ったばかりだよ。何も変わらないって」

お母様の抱擁からは逃れられない。

普通の子供なら「友達の前でやめてよ」と怒り出す場面だが、俺は堂々と抱擁する。

こうして家族と触れ合える機会など残り少ないのだから。同級生に見られるくらい大したことじゃない。そもそも俺に興味関心を向ける人間などいない。

「先週は帰ってこなかったじゃないですか。お母さんとしては1週間でも姿を見れないと心配です」

「ごめんね。忙しかったから」

主に詩織ちゃんが裾を手放してくれなくて。

さらに、俺とお世話係さん限定の特別ダンスショーを開催されてしまっては、途中退席できるはずもなく。

九尾之狐討伐で毎回会う親父はさっぱりしたもので、すぐに次のタスクに気を取られていた。

「開会式が始まる。席を取らねば」

「精鋭クラスの保護者は特別観覧席を用意されてるから、受付に行くといいよ。企業ブースには優也向けの展示もあったよ」

「うん、それ楽しみにしてたんだ!」

精鋭クラスの優遇は至る所に用意されている。

陰陽財閥の企業ブースでも並ばなくていいらしい。

学園祭に企業ブースがある時点で可笑しな話だが。

家族との交流を終えたところで、進行役がアナウンスをする。

「皆さん、あと30分で開会式が始まります」

「準備はこんなところかな。あれ? 安倍さんどうかしましたか?」

実演会の準備をしている明里ちゃんだが、まだ終わっていないようだ。

秘書さんに手伝ってもらいながら、札に霊力を込めている。

「峡部さん……少し、霊力が足りないかもしれなくて……」

「それは大変ですね。手伝ってもいいですか?」

「えっ、でも……」

明里ちゃん、かなり無理してるな。

普段よりも言葉遣いが幼くなっている。年齢相応ではあるけれど、取り繕う余裕がないほど霊力が減っているようだ。

もともとあかりちゃんは霊力が少ないことを気にしていたけれど、朝から霊力不足に落ちるなんて、何かあったんだろうか?

「こっちの札は俺が担当します。演出も任せてください」

「そんな、峡部さんも自分の出番で手一杯では……」

「ふっふっふ、これでも私は、貴女のお兄さんと並ぶほど期待されている陰陽師なんですよ。少しくらい役割が増えてもどうってことありません。演出だって一緒に考えたじゃないですか。遠慮なく任せてください」

努めて明るい調子で説得してみた。

申し訳なさそうにお願いしてくる彼女と打合せして、ついに実演会が始まる。

自分のパートは無事終了。

すぐに明里ちゃんのパートが回ってくるので、俺も待機する。

「音楽が切り替わるタイミングで、ほい」

俺は舞台裏から補助することにした。

昨日やっかみで聞いたセリフを参考に、黒子として札を操り演出する。

札から水を生み出し、そのまま宙に浮かせるだけ。それでも一般人からすれば何をしているのかわからない、不思議なショーになる。

「「「おぉ〜」」」

「「「わぁ〜」」」

その他の演出は明里ちゃんがなんとかこなしてみせた。

辛そうな顔ひとつ見せず、よく頑張ったね。

安倍家のお姫様として恥ずかしくない演出だった。

保護者参観的な気分になり、戻ってきた彼女の頭を撫でたくなったが……そこまでの関係性は構築できてないんだよなぁ。

俺は、テレビ局のインタビューを受ける安倍兄妹を少し離れたところから見守ることしかできない。

「お話よろしいでしょうか! 陰陽術の実演会、とても素晴らしかったです!」

「ありがとうございます。精鋭クラスの皆んなが練習の成果を120%出すことができました」

「晴空様がクラスをまとめていたからこそですね! 明里様も素敵でした! 水が浮遊する光景に観客はうっとりしていましたよ」

「あ、ありがとうございます」

おい、アナウンサー! 今そこはデリケートな部分だから!

昨日はちゃんと一人で出来てたけど、今日はたまたま俺が手伝っただけだから!

インタビューが終わり、後片付けの時間が始まる。

さっきは時間がなくて確認できなかったけど、朝から霊力枯渇するとか、何があったんだろう。

「昨夜、お父様に占術を使うようお願いされまして」

「何か緊急事態があったのですか?」

「ごめんなさい。許可なく占術の結果をお話することはできないのです」

安倍家の占術は天照大御神の加護によるものであると聞いている。

その結果を軽々に広めるわけにはいかないのだろう。

ただ、安倍晴明が学園祭に来ているということは、超緊急事態というほどではないってことか。今もインタビュー受けてるし。

「何はともあれ、無事に終わってよかったですね」

「はい。峡部さん、今日は本当にありがとうございました」

「いえいえ、婚約者のピンチを助けるのは当たり前じゃないですか」

「……はい。ありがとうございます」

うん、今日のコミュニケーションは満点だったんじゃないだろうか。

将来的にも良い思い出を作れたと思う。

さて、この後は晴明様へ挨拶したり、お仕事頑張るとしよう。

その後は家族と学園祭を回れるから、 もう一踏ん張り(・・・・・・・) だ。

〜〜〜

強そうな人間が増えている期間は、九尾之狐も学園から距離を置いていた。

お祭りが終わったのを確認して、九尾之狐は再び明里の家に侵入する。

今宵も夢の中で心の隙を探っていく。

その内容はついに、最近の出来事へ移っていった。

『精鋭クラスの出し物は陰陽術の実演会でしたね。もう練習は始めてますか?』

『いえ、自分のパートをどうするか悩んでいます』

『それなら、今度一緒に練習しませんか。陰陽術については自信があります。いいアドバイスができると思いますよ』

聖は父親である安倍晴明から期待されている一人であり、明里に負けず劣らず忙しいことを知っている。

しかも父親から聞いた話が本当なら、脅威度6弱を一蹴できる実力を持ち、陰陽師ならば誰でも教えを請いたいと願う相手である。

そんな聖が時間を取ってアドバイスしてくれる。

『ご迷惑では?』

『婚約者が困っているのですから、こういう時くらい頼ってください』

『……では、峡部さんの時間の合う時に、お願いしますね』

占術に特化し、その他の才能に乏しい明里は、聖の時間を奪ってしまうことに申し訳なさを覚えていた。

聖の知識を借りたおかげで演出も見栄えが良いものになり、実際に予行演習でも先生に褒められる出来栄えだった。

そして迎えた本番。

『遠慮なく任せてください』

ここですら、聖の力を借りてしまった。

彼の好意に甘える自分が卑しく思えてしまう。

明里の抱える負の感情に名前をつけるとしたら“後ろめたさ”である。

オオォォォォン!

見つけた。

ついに見つけた。

九尾之狐は明里の心の中に付け入る隙を見つけた。

ここを起点に心を操り、手駒にする。

──九尾之狐の暗躍が始まる。