軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

円とジョン

学園祭は盛況のうちに終わった。

家族のみんなも楽しめたようだし、何よりである。

精鋭クラスということで、列に並ばなくてよかったり、割引されたり、やたら優遇されたので、学園には感謝している。

だからというわけではないが、俺は一人残ってもらったジョンを連れて研究室へ向かっていた。

『それで、会ってほしい相手ってのはここにいるのか?』

「うん、どうしてもってお願いされて。悪いんだけど、可能な範囲で協力してあげて」

『OK。俺で力になれるなら、協力は惜しまないぜ。陰陽師の役に立つ研究をしているんだろ?』

「博士はね。円さんは……うーん、どうなんだろう」

以前、術具店の注文情報でジョンが式神ではないと見抜いた円さん。

その時から彼はジョンに会いたがっていた。

今回ジョンが学園祭へ来ると知り、アポイントを求めてきたのだ。

『なんだ、その反応は。俺は何の協力を求められているんだ?』

「そうだなぁ。ジョンには知る権利があるよなぁ」

俺も同じ問いを本人へ投げかけた。

てっきり俺と同じく幽霊部隊を作るための研究だと思ったのだが、違った。

その答えは、なんとも私欲に満ちたものだった。

「幼い頃に亡くなった母親の霊と会話したいんだってさ。可能ならジョンと同じ肉体を作りたいみたい」

亡くなった母親は幼い息子が心残りだったのか、現世に留まり続けているらしい。

円さんには霊感があり、意識のない母親の幽霊をずっと見てきたという。

そんな母親の幽霊と交流をしたい。円さんが研究者を志した理由の9割はこれらしい。

残り1割は実家の術具店繁盛に繋がる研究がしたいのだとか。

いつも飄々としている人だから、意外な理由だった。

『あっ、聖君、今マザコンだって思ったでしょ。ちょっと否定できないけど、子供が母親に会いたいと願い続けて、気づいたら大人になっていただけだよ。映画にしたら間違いなく感動巨編だよ』

顔に出てしまったのか、そんなセリフが続いた。

術具店の店主が無愛想なのも、妻との死別が関係しているのかもしれない。

『そうか……生憎だが、俺の記憶は曖昧なままだ。あまり力になれそうにないな』

記憶はもとより、ジョンが意識を取り戻した切っ掛けもハッキリしていない。

円さんの望む答えが得られるかは不明だが、とりあえず会わせるしかないだろう。

勝手知ったる研究室棟へ入り、土間研究室の戸を叩いた。

「失礼します。ジョンを連れてきました」

「待ってました!」

部屋に入った途端、円さんが駆け寄ってきた。

ジョンに握手を求め、早口で挨拶を始める。

「やぁやぁ、よく来てくれたねジョン! 俺は学園で研究員をしているマドカ。君を歓迎するよ。そこに掛けてくれ」

全部英語である。円さんは英語が堪能だった。

上場企業に勤めていた美月さんといい、仕事ができる人は英語もできるのだろうか。

俺はいまだにジョンとの会話は翻訳サイト頼りなのに。

『既に知っているようだが、ジョンだ。今日はよろしく頼む』

「いやぁ、生きた人間と遜色ない幽霊に出会えるなんて光栄だよ。早速だけど、いくつか質問させてくれるかな」

円さんはジョンに夢中な様子で、俺のことは見えていないようだった。

インタビューが終わるまで、実験しながら時間を潰すとしよう。

〜〜〜

聖とジョンが退室した後、円はホクホク顔でインタビュー内容をまとめていた。

「どうだった?」

「いやぁ、聖君に関わる幽霊だから普通じゃないとは思っていたけど、予想以上でした」

「そうか」

自分で聞いておきながら、博士の反応はあっさりしたものだった。社交辞令で聞いてあげただけ、という背景が透けて見える。

そんな博士の反応に、円は不満気に言う。

「ちょっと前まで意識のある幽霊を世界中探し回ってたのに、荒御魂の件で完全に興味を失ってますね。……ジョンは現世への干渉力が他の幽霊と桁違いに高いです。さすがは峡部家といったところでしょうか」

「それは当然だ。やはりあの方は峡部家初代当主の再来── 境(さかひ) の 理(ことわり) を 掌(つかさど) る者に違いない! 眷属もまた常識の境を逸脱していて当然! あぁ、なんと素晴らしい!」

博士は興奮した様子で語り始めた。

円の経験上、博士はこうなるとしばらく止まらない。

「まーた始まった。博士の単独ライブ。それにしても、あの筋肉はどうやって再現したんだろう! 感触的に水母系統の素材が近いけど、あれは水分量の管理がシビアだからなぁ。竹系統とは思えないし……ぁあ〜包帯の中を見てみたかったぁ!」

触手は聖にとって切り札の一つであり、これを明かすことはできなかった。

骨や声帯などは聖が実物を見せてくれたのに、筋肉だけは教えてくれない。

円は今回の面会でそれを解明したいと思っていたが、彼の知識でも暴くことはできそうになかった。

握手した時の感触を思い出しながら、円は的外れな予想を巡らせる。

似た者同士、それぞれの世界にしばらく浸り、先に落ち着きを取り戻した博士が忠告する。

「荒御魂の件で次はないと言われたからな。幽霊を逃すなよ? もし見つかれば、学園を追い出されるかもしれん」

「俺の母親をペットみたいに言わないでくださいよ。大丈夫です。母さんはいつだって、家で俺の帰りを待っていてくれていますから」

幼い頃より求め続けた母親の愛。

普通ならいつか手放すはずのそれを、円は今なお褪せることなく求め続けている。

博士の非人道的な実験だろうと、自分の目的に役立つなら笑顔で協力してきた。

彼の母親へ向ける感情は、もはや言葉で表すことができないものとなっていた。

「はぁ、他の研究も同じくらいの熱量で取り組んでくれるとありがたいのだがね」

「博士にだけは言われたくないですよ」

2人の歪な研究者は、それぞれの目的に向かって才能を奮っていくのだった。